7.古本屋、再び
色々考えて、ジャンルを変更しました。
これからもよろしくお願いします。
「ふう。無事に帰れてよかった」
私は自分の部屋にいることを確認して呟いた。服装はセイに言われた通り元に戻っている。ルームシューズに土が付いていなくてホッとした。手には『世界の扉』の本を持っていた。
「セイは来てないか…」
私はぽつりと漏らした。一人暮らしの所為か、独り言が多い。ベッドに腰かけて時計を確認すると、本当に時間は経っていなかった。
(と言っても、本に夢中じゃったから正確な時間は分からんけど。)
と心の中で呟きながら、ベッドにゴロンと転がる。
(いきなり本の世界に入ったのは驚いたけど、めっちゃ楽しかったなぁ。景色が綺麗じゃったし、装備もカッコよかったし、セイも可愛かった。動物は見かけたけど、人には会わなかったな。あの家、誰の家じゃったんじゃろうか。くまさんの家っぽい気がするんじゃけどな。森の奥じゃったし。けど、あえて森の奥に住む賢者みたいな老人じゃったりして。)
クスリと笑いながら考える。
(まあ、タイトル『森のくまさん』じゃし、きっとくまさんの家じゃろう。今度行ったら会えたらええな。)
本の世界の思い出を振り返り、しばし幸せに浸る。初めての冒険は明にとって素晴らしいものだった。
(苺、美味しかった。こっちと味が変わらんのはありがたいな。飲み水が無かったのは痛かった。こっちから水筒が持って行けるか今度やってみよう。後は、古本屋のおじさんに話を聞こう。色々気になることあるし。時間は……まだ大丈夫そう。よし、今から行って来よう!)
私はベッドから勢い良く立ち上がる。そして、『世界の扉』の本を持って家を出る。自転車に乗って再び古本屋を訪れた。
「こんにちは!」
私は大きな声で挨拶をしながら扉を開けた。
「いらっしゃい。さっき振りだね」
と笑いながらおじさんが言う。
「そうなんですけど、話したいことがあって」
と私が言うと
「ちょっと待ってな。もうすぐ店仕舞いだから、ちょっと早いけど今日は閉めるよ。話、長くなりそうだろう?」
そう言いつつおじさんはウインクをしてきた。本当によく分かっていらっしゃる。私は大きく頷いた。
「おじさんありがとう!」
そう言って私はおじさんが店仕舞いするのを見ていた。
「まあ、座りなよ」
店仕舞いが終わったおじさんは椅子を用意してくれて掛けるように勧めてくれた。それに有り難く従いつつ、さっき購入した『世界の扉』を取り出した。
「おじさん、私もう冒険してきたよ!」
ニヤッと笑って私が言うと、おじさんもニヤッと笑った。
「ほう。それで」
と先を促す。
「うん。タイトルはね『森のくまさん』。今日はちょっとしか本の世界に入ってないけど、私【本の旅人】になったよ! それでね、景色がめっちゃ綺麗だった。動物もいるみたいで森も緑が豊かだった。川は見つけられんかったけど、苺も美味しかったし言うこと無し! 冒険、楽しかった」
と夢中になって話す私をニコニコしながらおじさんは聞いてくれる。
「あ、それで気になったんですけど、おじさんが冒険したときと違うのかなって。どうなんですか?」
と疑問に思ったことを聞いてみる。
「明ちゃんの思った通り、全然違うよ。僕が旅した物語のタイトルも違うしね」
とまたウインクする。
「おじさんはどんな冒険をしたんですか」
と私が目をキラキラさせながら聞く。
「それは内緒さ」
「えー。狡い」
と口を尖らせてブーイングする。
「明ちゃんが本を手放した時に教えてあげるよ。僕の冒険が明ちゃんに影響を及ぼすのは頂けないからね」
と優しく諭された。やはり、自分の経験や知識が物語に何らかの影響があるようだった。古本屋のおじさんと話したことでよりはっきりと理解した。
(私は私だけの物語を冒険するんだ。おじさんとは異なる冒険……。ワクワクする! 色々済ませたら、もう一度冒険に出かけよう)
そう私は心に決めて古本屋を後にした。女子寮に帰って夕食を作り、食べる。かなり早いがお風呂にも入ってやるべきことを全て終わらせた。大学の方はレポート課題が出ているが、提出期限は来週になっているのでまだ大丈夫だ。少し、調べものだけ終わらせて冒険の準備を始めた。麦茶を詰めた水筒をリュックサックに入れる。タオルと替えの下着も詰める。
「他に要る物は何かあるっけ」
と呟いてリュックサックの中身を確認する。
「ま、あったら取りに帰ればいいでしょ」
と切り替えてリュックサックを背負った。それから『世界の扉』を手に持ち、本を開いた。
「よし、本格的に『森のくまさん』を冒険するぞ。しゅっぱーつ」
私は気合を入れて『開け胡麻』の呪文を唱えた。こうして私は再び本の世界へと旅立ったのだった。
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