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「……ふぐっ」


ここは……?

真っ暗な場所。


「ふぐぅ?」


くぐもった声しか出せません。口の部分を布か何かで塞がれています。

暗い場所……いえ、違います。目も、何かで覆われているのです。

一体、なにが? わたくしは……、あの方と食事をした後、別れて……家の者が運転する車で帰路を走っていた筈なのに……。


「お。起きたかい?」


女性の声。若い声。警戒心で身が縮こまります。


「怯えるな……ってのは無理があるよね。簡潔に、現状を説明しよう。竹取天女、アンタは拉致監禁されている。身代金だので話がつくまで大人しくしとくのが懸命だよ」

「ふぐぐ!?」


そんな! 誘拐!? 警備や防犯は完璧だった筈なのに!


「可哀想に。アンタは運転手に売られたんだよ。まさか内部から裏切られるなんて思わなかったろう。どうも、運転手はアンタのオヤジに恨みがあったようだね」


運転手! 最近入って来た中年男! 時折纏わりつくような不快な視線を送って来たあの男が……!


「ぐへへ……何度見てもガキのくせに良い体してるぜ」「味見させてくれよ! バレやしねぇって!」「もし親が身代金払えなくても心配するな……その見た目だ、良い商品価値つくぜ」

「ふぐっ!?」


お、男の気配が! しかも複数も! いやだいやだいやだ怖い怖い怖い……ガタガタと身体が震えます。


「下衆どもが、近付くんじゃないよっ。貰えるもん貰うまでにこの子が傷付いちゃ取引きが成立しないだろっ」

「だとテメェ?」「ウチの雇われの『アサシン』だかなんだかしらねぇが口出す権利あんのか?」「メスガキが……テメェで遊んでやろうか?」


剣呑する空気……状況は一切良くなっていません。

ああ……わたくしは無事に解放されるのでしょうか?

お父様は……わたくしの為に動いてくれるでしょうか?

わたくしが居なくなって……誰が心を痛めてくれるでしょうか?

誰か…………


ふと、頭をよぎったのは、最後に会った【あの方】でした。



「ん? 鍵掛かってる? (バキッ)あ、壊しちゃった。ま、いいか。(ガラガラガラ)こんちわー」



――――え? こ、この声の主は……。


「全く。拉致監禁場所に海側の倉庫選ぶなんてベタだねぇ。つか、出入り口にこんな見張り置いたら怪しさマックスっしょ」

「な、なんだテメェは!」「外の警備はどうした!」「んな……ぜ、全滅、だと? 物音一つも争った形跡もねぇ! 何しやがった!」


声の主は返答せず、こちらに近づいて来ます。


「これはこれで唆る姿だねぇ」


わたくしにそう言い放ちますが、不思議と不快な気持ちはありません。震えも、止まりました。


「よいしょっと(ゴソゴソ)……三〇分ぶり、かな?」


目隠しが取られ――飛び込んで来た顔に、予想出来ていたのに、ドキリと心臓が跳ねました。

まるで……お伽話にある、お姫様のピンチに駆けつけた――。


「テメェ何勝手な真似してんだ!」「これが見えねぇのか!?」「死にてぇみてぇだな!」


ジャキリ! 黒服スーツの屈強な男三人が、こちらに向けて銃を構えます。

レプリカ……いえ、本物でしょう。撃たれればひとたまりもない鉄の塊……ですが、あまり恐怖を覚えません。

この方の登場で、真剣な空気は霧散したのです。


「【それ】を下ろしな。無駄さ。アンタらがハジくより前に、この坊やにハジき飛ばされるのがオチさ。もう消えな」


変わった格好をした少女に坊や呼ばわりされたあの方は、


「くノ一のコスプレ?」


と首を傾げています。


「こっちは三人だ!」「銃に勝てる人間が居るか!」「テメェからハジいてやろうか!?」


シュ―― カランカラン。


少女が右腕を振るうのと、ほぼ同時に、何かが地面に落ちた音。

地面には……バラバラになった『銃の残骸』。


「消えな、と言った。次はアンタらが『こうなる』かい?」

「「「――ヒッッッ」」」


スタコラサッサと、男達は外に逃げ去りました。

この少女は……味方、なのでしょうか?


「さ、帰るよ天女ちゃん」「え? あ、はぁ」「待ちな」


呼び止める少女に、彼が目を向けます。


「折角、良い小遣いになるはずだった仕事が坊やに潰されちまった。代わりといっちゃなんだが、気晴らしに遊んでくれないかい?」

「はぁ、遊ぶって?」

「喧嘩さ。一目みりゃわかる。坊や、『こっち側』だね」

「こっち側とか言われても、僕は一般人やし。それに、お嬢ちゃん。君じゃ『勝負にならない』よ?」

「ハッ! そそるねぇ!」


やる気が上がったように見える少女。……危険です。先ほどの動きを見るに、銃より余程危険な存在だと分かります。

対して、彼の実力は未知数。わたくしの救出の為に、外にいる警備の方を倒して下さったようですが……。


「そうそう、その前に自己紹介でもしようか。あたしは」


シュ!


「……参ったりこりゃあ本物だね」


え? え?

わたくしが瞬き一つをした後、状況は変わっていました。

少女が手には刃の長いナイフ。その刃先を、あの方は指先で掴んでいます。

不意打ち。

少女は彼に刃を振るったのです。

それを、彼は難なく防いだ。

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