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——十分後。
「んー、うん」
椅子に座る彼女の髪からサラリと手を離し、一歩下がる。指をこう『』して覗き込んで……
「まぁ、こんなものかな」
「え、えっと……もう目を開けてもよろしいですか?」
「いいよー」
「(スッ)……これは……スカートが短くなっていて……制服のシャツも、少し着崩した感じに?」
「メインはこっちだけどもね。はい鏡」
「え? あっ——」
鏡に写る仙女ちゃんは……芋臭さが皆無な、とびっきりの美少女へと変貌していた。てか僕がした。
まぁ、素材が良かったから眼鏡外して(賛否両論)、薄く化粧して、ボサボサ髪も結い上げて目を出させ、制服着崩しただけなんだけど。
「こ、これは……?」
「今日一日。それで過ごして貰うよ」
「そ、それはっ……」
困惑した表情の仙女ちゃん。普通、女の子は綺麗になった自分を見て多少は喜ぶものなんだけど……まぁ、彼女の場合『その反応だろう』な。
「あ、あの……ムシが良いのは解ってるのですが……私、あまり目立ちたくなくって」
「『妹の為に』かい?」
「っ……や、やはり、『視た』のですね……隠し事は、通じそうにありませんね……」
「と、言う事は本当に、今まで芋臭いスタイルだったのも気弱キャラも『ワザと』だったと?」
コクリ、頷く仙女ちゃん。
あの地味め眼鏡が伊達だった時点で、考察は確信に変わっていたが。
「け、けれど、長らくこのスタイルを続けたせいで、まともなファッションも元の性格も忘れてしまったので……これが今の私です」
「そう。それはそれとして、君には今日そのまま過ごして貰う」
「え、ええっ?」
——それから、登校時間になるまでダラダラ過ごし、タイミングを見て図書館から出ると——
ざわ ざわ ざわ ざわ
「あわわわ……」
一瞬にして、登校して来た学生らの注目の的になる仙女ちゃん。
元々、地味な見た目から醸し出すエロい雰囲気とデカ乳と天女ちゃんの姉ポジで無名でも無かった彼女だ、顔を出してあげて制服も今風にしてやったらこの反応は当然である。
「お、お姉、様……?」
「あ、天女ちゃん……」
偶然、通り掛かった天女ちゃんがピタリと足を止め、目を見開いている。
「今日休むんじゃなかったんだ」
「っ! お、おはようございますっ。昨日は、その……」
「そんなんいいから、今の君の姉ちゃんに何か言う事無い?」
「お、お姉様……『戻って』くれたのですか……?」
「い、いや、これは……見た目だけで……一時的にというか……」
「ぁん? 少なくとも今日一日はそのままって言ったるぉ?」
「ぅぅ……容赦無しです……」
「ッ! 脅されているのですか!? た、確かに貴方には感謝しかありませんが、お姉様を辱めるつもりなら黙ってられませんわっ」
「ぁ? 彼女は君の為にその身を僕に捧げたんだからどう扱おうが僕の勝手さ。というか仙女ちゃんは僕にイジメられて嬉しいよねぇ? 『アレ』以上の事、してほしいよねぇ? (肩を抱いて寄せる)」
「ふわっ!? ……んっ、はぁ、はぁ……はい……(トロン)」
「お姉様!? な、何をしたんですの貴方!? あちらにこちらにと見境なさ過ぎですわっ」
「それな」
「ゲェー! 封ィ!」
ヌッと現れた彼女に、流石の僕も驚いた。
ざわざわ 「学園の美人が一同に」 ざわざわ 「いい匂い」 ざわざわ 「あの銀髪の可愛い子は誰だ」 ざわざわ
一般学生も朝から集まった美少女空間に戸惑っている。
「ハッ! 朝起きて篭ちゃんが居ないと思ったらこんな事をしてるとはね! 次から次へと女の所にっ」
「ふんっ、封には関係無いでしょ。僕は今この子達で色々する使命に追われてるんだ。それが終わったら前みたいに構ってやるよ。しっしっ」
「ぐぬぬ!」
「わたくしは色々される事に同意しては無いのですが……」
「わ、私は今、断れる立場にないので……」
キンコンカーン—— 予鈴が鳴ったので、その場は解散。
次は邪魔が入らない所に仙女ちゃんを呼び出さないとな。