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「自分語りするけど――僕はここ数日、ほんとうに充実しててね。ボヤけた色だった日々が色を持ち始めたというか、夢から覚めたような爽やかな気分で。『周囲の仲間達』以外との交流も無かったから、今は目に映るモノ全てが新鮮で」
「そ、存在感が無かった、という話でしたね……」
「うん。そんな刺激的な時間のお陰か、脳は活性化し、僕は気付いた……いや、思い出したと言うべきかな。――僕は【姉】という属性が好きだったんだ」
「は、はぁ……」
「好きになったキッカケは思い出せない。けれど、僕の根幹には何故か【姉】が染み付いていた。思い返せば、昔から集めてるエロ画像も姉モノだけだった」
「そ、その情報は必要ですか……?」
「しかしこれを思い出せたキッカケは分かってる。全ては『実績』に関わってから、だ」
「……そういう事、ですか」
「察してくれたかな。記憶、存在感、姉、実績……これらはどこかで繋がっているように思えてならない。僕の実績の事を知ってるのは『君だけ』だし、そして君は『姉』。僕は実績を達成する毎に大事な何かを『取り戻して』いて、その出来事には大体君が『関わって』いる。仙女ちゃん。君は僕にとって、色々と『都合が良い』」
「……つまり、私は、今後も妃さんの実績達成に関わればいいと? ついでに、姉属性を持つ者として側に居れば、何かのキッカケで思い出すモノもあるかもしれない、と」
頷く僕。すると、仙女ちゃんはどこか悲しそうに微笑み、ボソリ。
「やはり……貴方の行動理由は、全て『実績』に従った結果なのですね……思い上がってしまいました」
「ん? なんて?」
「いいえ、ただの整理です。……そ、それで、姉、でしたっけ? 私は今、一般的な姉らしくしっかり者でもありませんが……妃さんのお眼鏡に叶うでしょうか?」
「なーに言ってんの。『ポンコツ姉』の需要を知らんな?」
「い、イライラするだけでは……? 子供相手のような保護欲でも誘うんですか……?」
「(ポンコツなのにお姉さんぶってたりすぐ泣いたりふとした瞬間に色気を感じたりと最高の属性の一つだけど)まぁその辺の説明はいつかするとして話を戻すよ。君にはまず、今僕が進行中な実績について考えて貰いたい」
「し、進行中だったんですね……」
メモ用紙とペンを借り、自身の簡易的なメニュー画面を書いて仙女ちゃんに見せる。
「な、なるほど……昨日天女ちゃんのメニューを覗いた事で、『覗き魔レベル2――三人のメニューを見る』の実績を達成し、この……ドラゴンプレスという技を手に入れたのですね。ほ、本当にゲームみたいです……」
「そして今進行中の実績が【余計なお世話レベル2】。過去に達成していた実績にも同じ名前のレベル1があるけど、これは『他人の実績を五個達成する』とある。流れ的には、他人の実績を十個埋めれば達成出来るのでは? と考えてるんだけど」
「で、ですね……そうして、妃さんは今、私の実績に着手していた……実績名は【子供向け灰被り姫】……シンデレラ、の事ですかね?」
「だね。今の僕は実績達成へのヒントも見えるから……えっとなんだっけ(プニョン)」
「ひゃっ!? ふ、太ももはくすぐったいですっ」
「ああ、そうそう。『やさしい世界』ってヒントが見える」
「こ、子供向け……やさしい世界……本来のシンデレラは、姉妹を衣装ケースで圧殺したりと容赦の無い構成です。つまりは……誰も不幸にならず姉妹と和解するエンド、のような話ですね」
「うーん、今風だねぇ。桃太郎もカチカチ山も今はそんな感じらしいし。――で。僕の考えだけど」
僕は自分の考えた『実績達成条件』を口にする。「や、やはりそうなんですかね」と困惑する仙女ちゃんだったが、その条件は彼女にとっても悪いモノではなく……達成へと動いてくれる事に。
「じゃ、話は纏まったし、そろそろ帰るか」「えっ……」
意識的にか無意識にか、捨てられた子犬みたいな顔になる彼女。ここぞとばかりにエロい目にあわされたってのに。
「大丈夫。寂しくないように、このベッドのタオルケットにこーして(ゴシゴシ)僕の匂いをつけて……はい。後で『使いな』」
「な、何に使うんですかっ」
「これでも満足出来ないの? わがままなやつめっ(ギュッ)」「ふわ!? ……んふぅ」
抱き着かれて一瞬ビクっとなった仙女ちゃんだが、
「君みたいなタイプは搦め手よりこういう強引なのに弱いって知ってるぜぇ?」
「んっ……」
観念したように脱力し、その両腕を僕の背に回して、
「(ガチャ)お、お姉様? 体調が優れないと聞いて」「おい天女、ノックもせず姉の部屋に――」
ん?
【状況】→ベッドの上で抱き合う二人、それを目にした父と妹。
なんて分かりやすい説明だ。
「あ、あ、あの! これは!」
「お邪魔してまーす。ぐへへ、アンタの娘、『良い具合』だぜぇ?」
「ご、誤解される言い方ですっ」
「あ、あ、貴方……! わたくしの家でナニを……ハッ! 早退というのも全て貴方が仕組んで……!」
「て、テメェクソガキ! その銀髪! 女みてぇな顔と憎たらしい笑い方! まさか妃のせがれか!?」
「同時に問い詰めるなよ仲の良い親子だなぁ。僕はもうこの家満喫したし帰るね」
「待て!」「待ちなさい!」
待つわけもなく、仙女の部屋の窓(二階)から飛び降りる僕。丁度降りた先には先程のメイドさんの一人庭掃除をしていて、「またのお越しを」とのほほん見送ってくれた。
えーっと、明日からのなんだっけ? 天女ちゃんと仙女ちゃんを仲直りさせる、だったかな?
まぁ余裕でしょ。僕が出て行った今の仙女ちゃんの部屋の空気は最悪だろうけど。
「――おかえり」「ヒェッ」
竹取家の門を出た瞬間、馴染みのアニメ声。
「や、やぁ、奇遇だね封。昼休みに散歩がてら外に出たらこんな屋敷に迷い込んじゃって今脱出出来たとこなんだよ。中の仕掛けが初代バイオ並に回りくどくってね」
「へぇ、おめでと」
なんだこの塩対応は。僕相手に生意気な奴め。
「封はいつからここにいたんだい?」
「三時間前から」
こわ、僕がこの家に来た時からじゃねぇか。つまりは、封はサボる僕と仙女ちゃんの後ろをつけて来てた……? 更にはそれを黙認した……?
よくもまぁ、愛しの僕が他の女と乳繰り合うのを黙認出来たな……あ、石壁を指でパンのように引きちぎった跡が何箇所もあるわ、こわ。
「帰ろっか(にこっ)」「はひぃ」
幼馴染にガッチリ手を掴まれながら、帰ろうと言いつつ買い物デートに付き合わされる僕なのであった。