18.追加された物語 前編
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―――略
くまさんが女の子に優しく言います。女の子は俯きながら小さな声で答えました。そして、女の子は村の方へと道を伝って帰って行きました。女の子が居なくなった後、くまさんは家に帰りました。暫くすると旅人が尋ねてきました。
「こんにちは。実は、川に行ってみたのですが、釣り竿を持っていなくて魚が釣れなかったんです。くまさんは釣り竿を持っていませんか?」
と旅人はくまさんに聞きました。
「すみません。僕は自分の腕で魚を取るので釣り竿は持っていないんです」
くまさんはしょんぼりしました。
「あ、僕は持っていないけど、村の人なら持っているかもしれません。訪ねてみてはどうですか?」
「成程。では、村に行ってみます」
そう言って、旅人は村の方へと歩いて行きました。
森から来た旅人は村には裏門から入ることになりました。裏門の辺りには村人が見当たりません。そこで旅人は、妖精と相談して井戸の方へと歩いて行くことにしました。暫く歩いて漸く一人目の村人に出会いました。
「ちょっとあんた。どっから来たんだい?」
村人は旅人に対して警戒しながら言いました。
「こんにちは。森の方からやって来ました。私は旅人です」
と旅人は答えます。
「え! 今、森って言ったかい? あの森にはね、くまが住んで居るんだよ。何時から住み着いているかは知らないが、くまが居るからあの森の奥には行ってはいけないことになっているんだ。ほんとおっかないね」
そう言って村人はまた何処かへ向けて歩いて行きました。旅人はまた歩きだします。暫くすると、
「そんなことないもん! くまさんはこわくない! お母さんのわからずや!」
という声と共に家から女の子がすごい勢いで飛び出して来て、旅人の方へと突っ込んできました。旅人は女の子を受け止めました。
「お母さんと喧嘩したの?」
と旅人は女の子に尋ねました。
「ちがうもん、けんかしてないもん」
「じゃあ、どうしたの?」
「お母さんがきいてくれなかったの。くまさんはやさしかったのに、こわいからもりにいっちゃダメっておこったの」
「そうだったの? くまさんは優しいよね。私は知ってるよ」
女の子はくまさんの話を一生懸命に話しました。
「そうだね。くまさんは怖くないね」
と旅人は答えました。女の子は言いたいことを言えたので落ち着きました。その後、自己紹介をしてから色々とお話しました。旅人は女の子に釣り竿の話をしました。女の子は知らない様子でした。そこで旅人は、女の子のお母さんに尋ねました。実は女の子の母親はこちらの様子をずっと見守っていたのです。母親はこちらの方へとやって来ました。旅人に向かって謝罪とお礼を述べました。
「この度は、ご迷惑をおかけして、すみませんでした。そして、引き留めて、くださり、ありがとう、ございました」
母親は咳を抑える為にゆっくり話しました。
「いえいえ」
と旅人は答えました。
「もう、森に行っては駄目よ」
と母親は女の子に言いましたが
「いや! くまさんにあうの! ハンカチかえさなくちゃいけないの」
と言って女の子は母親に反発します。
「我儘言わないの! ゴホゴホ」
母親は強い声を出したため、咳が止まらなくなりました。その間に女の子は母親を振り切って森の方へと駆けて行ってしまいました。旅人は体調が悪そうな母親の方に付き添いました。
「すみません。私はこの通り、体が弱くて……。ゴホゴホ」
そう言ってまた咳をしました。
「そうなんですね。それって薬草で何とかならないんですか?」
と言って旅人はポーチから薬草を取り出しました。
「いえ。残念ですが、薬草だけでは、良くならなくて……。ゴホ」
母親は力なく答えました。
「あ、そう言えば女の子が!」
旅人が思い出して言うと
「そう、でした。あの子、また、森に……」
「私、ちょっと見てきますね」
「ありがとう、ございます。よろしく、お願い、します。ゴホ」
旅人は母親との話を切り上げると、女の子が駆けて行った方へと歩き出しました。旅人は森で女の子を見つけました。
「お母さん、心配してたよ」
と話しかけましたが、女の子は唇を引き結んで下を向いていました。
「どうしたい?」
再び旅人が女の子を覗き込み話しかけると
「くまさんのとこ、いくの。これ、くまさんにかえすの」
と女の子はやっと話し始めました。手にハンカチを握りしめています。
「そっか。んじゃあ行こうか」
と旅人は立ち上がり女の子に手を差し出しました。
「おねえちゃん、いいの?」
女の子は驚いた顔で旅人を見上げました。それからそっと旅人の手を握りました。
「いいよ。くまさんに会いに行こうか」
「うん」
女の子は笑顔になってぎゅっと旅人の手を握りました。それから旅人は女の子をくまさんの家へと案内しました。