21
――数年前の事。
仙女ちゃんに、突然、【未来が見える目】が身に付いた。
それは望んでもいなかった力。
試しに使ってみると、数分後の世界を覗けた。
まるで台本通りのように、見た世界が再現される。
恐ろしい力を手に入れたと彼女は恐怖し、使用を封じようとした。
が、好奇心に負け、彼女は一度だけ、少し先の未来を覗いてしまう。
……血の気が引いた。
彼女が覗いた未来は、自身が『竹取家を継いだ』世界で。
しかし、竹取家は『没落』していたのだ。
直接の原因は分からない……が、自分が失敗したのだろうと、彼女は自身を責めた。
このままではいけない……彼女は考え、決断した。
「それが、『ダメ人間になって後継者を妹にする』、か」
こくり……頷く仙女ちゃん。
「と、当初は、『頑張り過ぎて』だの『将来を気負い過ぎて』だのと鬱を疑われ、何人ものカウンセラーの方々と会わされました。精神が疲弊していたのは確かでしたが」
「なんとまー、君も回りくどい方法をとって。それで、本当に竹取家は安定した未来に軌道修正されたのかい?」
「わ、わかりません……細かい時間設定も出来ませんし、『他人の未来』なども都合良く見られなくって……こんな『身の丈に合わない』私に不相応な力、欲しくなかった……」
「便利だと思うけどねぇ」
「けれど、数日前に偶然、他人の未来を見る事が出来たんです。それが、天女ちゃんが攫われる未来で……この時だけは、この力に感謝しました」
「そんな危険な場所に、よくもまぁ僕を送れたもんだ。君は僕の力を『知らない筈』だけど、僕が『活躍する未来』も見えたのかい?」
「え、ええ……そ、そんな感じです……黙っていてすみませんでした……妃さんならば、無事に天女ちゃんを救ってくれるという『信頼』があって……」
「うーん、色々引っ掛かるけど今はいいや。てか、君のパパンにはどうも君の『ヘタレ化作戦』バレてるっぽくない?」
「は、はい……未来が視える力の存在は知らないでしょうが、私が急に今のようになったのには違和感を覚えているようで……『人の心が読める』と思えるほどの勘の良さで、竹取家を大きくして来たと聞いています」
「親にはなんでもお見通しだからねぇ。案外、さっきの布団での乳繰り合いもバレてたりして」
「お、お父さんが黙っているわけがありません……バレていたら日本刀で斬りかかって来てますよ……」
「ヤベェなおめーの父ちゃん」
まぁ、ウチのパパンやその『仲間達』も似たような事しそうだけど。
「しかし大丈夫かねぇ天女ちゃんは。やる気は十分だけど、あの子割とポンコツじゃん? 誰かが支えないと空回りしまくって後継者どころじゃないよ」
「……解っています。で、でも私は……」
「君が、彼女と仲良く手を取り合う、って選択するなら僕が協力しないでもないよ」
「――え?」
ポカンと僕を見る仙女ちゃん。これ以上の力添えは望めないと思っていたのだろう。
「君が支えてやれたら、彼女もも少し落ち着けるでしょ」
「ど、どうしてですか? 妃さんほどの方を、これ以上引き止められるリターンは私には無いのに……」
「卑屈だねぇ。もっと自分の価値を誇りなよ」
「……自分の価値なんて、無価値だと何度も痛感しています。で、でも、それでも……妃さんにとって私に利用価値があるというのであれば、私は――」
「ふと、考えたんだ。なんで君と居ると落ち着くのかって」
「え……? そ、それって……」
「そう。それは、君に【姉】という立派な属性があるからだ」
「――え?」
二回目のポカン。仕方ない、説明してやろう。