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本の旅人、物語を渡り歩く  作者: 三木香
二章:本の旅人、『森のくまさん』の物語を旅する
19/57

19.追加された物語 後編

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―――略


 女の子は笑顔になってぎゅっと旅人の手を握りました。それから旅人は女の子をくまさんの家へと案内しました。



「こんにちは。くまさん居ますか?」


 旅人は扉を叩きながら声を掛けます。


「はーい」


 中からくまさんの声がしました。そしてドスドスと足音が聞こえて扉が開きました。


「あ、旅人さん。こんにちは。さっき振りですね。村には行けましたか?」


 とくまさんは旅人を見とめると、ニッコリ笑って挨拶をしました。


「はい。お陰様で。それで、ちょっと色々あってこの子がくまさんに用事があるんですけど…」


 と旅人が女の子を引き寄せてくまさんに見せました。そこで初めてくまさんも気付いたようです。女の子はくまさんが姿を見せてから旅人の後ろに隠れてじっとしていました。


「ああ、君は……。どうしたの?」


 くまさんはしゃがんで女の子と目線を合わせました。


「あのね、これ、ありがとう」


 女の子はもじもじしながらハンカチを差し出しました。


「ああ、それか。君にあげるよ」


「え、いいの?」


「いいよ。その代り、僕と…、僕とお友達になってくれないかな……」


 くまさんは少し恥ずかしそうに最後は小さな声になりながら言葉を絞り出しました。


「なる! おともだちになるよ! これからよろしくね、くまさん!」


 女の子は目をキラキラと輝かせながら勢い込んで言い切りました。


「良かったね、くまさん」


 その様子をニコニコしながら旅人は見守っていました。


「あの、旅人さん! 僕、旅人さんともお友達になりたいです」


 女の子と友達になれて勇気が出たのか、くまさんは旅人にもそう言ってきました。


「いいよ。友達になろうか」


 ニコッと笑って旅人が了承するとくまさんはとても嬉しそうに笑いました。


「今日で二人も友達ができました! 友達、初めての友達」


 とくまさんは口元に手を当ててとても嬉しそうに呟いています。


「ねぇねぇ、くまさん。またおうちにきてもいい?」


 女の子は旅人の服の裾を握って、くまさんに尋ねました。


「良いですよ。何時でも遊びに来てください。あ、今から遊びますか? お茶とお菓子をご馳走しますよ。中へどうぞ」


 くまさんは旅人たちに背を向けて家に入って行きます。


「わーい。おかし!」


 女の子はお菓子につられてパッと手を放して家に入って行きました。旅人もその後に続いて家へと入りました。女の子はお菓子を美味しそうに頬張りました。くまさんはニコニコとその様子を眺めています。今回は妖精サイズの小さなカップが用意されていました。


「ありがとうございます」


 妖精は嬉しそうにお礼を言いいました。和やかな雰囲気でお茶会はあっという間に時間が過ぎて行きました。辺りはもう夕暮れ時で薄暗くなってきています。


「やばい、忘れてた。お母さんが心配してるよ。早く帰らないと」


 旅人が慌てて帰る支度を始めると女の子は俯きました。


「まだかえりたくない」


 と女の子はわがままを言い始めました。くまさんは私たちの様子を少し寂しそうに見守っています。


「くまさん、またきてもいい?」


 女の子の言葉にくまさんはパッと表情を明るくしました。


「勿論です。またいつでも遊びに来てください!」


「わかった。じゃあ、きょうはかえるね。また明日、くまさん」


「はい。また」


「んじゃあ、帰るか。くまさんまた来るね」


 旅人も挨拶を交わしてくまさんの家を出ました。薄暗いとはいえまだ灯りが必要なほどではありません。旅人たちは村への道を歩いて帰って行きました。しかし、村へ着く頃には辺りはすっかり暗くなってしまっていました。裏門の前にはぽつんと立つ一人の人影が見えます。それは女の子の母親でした。


「あ、お母さん!」


 女の子は母親を見つけると駆けて行きました。


「心配したのよ」


 と母親は女の子を抱きしめて言いました。


「遅くなって済みません」


「いえ。見つけて、下さり、ありがとう、ごさいました」


 そう言って母親は深く頭を下げました。


「お母さん。やっぱりくまさんいいくまさんだよ。おともだちになったの。おちゃとおかしをくれたの。おいしかったよ」


「まあ! 心配したのに、あなたは……」


「済みません。私が案内しました」


 旅人は二人の会話に割って入って謝罪しました。


「あら、そう、でしたか。それでも、ゴホゴホ」


 母親は何か言いたそうだったが、咳が出て話が続けられませんでした。


「外は冷えます。家に向かいましょう。そちらまで送りますよ」


「ゴホゴホ。ありが、とう、ございます。ゴホ」


「お母さん、ごめんなさい」


 女の子はしょんぼりしながら母親に謝りました。


「もう、いいのよ。ゴホ。さあ、帰りま、しょう」


 女の子は母親と手を繋いで歩いて行きます。旅人はその後ろをゆっくりと歩いてついて行きました。妖精は旅人たちの周りを飛んでいます。鱗粉が月明かりに照らされてキラキラと輝いて幻想的でした。


「ようせいさん、きれい!」


「ありがとうございます」


 女の子がはしゃいで言うと、妖精は嬉しそうに女の子の周りを飛びました。女の子はキャッキャと笑い声をあげます。とても微笑ましい光景でした。




「家まで、送って、くださり、感謝、します」


「いえいえ。ではまた」


 無事に家まで送り届け、挨拶を交わしました。


「おねえちゃん、ようせいさん、またね」


「はい、さようなら」


 妖精も挨拶を交わし、彼らと別れました。






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