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――次の目的地はここから近いそうなので、徒歩で向かいます。


ドレスは着慣れていますが、浴衣などはあまり着る機会が無く……セットで渡された雪駄なども同様に、動き辛いだろうと思っていました。

が、それは杞憂で。

まるで何も着けていないかのように、いえ、『何も着けていない時以上』にその足取りは軽やかです。お姉様も同じ気持ちでしょう。

この場所に限ってはそこまで目立つ格好でもないのに、視線が集まっているのは気になりますが……(皆、彼を見ている可能性の方が高いですが)。


「ほんと、ナヨさんの孫っていうのは凄い役得なんだよ二人とも。あの人の創るモノは『業界』でも一目置かれてるんだ。そのハンドメイドの浴衣だって価値にしたら『魂何百人分』になるか分かったもんじゃない」

「理解出来ない単位を口にしないで下さいまし」「ま、まぁまぁ……お土産に貰ったかりんとう、食べる?」「……頂きますわ」

「それ、去り際にくれたお菓子の詰め合わせだよね、『二人が前に美味しいって言ってたから』って言葉を添えてさ。うわ、お菓子も『裏の王族』に献上されるレベルの超高級品じゃん」


よく分かりませんが、昔からおばあさまはこれらを山盛りにして出して下さったので、手頃なものとばかり。


「にしてもホント、おばあちゃんてのは孫が一度『おいしい』って伝えると毎度それ用意するよね。別に大好物ってわけでもないのに。どこも同じなんだなぁ」

「何なんですのその決めつけは……」「き、妃さんのお婆様も私達のと同じで、妃さんにお優しい方なんですねっ」

「そうかなぁ、愛情表現が不器用な人だとは思うけど。おばぁったら僕が小さい時、一度美味しいって言った【人魚の生け作り】をそれから何度も出してきてね。君らと違って同居してるからほぼ毎日よ。しばらくナマモノはウンザリになったなぁ」

「……あまり想像したくない食卓なのですが」「た、確か人魚の肉って『不死』の効果があるんじゃ……」

「そういう『状態異常』は基本無効化出来るからなぁ、フンフーン」


拾った枝を子供のように振りながら先行する彼。何故そこまで上機嫌なのか……わたくしは先程からの非現実ぶりに心が休まりません。

そう、非現実的。

皆の前で、口では否定しているわたくしでも、流石に受け入れつつあります。

いえ……既にわたくしは――あの日彼に助けられた時から――受け入れていたのでしょう。

それどころか、ウチのおばあさまの存在によって、わたくし達自身もその『非現実の仲間』という可能性すら出てきました。

そんな思考を、彼はまるで読んだかのように……。


「しっかし、蓋を開ければ君達も『こっち側』だったとはねぇ。まぁ、僕と知り合いになれる相手なんて『こっち側』オンリーなのは昔からだけど」

「……今更ですが。『取り繕う』のはお辞めになったんですの?」「あっ、天女ちゃん、それは……」

「どゆこと?」

「今日までわたくし達の前では『非現実』だの『自分は凡人』だの言っていたではありませんか。だと言うのに、このような場所と縁が深かったなんて。当時から逆に不自然な口振りとは思っていましたが」

「『このような場所』?」

「白々しい。コンセプトをお忘れに? 設定では、ここは日常とは真逆な非日常『異世界テーマパ


「――天女ちゃん、それ以上は黙った方が懸命だよ」


ッ!?」

反射的に背後を振り返ります。が、誰もいません。今の声は……。


「ぅん? いま封の声しなかった?」「え? き、気付きませんでした……」


お姉様には聞こえずとも、彼は気付いた様子。

警告。再び、彼女はわたくしに警鐘を鳴らしたのです。


『彼の側では目立った真似をするな』と。


その行為が、余計に、プライドの高いわたくしを『意地』にさせるとも知らずに。

彼女は、恐らく、彼を『真実』に近付けたくないのでしょう。

いえ。彼女どころか、『テーマパーク全体』が彼に隠し事をしている。

――何故、それをわたくしが知っているか。『視たから』、としか言えません。


「ティロン」

「え?」「あっ……」


何故いま、突然に、彼は口でベルのような効果音を?


「……成る程、ナイスだ天女ちゃん。『少し理解わか』ったよ」


得心がいったように微笑む彼に ゾクリ―― 次の瞬間には別人のように『存在感が増した』彼に、わたくしは(恐らくお姉様も)肌が粟立ちます。

余計な事を言ってしまったという少しばかりの後悔と、『諦め』。

【お姉様】はテーマパーク関係者同様、徒らに事を荒立てたくない様子ですが……

どちらにしろ。わたくしが口を出していなくとも彼は『答え』に辿り着いたでしょう。

遅いか早いかの違い。今の彼には、それだけの勢いがある。


「ま、今はそんな『メインシナリオ』放っておいて、パーっと『サブシナリオ』を楽しもうぜっ。丁度、テーマパークの華である『アトラクションエリア』も近いしっ」

「……次の目的地はそこでは無いのでしょう?」「は、早く行かないと『怒られ』ませんか?」

「いーんだよ! ババアは待つのが得意だからなっ」


勝手な彼。一方で、この奔放さが魅力でもあるのでしょう。


……はて。不思議な事に。


数時間前まで『ジクジクと燻っていた気持ち』は、今はスッと無くなっていました。


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