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「仙女、いま大丈夫か?」

「あ、は、はいっ、どうぞっ」


少し上擦った声で返事をする仙女ちゃん。父親相手なのに緊張するのか……複雑な家庭なんだな。決して、僕が布団の中でゴソゴソしてるからではないだろう。


「(ガチャリ)……顔色は良さそうだな。安心したぜ。お前が早退したって聞いたから」

「あ、あの、お父さん、お仕事の方は……多忙、ですよね……?」

「ばかやろう、お前らより大事なもんなんてねーよ。お前らに何かあったら連絡しろって学校側に言ってあんだ」


美しい父の愛だけど普通に重いな。過干渉過ぎるわ。


「どうした? 疲れが出たのか? 昨日は天女の奴に色々あったからな……アイツも、今日は休めって言ったのに普通に登校しやがって」

「ふふ、大丈夫そうでしたよ、天女ちゃんは。わ、私も大丈夫ですっ。ただの寝不足で、少し貧血っぽくなっただけで……さ、最近ハマってるネトゲのせいですっ」

「そうか、それだけならいいがな」


ふぅん仙女ちゃん寝不足だったんだ。上手くパパンに言い訳しただけな気もするけど、ほんとの可能性もある。なら、『楽な格好』にしてやる必要があるな。


プチッ(たゆんっ)「ぅひやぁ!?」「ん? どうかしたか?」「い、いえっ、何もっ(ぅぅ……)」


泣きそうな顔で布団の中の僕を見る仙女ちゃん。はて? 前みたく『ブラを外してやって』楽になっただろうに、何故?


「そういや、天女を助けてくれたっていう恩人はまだ見つかって無いらしい。天女は天女でなんか口割りそうにねぇし。こちとら礼をしてやる準備はあるってのに」

「そ、そうですか……因みに、どんな御礼を?」

「ん? そりゃあ【金】よ。小切手渡して『好きな数字』書いて貰うつもりさ。よっぽど法外な数字じゃなけりゃ、豪華客船でもビルでも戦闘機でも買えるくらいはくれてやる」

「じゅ、十分法外だと思います……」

「で。それ以降は天女と『関わらせないよう』にする。特にその恩人が男なら、な」

「えっ……?」


過保護だなぁ。まぁ【普通の奴】がこんな面倒くさい父親に認められるのは骨だし、お金貰って終わりが良い落とし所か。


「酷いと思うか? まぁ考えてみろよ。確かに、恩人からすりゃ金目的だと思われて嫌だろうが、それでも金で引いてくれりゃ一番だ、俺が嫌われて終わりだからな。

 ――しかし厄介なのが、金を受け取らず『天女目的』なんて格好付ける奴だ。一見そいつは誠実そうだが、その先にある『この家』を狙ってる、なんて可能性は否定出来ねぇ。ムカつくだろ? こんな家なんかとは比べられないほど価値のある天女をオマケ扱いする奴はよ」

「で、ですね……けれど、例えばの話、今回の件で天女ちゃんがその恩人の方に『特別な感情』を抱いてしまっていたら……?」

「あー? アイツがそんな少女漫画みてぇな展開でおちるタマか? けど、それも考えねぇといけねぇな……」


竹取パパンは十秒ほど無言になった後。


「……そいつが、俺も気にいる奴なら申し分ねぇし、天女を幸せに出来そうってんなら泣く泣くくれてやらねぇでもねぇ……が。『あと一つ』、想定したくもねぇ最悪のパターンが浮かび上がってだな」

「さ、最悪の……?」

「『金にも家にも天女にも興味がねぇ』奴、だ」


はぁ、そんな無欲な奴おるんかいな。ん? なんで仙女ちゃん、チラッと僕を見たの?


「んな奴は滅多に『表に出てこねぇ』と思うが、俺は『そういう連中』を知ってる。絶対に、天女にもお前にも関わらせたくねぇ最悪な奴らだ」

「……き、興味が無いのであれば、脅威でも無いのでは……?」

「上手い事言いやがって……解ってねぇな。そいつらは無欲じゃなく『自分の目的』の為なら何でも利用するような……いや、まぁ色々なんだよ。仙女はそんな捻じ曲がってる奴らの怖さは知らない方が良い。お前は、無理せず自分の『やりたい事』を見つけてくれ」

「そ、それは……」


どこか焦った様子の仙女ちゃん。何か触れられたく無い部分に触れられたか? 冷静さを欠いていて目線が僕に向いている。不味い、このままじゃ怪しまれて僕が見つかる。

仕方ない。


「ふぉっ!?」「ど、どうした仙女!?」「な、何でもっ、アハハ……!」「挙動不審すぎるだろ!」


僕が仙女の服の中に手を伸ばしてこちょこちょする度にビクビクッとなる彼女。

緊張感や焦燥感は『笑い』で塗り替える。封で覚えた対処法だ。


「きゅ、救急車を!」

「ま、待って下さ、んっ……! さ、最近良い【マッサージ器】を手に入れましてぇ……そ、それが誤作動しちゃったようですっ……!」

「そ、そうなのか? なら良いんだが……」


絶対変な誤解してるな竹取パパン。まぁ肉マッサージ器には違いないけど。


「兎に角『こんな家の為に我慢する』、なんて必要はねぇからな。じゃ、ゆっくり休め」


言って、扉を閉める音。遠ざかる足音。


――そろそろ出て大丈夫そうかな。


ヌッとショーのアシカのように布団の中から飛び出して、

ぷよんっ

顔面をノーブラな胸に緊急着陸。


「わわっ……とと」

「ふむ。姉妹で同じ大きさに見えても心地は全く違うね。天女ちゃんは張りがあって少し固めだけど仙女ちゃんは」

「か、感想は言わないでっ。ぅぅ……お父さんに変な子だと思われました……」

「娘の成長を喜ばない親なんていないよ」

「せ、成長なんでしょうか……?」


言いつつ外れたブラをいそいそ着けてる姿がエッチの後みたいでなんかエロい。


「あ、あの……お父さんが言っていた事で、気を悪くしたら……」

「んー? お金渡して?の件? 別に気にしてないよ? 竹取パパンの言う事は的を射てるからね。まぁ、僕は『お金貰った上で関係は絶たない』派だけど」

「ご、強欲です……でも、助かります。天女ちゃんも、急に妃さんから離されたら悲しむでしょうし」


「本当に妹ちゃん大好きだねぇ。それとも『強引に跡継ぎを押し付けた負い目』かな?」


「……どちらも正解、です」

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