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島に着き、鳥居を潜り……順路的に一般客が次に訪れる場所は大抵この【城門前】。
門の奥にはショッピングエリアが広がっているわけだが、ここがパークで最も人が集まる場所だけあって……降って来たドラゴンとその背に乗る僕達に多くの視線が集まった。
ま、普通の客にはこんなドラゴンフライサービス無いからね、羨ましがられるのも仕方ない。ドラゴンの見た目に魅了されてるだけかもしれんけど。
っと。一般ピーポーの目なんざ今はどうでもいいな。
「ハハ、そんじょそこらのフリーフォールよりスリルあったでしょ?」
「「…………」」
すぐに黙り込むシスターズだ。さて――「よっと」 腰が抜けたらしい姉妹を両脇に抱えてドラゴンから降りる。
「ありがとねパ……ドラゴンさん」
ドラゴンは頷き、フッと、音も無く消えた。
「……え、え?」「そ、そんなっ、 一体どこにっ?」
「瞬間移動、では無くって、ただ『時間を止めて』移動しただけよ」
「「…………」」
「歴代の王族であるドラゴンは皆『時を操る力』を持っている。そのくらいわけないさ」
「わけないさ、と言われても素直に信じられませんわ……手品でよくあるミスディレクション(視線誘導)をして上手く姿を消した? そも先程のドラゴンという生き物もロボットで、最新鋭の航空力学を応用して……」「あ、天女ちゃん、流石にそろそろこの世界を受け入れないと……」
「まぁ、【あの人】がそのまま静かに消えるとは……あ、来た来た」
僕が視線をやると、二人も釣られてそちらを見た。
トコトコと、こちらに歩いて来る一人の――いい歳してダボダボのシャツとサルエルパンツというエスニックでラフな格好をした『長い銀髪』の――大人。
その『完成された見た目』に、姉妹の目が奪われる。ぐぬぅ……タラシの神め。
「あ、あの方は……」「この世のものとは思えない神秘的な雰囲気の方……しかしどこか『既視感』が?」
「やぁお嬢さん達、ようこそプランテーションへ。招待に応じてくれてありがとうね」
「お、お招き、ありがとうござますっ」「あの、間違いでしたら申し訳ありませんが、彼の『お姉様』で?」
「そうわよ」「ネーチャン!」
僕らは抱き合う。微笑ましい家族のシーン。
「ううむ、姉妹にしか見えませんわね」「い、いや天女ちゃん、この人はお姉さんじゃなくって……」
と。偶然そこに通り掛かる、作業服のテーマパーク従業員数人。
「あれ? 専務とカー坊じゃん?」「あの『父と子』が二人でいるとか碌な事にならねぇな」「巻き込まれる前に離れようぜ」
「「…………」」
「パパでした! (キラッ☆)」「トーチャン!」
僕らは抱き合う。微笑ましい父息子のシーン。
「……あ、ある意味、性別を超越した納得の容姿ですよね」「では、この方がお父様が言っていた……?」
「そう、妃 瓏です、よろしくねっ。ご存知君らのパパとはフレンズさっ。すでに聞いてるだろうけど、ウチの篭ちゃんが君らに粗相したって事で、今回はお詫びとしてご招待したんだ。空中飛行は楽しかったかい?」
「楽しかったに決まってるさパパンっ。いいなーパパンは、女子高生のお尻を『背中で堪能』できてっ」
「ハハッ、篭ちゃんも『変身』出来たら堪能出来るぞっ」
「あー、つまりは、先ほどのドラゴンの正体は瓏様だったという『設定』ですのね?」「し、失礼だよ天女ちゃんっ」
「――さて。おっさんがいつまでも若者に混じってキャピキャピしてるのもアレだし、そろそろ行くね。はい、コレ」
と、パパンは姉妹それぞれに【ある物】を渡す。
「これは……腕時計?」「す、スマホのような機能も付いてるデジタルウォッチですね」
「うん。それは入場者全員に配ってるんだけど電話機能とかカタログの電子版とか入ってるから持ってて損は無いよ。あと、園内の通貨である【電子マネー】のやり取りも基本それでやるから無くさないでね。ま、盗まれたり無くしても他人には使えない仕様だけど」
「確か……『G』という特殊な通貨でしたわよね」「あ、アトラクションの利用や買い物、食事や宿泊費と全てに必要なんですよねっ」
「そ。で、『皆には』最初から一千Gを配ってる。これさえあれば、一か月、宿や飲み食いには困らない額だけど、不思議なアイテム入手や体験がしたいとなるとゲームとかクエストで稼がないとだ。現ナマとGは交換出来ないから表じゃ金持ちでもここでは裸一貫、のし上がりたいなら実力者になるしかない。二人とも、欲しいものがあったら色々チャレンジしてみてねっ」
「それじゃ!」
とパパンはクールに去って行く。僕の目指す理想的な男の背中だぁ。
「……嵐の様な方でしたわね」「さ、流石は妃さんのお父さんです……ぅん? こ、これは!」
「どしたの仙女ちゃん。もしかしてGがチャージされてない?」
「ぎゃ、逆です! 『百万G』も入ってます!」「わたくしのにも、ですわね。何かの間違いでは?」
「ああ、多分パパンが色付けてくれたんだろう。僕が『初めて連れて来た友達』だから、テンション上がってるんだよ」
「は、初めて……」「に、しても贔屓しすぎですわよ。これほどまでに融通を利かせられるなんて……確か瓏さんはここの専務とおっしゃってましたわね。何だかんだで貴方も、いいとこのお坊ちゃんだったというわけで」
「いんやー? 家とか普通の一軒家だよ。暮らしは庶民そのもの。――さ、僕んちの事情なんてどうでもいいべ。色々案内したげるよ」
危ない危ない……このまま話し込んでたら二人ともパパンの虜になっちゃうよ。
パパン――あの人は、僕が欲しいものを全て持つ人だ。見た目は似ていても、中身は完全な上位互換。
さっきだって、さらっとさりげなく、僕はパパンの『メニュー』を見ようとした。
けれど。結論から言えば『見られなかった』。
メニューは出た。が、全ての項目に『秘密』の文字があり、暴く事は叶わなかった。
まるで、僕の能力を全て見透かしている様な。あの人なら普通にある話だ。
『自身より上位の存在には通用しない』
まぁ、想定の範囲内。
パパンの事だから、中を覗けば『面白いモノ』が見られると思ったのになぁ。