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本の旅人、物語を渡り歩く  作者: 三木香
二章:本の旅人、『森のくまさん』の物語を旅する
15/57

15.母と子とくまさんと

 母親が少し落ち着いてきたので、色々と話しを聞くことになった。


「すみません。私はこの通り、体が弱くて……。ゴホゴホ」


「そうなんですね。それって薬草で何とかならないんですか?」


「薬草ですか?」


「はい。これなんですけど」


 と私はポーチから薬草を取り出して見せた。


「まあ!」


 母親は小さなポーチから薬草が出てきたので驚いて目を丸くしている。


「それで、これって使えます?」


「いえ。残念ですが、薬草だけでは、良くならなくて……。ゴホ」


「そうですか…。力に慣れなくてすみません」


「いえ。そんなこと、ないですよ。見ず知らずの、私たちを、気遣ってくださり、ありがとう、ございます」


「あ、そう言えば女の子が!」


 私が思い出して言うと


「そう、でした。あの子、また、森に……」


「私、ちょっと見てきますね」


「いいの、ですか?」


「はい。大丈夫ですよ」


「ありがとう、ございます。よろしく、お願い、します。ゴホ」


 私は母親との話を切り上げると、女の子が駆けて行った方へと歩き出した。


「セイ、マップに女の子の居場所を表示できないかな? そうすると、捜索が楽なんじゃけどなぁ」


「可能です」


「え! マジで」


 私は驚いて思わず足を止め、セイの方をまじまじと見つめてしまった。まさか思い付きが実現するとは思わなかったので。


「はい。彼女とは知り合って結構立っていますし、他にも重要人物はマップに表示される仕様です。確認してみてください」


「あ、ほんまじゃ」※訳:ほんとだ


 私がマップに目を向けると、先程の母親が表示されていた。その他には、村長も表示されていて分かり易い。女の子はマップに表示されていなかった。


「セイ、女の子がマップに居らんのんじゃけど」


「村から既に出て行ってしまったようですね」


「そっか。んじゃあ、ちょっと急ぐか」


 私は急ぎ足で森へと向かった。村から出るとマップの表示が切り替わった。すると女の子の居場所が表示された。


「あっちの方みたいじゃ」


「そうですね」


 子どもの足なのでそれ程遠くには行けなかったようだ。結構近くにいて安心した。


「居った。あそこじゃ。おーい」


 私が大声て女の子を呼ぶと、女の子はビクッと肩を震わせた。


「ごめん。驚かせちゃった?」


 女の子に近づき目線を合わせて問うと、女の子は首を横に振った。


「お母さん、心配してたよ」


 女の子は唇を引き結んで下を向いている。


「どうしたい?」


 私が女の子を覗き込むと


「くまさんのとこ、いくの。これ、くまさんにかえすの」


 女の子はやっと話し始めた。手にハンカチを握りしめている。


「そっか。んじゃあ行こうか」


 私は立ち上がり女の子に手を差し出した。


「おねえちゃん、いいの?」


 女の子は驚いた顔で此方を見上げた。それからそっと私の手を握った。


「いいよ。くまさんに会いに行こうか」


「うん」


 女の子は笑顔になってぎゅっと私の手を握った。


「くまさんの家に行ってみよう」


「くまさんもおうちにすんでるの?」


「そうだよ。くまさんもお家に住んでるよ」


「どんなおうちなの」


「木のお家だよ」


「大きい?」


「そうだねぇ。扉は大きいかなぁ。くまさんが大きいからね。入れなかったら困るよ」


「フフフ。そうだね!」


 私は女の子とそんな会話をしながらマップを確認した。くまさんは家にいるようだ。ホッとしつつ、くまさんの家を訪ねた。



「こんにちは。くまさん居ますか?」


 私は扉を叩きながら声を掛けた。


「はーい」


 中から声がする。ドスドスと足音が聞こえて扉が開いた。


「あ、旅人さん。こんにちは。さっき振りですね。村には行けましたか?」


 くまさんは私を見とめると、ニッコリ笑って挨拶をしてくれた。


「はい。お陰様で。それで、ちょっと色々あってこの子がくまさんに用事があるんですけど…」


 と私が女の子を引き寄せてくまさんに見せた。そこで初めてくまさんも気付いたようだった。女の子はくまさんが姿を見せてから私の後ろに隠れてじっとしていたから気付かなかったようだ。


「ああ、君は……。どうしたの?」


 くまさんはしゃがんで女の子と目線を合わせた。


「あのね、これ、ありがとう」


 女の子はもじもじしながらハンカチを差し出した。


「ああ、それか。君にあげるよ」


「え、いいの?」


「いいよ。その代り、僕と…、僕とお友達になってくれないかな……」


 くまさんは少し恥ずかしそうに最後は小さな声になりながら言葉を絞り出した。


「なる! おともだちになるよ! これからよろしくね、くまさん!」


 女の子は目をキラキラと輝かせながら勢い込んで言い切った。手をぶんぶん振り回して。


「良かったね、くまさん」


 その様子をニコニコしながら私は見守っていた。


「あの、旅人さん! 僕、旅人さんともお友達になりたいです」


 女の子と友達になれて勇気が出たのか、くまさんは私にもそう言ってきた。


「いいよ。友達になろうか」


 ニコッと笑って私が了承するとくまさんはとても嬉しそうに笑った。







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