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城門を潜り、『城下町』に足を踏み入れました。町はとても賑わっています。
町の印象……一言で表すなら、西洋、でしょうか。
石畳の歩道、ロマネスク建築を思わせる厳かな家屋、活気のある屋台。
欧州へは年に二度ほど旅行で行きますが、その時の事を思い出します。
「ま、まさに古き良きRPGに出る『なんちゃって西洋』な町並みですっ(フンス)」
「おっ、分かってるねー仙女ちゃん。ここは異世界にある実際の城下町を再現した感じらしい」
お姉様と彼が意気投合したように盛り上がっています。わたくしには付いていけない会話で、少し疎外感を覚えてしまいます。
……いえ、ここで弱気になってはダメです。わたくしには今回、目的があるのです。
わたくしに芽生えた、ジクジクと燻る『この気持ち』の正体を、確かめる目的が。
……かと言って、まず、何からすればいいのか分かりませんが……(スンスン)ぅん?
甘い、香ばしい、爽やか――様々な香りが鼻を擽り、自然とそちらに顔が向きます。
「何か食べる?」「ウヒィ!? と、突然耳元で囁かないで下さいましっ」「ペロッ」「ンァ! な、何故舐めるんです!?」
全身に電流が走り、また腰が砕けそうになって「よっと」 元凶に支えて貰いました。
「何から食べる? クリーム系? しょっぱい系? 爽やかミントアイス系?」
「舐めたのは何だったんですの!?」「き、妃さんのする事に意味を求めちゃだめだよ天女ちゃん」
べ、別に食欲に左右されたわけではありませんが、見た所、日本や海外でも見た事が無いフードばかり……竹取の跡継ぎとして、後学として……(ごくり)。
プリンセスソフトクリーム……千年に一度咲く【神姫の花】から【プリンセスビー】が集めた蜜を練り込んだこがね色の魅惑のアイススイーツ。一度舐めれば高貴で未成熟な甘さが広がり肌艶は穢れを知らぬ少女のようにぷりんと瑞々しくなるという。
ファフニールの唐揚げ……二度も世界を終わらせた獰猛な炎の竜を捕まえカラリと業火で揚げたルビーのように真っ赤な一品。一口かぶり付けば燃えるような辛さが広がり汗も止まらなくなるがデトックス効果と滋養強壮で身体の細胞は一気に活性化し腰の曲がった老人でも全盛期の肉体を取り戻し走らずにはいられなくなるという。
世界樹のグリーンアイスティー……万物を生み出す母なる樹の葉から煎じたエメラルド色の霊茶。『原液』は全ての病を治し喪われた肉体も再生させ命すら蘇らせられる効果があるがそれを何千倍にも薄めた本品はスーッとする爽やかさと喉越しで気持ちが前向きになり疲れや悩みを吹き飛ばすという。
「な? イケるだろ?」
「もぐもぐ……ごくごく……もぐもぐ」
「あ、天女ちゃんが返事もせず夢中でハムスターみたいにホッペをパンパンに……肌もプリプリになってます……」
な、なんという衝撃でしょう!
初めての甘さ! 初めての刺激! 初めての爽やかさ!
世界の凡ゆる高級料理や珍味を口にして来ましたが、これほどの衝撃は初めてですっ。
常識が覆るまさに未知の味! それがこの世界にはまだまだある!
「ち、因みにこの食材は、どこから仕入れているのです? 外のこうだいな領土から?」
「まさか。ミミズ一匹だって国の仲間には手を出さないさ。世界樹はウチ産だけど、基本『異世界』からだよ」
「こ、ここの魔族の方々も異世界からいらしたのですよね……その技術を使って、他の世界で調達、という事です?」
「そ。あちらさんからしたら侵略者以外のナニモノでも無いけど、そこはほら、弱肉強食ってルールはどこも変わらんし。ま、乱獲はしないし、一つの異世界には基本一度だけの侵略で終えてるよ」
「な、成る程……しかし、あちらからすれば、一矢報いる機会すらないのですね……まさに『魔王の所業』です」
「だから、天女ちゃん。食べ物は基本日替わりの一期一会。それだけのGがあれば毎日別の味を食べ放題だねっ」
「ハッ(ごくん)ふ、ふんっ。人を食い意地張ってる女だと思わないで下さいましっ」
「お、そうだな。――じゃ、次のとこ行こっかー」
「信じていませんわね!?」「こ、この食べっぷり……昔を思い出すなぁ」
皆、なぜわたくしをそこまで食いしん坊にしたがるのでしょう。
「モグモグタイムはまた後に作るとして、次は……あっ。こことかどうかな?」
歩きつつ彼が立ち止まり、指差した場所。
――そこは、如何にもな【雑貨屋】さんでした。