10.森のくまさんと仲良くなる
その後、私たちは何事もなくくまさんの家に着いた。家の中は大きな窓から日が差し込み温かかった。木製のテーブルに椅子が二脚向かい合って置いてある。食器棚も木製で家の雰囲気と調和している。
「素敵な家ですね」
と素直な感想を漏らすとくまさんはとても嬉しそうにした。
「ありがとうございます。僕の家にお客さんが来るのは初めてです。精一杯おもてなししますね」
とくまさんは張り切って準備に取り掛かった。嬉しいのか小さな丸い耳がピクピク動き、丸い尻尾も小刻みに揺れていた。くまさんはお湯を沸かしてハーブティーを入れてくれた。お茶菓子は蜂蜜飴だ。くまさんらしいなと笑みが零れる。
「どうですか? 僕の家の庭でとれたハーブをお茶にしてみました。蜂蜜も自家製です」
くまさんはこちらの様子を窺いながらおずおずと聞いてきた。
「美味しいですよ。これはレモンバームですか?」
と私がハーブティーの風味を楽しみながら聞くと、くまさんは頷いた。
「そうです。今回はレモンバームだけにしてみました。色々と組み合わせても美味しいんですよ」
とくまさんはニコニコしながら言う。セイは机の隅に座って両手で蜂蜜飴を持ち、小さな口で一生懸命に食べていた。気に入ったらしくニコニコしている。背中の羽をパタパタと揺らして鱗粉が舞っていた。私も蜂蜜飴を口に入れてみる。口に中で甘みが広がり幸せな気分になった。
「へぇー。そうなんですね。今度私も試してみようかな」
直ぐに解けた飴を飲み込んでからくまさんに答える。
「もし良かったら、僕が色々教えますよ。畑も案内しますし」
「え! いいんですか? それなら是非お願いします」
私は前のめりで返事をした。実際、畑には非常に興味があり見て回りたいと思っていたが、人の畑なので遠慮していたのだ。それが、案内されるとなると飛びつかない訳がない。そんな理由で、私は即座にお願いした。くまさんは私の勢いに驚いていたが。
「ここがハーブ畑です」
と早速くまさんが私を案内してくれた。色とりどりの葉が茂っている。私はハーブのいい香りを堪能していた。
「素敵な畑ですね。それにいい香りです」
私が素直な感想を漏らすと、くまさんが嬉しそうに微笑んだ。
「わかります? 本当に良い香りなんですよね。僕も香りを楽しみに時々ハーブ畑でのんびり過ごしています」
「それもいいですね。優雅な時間です」
「フフフ。特別に良いものを見せてあげましょう」
くまさんはそう言うと家に戻って行った。私もついて行く。すると、さっきは締まっていた部屋が空いていて、中からくまさんが顔を出した。
「こっちです。どうぞ」
とくまさんにて招きされたので、その部屋に向かう。部屋に入る前に良い香りが鼻をくすぐった。部屋に入るとミントの清潔な香りが広がっていた。
「ここは……」
「ハーブを乾燥させる部屋です。今の時期にもないハーブも干してあるので様々な香りを楽しめるんですよ」
とくまさんは言いながら干してあるハーブの説明を色々としてくれた。私の好きなレモンバームもしっかり干してあったが、ミントの香りが強く匂いが消されていて残念だった。くまさんの説明を一通り聞いてから部屋に戻った。
その後、くまさんと談笑したのだが、ハーブティーが美味しくてついつい飲み過ぎたのがいけなかった。
(ヤバい。トイレに行きたい。調子に乗って飲み過ぎた)
このまま我慢する訳にはいかず、素直にお願いすることにした。
「あのー。くまさん、お手洗い貸してもらえませんか?」
とおずおずと私が頼む。
「あ、いいですよ。こっちです」
とくまさんは言って、案内してくれた。家を出て隣の小さな小屋に案内された。
「ここで用を足してください。あっちに井戸があります。そっちで手を洗ってくださいね」
とくまさんは井戸の方を指した。
「分かりました。ありがとうございます」
と私は言い、小屋に入った。小屋のトイレはやはり水洗トイレではなかった。汲み取り式にぼっとん便所の様なものだった。トイレに入ったはいいものの此処で用を足したくはない。しかも拭くための紙がどこにもないのだ。紙の代わりに、葉っぱが置いてあったがあれは絶対に嫌だ。私は急いで【ガイドブック】を取り出し栞を挟んだ。そして、寮のお手洗いで用を済ませてから物語の世界に戻ってきた。
(この世界では絶対にトイレには行かん。寮で済ませよう)
そう私は心に誓った。物語の世界に戻ってから、井戸を見に行った。滑車式の井戸で結構力が要りそうだった。紐を引っ張って水を汲んでみる。やはり力が必要だった。井戸水を汲んで調べてみる。そうすると道具に収納できた。
(お、どれどれ。へぇー。道具欄にこんな感じに表示されるんじゃぁ)
と私は思いながら画面を見る。道具欄に井戸水と書かれたものが追加されていた。井戸水をタップすると詳細が表示される。その説明書きを読むと飲料可となっていた。
(此処の井戸水は綺麗なんじゃなぁ)
と心の中で感想を漏らす。一頻井戸水を調べた後、くまさんの家に再びお邪魔した。一応くまさんにお礼を言ってから、そろそろお暇することを告げる。くまさんは寂しそうにしていたが了承してくれた。
「また、遊びに来てくださいね」
「はい。また来ます」
そう言って私たちは別れを告げた。
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