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会計を済ませ、店を出て、僕らは駅に向かう。

飯食って終わりだったけど、問題無く『達成』出来ただろう。


「……腑に落ちませんわね。何故、今まで貴方が『空気』だったのか」


僕に話し掛けてるのか、ひとり言なのか。


「これだけ人に『入り込む力』があるのに……わたくし自身も、昨日までは封さんの隣に居るだけの、居るか分からない【何か】という認識でしたのに……今は、何故貴方にそんな芸当が可能だったのかと、怖気が走ります」

「人を空気扱いしたりバケモンみたいに言ったり忙しいな」

「そう……貴方は本当に【怪物】です。今もすれ違う人々は、貴方から目を離せない」

「君を見てるんだと思うけど」

「今ですらそれだけ目を惹く容姿、だというのに貴方にはまだ底があるように思えます。想像もつかぬような怪物が、貴方に潜んでいる。きっと、明日はもっと……」

「そんなスピリチュアルでポエミーな子だとは思わなかったよ。褒められてるのかな? 寿司つれてっただけでここまで好感度稼げるなんて、チョロい女だぜ」


でも、期待させて悪いけど、僕は普通の『一般人』でしかない。そんなファンタジーな存在では無いのだ。


「……本当に今更ですが。どうして、今日は、わたくしを? あんなに回りくどい方法を使ってまで……」


誘ったのか、ね。別に深い意味なんて無い。

『メニュー』を見たからだ。

朝、校門で、胸を触った(揉んだ)時に。

天女ちゃんのメニューの実績名には、こう書かれていた。


『思し召しより米の飯』


ことわざなのか慣用句なのか故事なのかは分からないが、食事関係の実績だろうとは思った。

しかし、達成条件の見当が付かず……と思いきや、実績名の隣に『ヒント』、という項目があって——


『デートに行けば?』


というフワリとした助言。

昨日までは無かったお助け機能だが、性能が上がっているという事だろうか? 因みに今の所まだ、実績達成の効果音は聞こえない。


「無回答、ですか?」

「ん? ああ理由ね。『気になる女の子』をノリでデートに誘うのはおかしな事かな?」

「っ……! ま、また貴方は簡単にそんなセリフを女性にっ。いつか痛い目を見ますわよっ」

「あ、ここのカマボコ屋のひょうたん焼き(中身がカマボコのアメリカンドッグみたいなもの)が人気なんだよねー、食べる?」

「……いただきます」

「次こそは『これが庶民の食べ物!? クッソ美味いですわ!』って漫画みたいなセリフ期待してるよ」

「言いませんわよ!」


しかしまぁ、寿司屋で三〇皿食った後なのによく入るな、と僕は少し引いた。



——それから、徒歩数分で駅の方に戻って来た僕達。


「貴方の目的は達成したんですの?」

「ぅん? なに、藪からスティックに」


まさか、メニューの事を知ってる? わけないか。


「先程は濁されましたが、わたくしに近付いた目的があるのでしょう? 内容を訊くつもりはありませんが」

「んー、まぁそうだねー、まだ達成してないかなぁ。僕自身もフワッとしてるっていうか……何? 協力してくれるの? 風紀を乱すような目的ならどうする?」

「……『目を見れば』解りますわ。貴方はわたくしの家柄や個人には露ほども『興味が無い』という事くらい。そんなのは初めて見る目で……本当に失礼な方です」

「君の目曇ってんじゃない? 興味無いわけ無いじゃなーい」


実績にだけど、ね。


「嘘を吐くのは下手なのですね、本当に屈辱的です。……いいでしょう。このままではわたくし自身シコリが残ります。な、なので……また食事ぐらいになら付き合っても——」


「あ、あれ……? 天女、ちゃん?」


ん? 誰かと思えば図書委員ちゃんだ。駅の本屋から丁度出て来た所らしい。


「え……? あ、もしかして、お取り込み中……?」

「——では、わたくしはこれで」


無視するように、天女ちゃんはスタスタと離れていった。

んー。


「嫌われてんの?」

「……そのようですね」


図書委員の先輩、仙女せんちゃんはションボリと眉をハの字に。仙女パイ。


「同じ竹取姓。天女ちゃんが君の件の妹ちゃん、て事で良いのかな?」

「はい……昔は、何をするにも一緒だったんですが……『仕方ない』んです。しかし、驚きました。あの子が同世代で、しかも異性の方と、あんなに楽しそうに居るだなんて」

「そう? 心配するくらいチョロかったよ。脅して連れて来たけど、飯屋に行ったらすぐに上機嫌さ」

「あの子は昔から食いしん坊とはいえ、普通の方はそこまでスムーズに運べないと思いますよ……」


ふふっと笑いつつ、仙女ちゃんは前髪で隠れた目越しに僕をジッと見て。


「昨日とは、見た印象が随分変わっていますね……いえ……その惹きつける雰囲気が、本来の貴方、なのでしょう。今日、あの子と関わった理由も、実績、が関わって?」

「うん。デートすれば達成出来る系の実績かと思ったけど、どうも何か足りないみたい」

「……男性に警戒心を持つあの子をすんなり遊びにこぎつけるだなんて、やはり凄い方です」


僕は、今日一日の周りの目の変化や能力強化について話す。仙女ちゃんは顎に手をやりながら、


「……これは仮説、ですが。貴方が実績に関わるたび、貴方の『抑えられたモノ』が解除されてるのでは、と。ゲームにも『実績解除』というワードがありますし……」

「成る程、それなら納得がいく。つまりは、これからも積極的に実績に関わっていった方が良さそうだね?」

「……そう、なのでしょうが」


仙女ちゃんはどこか言いづらそうに目を逸らして、


「怖いのです。今ですら貴方の魅力は人並み以上……なのに、これ以上の可能性があるとするなら……眠っている、『起こしてはならぬ何か』が表に出てきそうで……」

「封印されし力が解き放たれるというのかい? 唆るねぇ」

「……そんな未知の可能性を秘めた貴方だからこそ、お願いがあるのです」


仙女ちゃんは僕の手をガシッと力強く握って。


「一生モノの懇願です……もし叶えて下さったら、私は貴方に『何をされても』構いません。尽くします。なので……」

「話を聞こう」


ペロリ——僕は舌舐めずりをした。

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