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――そうこうしているうちに(走行だけに)車は橋の端まで辿り着き、島の入り口である【巨大鳥居】前に。
「ここから先は守衛さん達にチケット見せなきゃ通れないんだけど(ウイイン)おーい」
僕が窓から顔を出し手を振ると、守衛さんらはこちらにペコリと頭を下げ、道を開けてくれた。
「さ、メイドさん、進んで進んで」
「……疑問に思っていたのですが、貴方はこの先ではどのような立ち位置なのです? 親が関係者、というのは聞きましたが、それだけにしては……」
「態度がデカイって? ま、すぐに分かるよ」
発進した車は、鳥居をくぐる。と、同時に、車のカーナビ画面が真っ黒に。
「あ、あれ? すいません。故障、ですかね?」
「や、違うよメイドさん。鳥居から先は『異界』でね。ここはもう『日本じゃ無い』」
「は、はぁ……」
「それは何かの暗喩ですの? まぁ、そういう『演出』なのかもしれませんが……おや? スマートフォンも圏外に?」
「スマホもネット使えなくなるよ。ま、後で利用者に『園内限定』のタブレット配るから連絡取りたいならそれ使って。『外』との連絡は取れなくなるけど」
「成る程……『外の世界を忘れてもらう』という演出と考えれば多少強引ですがアリですわね」
「(ボソッ)……演出じゃないんだけどなぁ」
「うん? 仙女ちゃん、さっきから静かだけどお腹でも痛い?」
「い、いえっ? どこから周ろうかとカタログを眺めてたんですっ」
「そこまで楽しみにしてるだなんて子供みたいだな。ま、予想以上のモノは約束するよ」
それから、僕が誘導した駐車場に車は止まり、僕らは降りる。
「では、明日の昼過ぎに迎えに来ますので」
そう言って、メイドさんの車は走り去った。
「……一泊二日、との事でしたが、カタログを見る限り、数多くの魅力的な施設を一日で周るのは難しそうですわね」
「そうかな? この異界内は『時間の流れが遅い』から、外では一日でも中じゃあ『ひと月』だよ?」
「……成る程、それが本当であるならば、着替えはもっと持ってくるべきでしたわね」
「別にここで全て揃えられるから気にしないでいいよ」
「皮肉で言ってるんですのよ!」
「なんだい、カタログにもそう書いてたってのに。まだここが異界だと信じられないんだね? ま、そんな君の常識や固定観念はすぐに覆されるよ」
「い、一体何を……?」
怯える天女ちゃんの顔はやはり良いものだね。――と。丁度いいとこに『居た』な。
「え? な、何か足元がモゾモゾと……きゃっ!?」
ピョンと飛び跳ねる仙女ちゃん。
そこには――プルプルと震えるサッカーボール大のソーダゼリーのような生き物が。
「な、何ですのコレは!」
「どう見ても【スライム】でしょや。知らない? 仙女ちゃんは知ってるよね?」
「は、はい……ゲームでは定番のモンスター、ですよね?」
「も、モンスター? あ、ああ、成る程。そういった定番のキャラクターも、世界観造りの為のロボットか何かなのですね?」
「よっと(ヒョイ)この子がロボットかどうか触って確かめてみな」
「ええ……(プニュ)若干生ぬるいですわっ」
「(プニュプニュ)あ、あったかい葛餅みたいな感じです……」
「おふっ、台詞だけ聞くとエロいげふんげふん」「ピキ!(ピョン)」「「キャッ!」」
突如、プニプニされていたスライムが跳ね飛び、僕の頭の上に。
「あ、言い忘れてたけどこの子メスだから女の子に触られるの嫌がるよ」
「「ええ……」」