12
——ドゴンッッ!!
と。
気を抜いていた所を狙ったかのように、いきなり、倉庫の出入り口である頑丈な鉄の扉が『吹き飛んだ』。
たち籠る煙。焦げ臭い香り。無意識に、わたくしは彼の服をギュッと掴んでいた。
「かーごーちゃーんーンンンン……!!!」
地鳴りのように響く声。
煙の奥から見える輝く瞳。
そこに居たのは……ウサギ耳を着けた【封さん】でした。
「篭ちゃん! 見つけた! 何でこんなとこに居るの!」
「暇つぶしにヒーローやってた」
「もぅ! 自分勝手なんだから! ——で、この倒れてる人達は?」
「なんか睨んだら気絶しちゃった」
「睨んだら……? ま、まさか……『竜の暴圧』!?」
「おっ封、その名前知って……ゲフンゲフンッ……で、そのドラゴンがなんだって?」
「『王たる竜が睨む、それだけで万物は首を垂らす』……篭ちゃん、『思い出した』んでしょ?」
「うん? なにを?」
「え? え? ……まさか、『何と無くで使えた』の?」
「思い出したって何? 吐けよ」
「な、何でもないからっ。気にしない気にしないっ」
クルリと踵を返し、歩き出す封さん。
——ふと。
「天女ちゃん。何があったか知らないけど、今日あった事は忘れなよ。あと、もう封達に関わらない方がいい」
背を向けたまま、そう吐き捨てました。
彼と話している時とは一八〇度違う、感情の無い声色。
……要は、彼にはもう近づくなと、そう言いたいのでしょう。
恋人でも無い癖に。
「おいおい封、何勝手言ってんのさ。僕にはまだ彼女を『使う』予定があるんだよ」
「ええっ!? 考え直して篭ちゃん!」
使うだなんて、完全にモノ扱い……ですが、それを何故か『嬉しい』と思ってしまう自分がいました。
——その後、外に出るわたくし達。
その先は、本当に港の倉庫エリアで。
夕暮れに染まった美しい空、潮の香り、穏やかな海。
何事も無かったように、この景色を感じられた事に感謝しかありません。
「そういやこの入り口の所に死屍累々と男達が転がってなかった?」
「邪魔だったから海に捨てといたよっ」
「そ。あ、封はここまでなにで来たの?」
「走って来たよ!」
「そ。じゃあ僕は『ゲートる』から帰りも頑張ってね」
「鬼!」
「(ゲートる……?)あ、あの、呼んだ車がすぐに来ますので、お送りしますよ? 命の恩人たる貴方には家直々にお礼もしませんと……」
先ほどGPS付き緊急用ボタンを押したので、位置情報を頼りに家の者がすぐにここにやって来るだろう。
「んー、別に良いかなぁ。そういう堅苦しいの苦手だし。お? あのメッチャ速い黒塗りのが君んちの車かな? ならもう安心だね。じゃ、また明日」
「篭ちゃん! 折角だし港で夕飯に海鮮丼食べて帰ろうよっ」
「さっき寿司食ったばっかやねん。肉喰いたいなぁ肉」
スタスタと離れて行く二人。行き違うように、家の車がギギィ! と止まり、家の者がこちらに駆け寄って来ます。
——本当に、非現実的な一日でした。
夢の中のような、ファンタジー感に溢れ。
明日になれば、全て無かった事になっていても不思議でない。
そう願う一方で……無かった事にしたくない時間もあって。
あの方の遠ざかる背中を見て、ふと——『もっと知りたい』と思ってしまう。
ティロン
「え?」
今、頭の中で、何か効果音が……?
ザザザ——唐突に、視界がボヤけ、昔VHSで見たような白黒の砂嵐が流れます。
その砂嵐が徐々に収まっていき……待っていたのは、見たことの無い映像。
そこには、可愛らしい子供が二人、遊んでいて。
どちらも……その顔は……あの方……?
「ッ!」
強烈な目眩。
それを感じると同時に、わたくしの意識は、どこか遠のいて行き————