1.物語の始まり
初めまして。
新しい作品を書き始めました。
こっちも毎週更新で頑張ります。
ゆっくり更新ですが、よろしくお願いします。
毎週水曜日、午前7時更新です。
ではでは(=゜ω゜)ノ
「わぁーーーー!」
私は驚きで声を上げる。見渡す限り木、木、草、草。凸凹した塗装されていない土と草の道。そんな森の一本道に私は立っていた。
私、大宮明は読書好きの大学4年生。何で森の中にいるかと言えば、読書をしていて迷い込んだのだ。意味が分からないだろう。私も分かっていない。ちょっと時を遡って経緯を説明しようと思う。
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―その日は、いつもと変わらない日のはずだった......―
大学が終わって帰り道、今日はバイトが無いので商店街の古本屋に寄る。バイトの無い日の私の日課は、本屋巡りだ。本屋を見て周ってから、古本屋へ行くのが通常のルート。なぜならそんなにお金が無いからだ。私の家は6人家族。私は4人兄弟の2番目で、兄は大学院生、弟は大学生、妹は高校生だ。両親は共働きで稼いでいるが、大学生三人に高校生を抱えているので、家計は決して裕福ではない。私は何とか地方の国立大学に受かり学費の半額免除をもぎ取った。兄も弟も似たようなものだ。そんなだから、欲しい本は古本屋で探して少しでもお金を節約するのだ。
貧乏なら本を買わなければいい? 否! 本は人生を豊かにさせるのだ。本の無い生活など考えられない。私はそれ程の本好きだった。活字中毒と言っても良いかも知れない。と言う訳で商店街の角にある古本屋に寄る。
「こんにちは!」
私は元気に挨拶をして中に入る。
「明ちゃん、いらっしゃい」
と古本屋のおじさんがニコニコしながら言ってきた。
「おじさん、何か面白い本入った?」
と私が古本を眺めながら聞く。
「あるよ。とびっきり面白いのが」
とおじさんは、丸眼鏡を手でくいっと挙げながら答えた。眼鏡の奥の瞳が笑っている。
「え、ほんと!」
ぱっとおじさんの方を向き、わくわくしながら聞いた。
「これだよ」
とおじさんはカウンターの下から重そうな本を一冊取り出した。黒のハードカバーでゴツゴツした印象を受ける。タイトルは『世界の扉』だった。
「この本? ちょっと分厚くて重そうだけど、他の本と違うの?」
と私が首をかしげて聞くとおじさんはチッチッチと指を振って答えた。
「明ちゃん、いつか本の中を旅したいって言ってただろ?」
「うん。言ったよ。それが何か?」
「なんとこの本、本の世界に入れるんだよ!」
とおじさんが得意げに言った。私は目が点になる。
「え? えぇぇぇぇぇぇ!」
それからびっくりしすぎて大声を上げてしまった。
「ほ、ほんまに!? 本の中に入れるってほんまなん!?」
びっくりしすぎて思わず方言が出てしまった。おじさんはそんなことは気にせず話を続ける。
「勿論さ。何たって試してみたからね」
とウインクしながらお茶目に言う。そんなおじさんを私はキラキラした瞳で見ていた。
「ねえねえ。どうやったん? どうやって本の中に入るん?」
私は続きが気になる子どもの様におじさんにせがんだ。
「この本の前書きを読めばわかるよ。ところで、この本を買うかい?」
とおじさんが言う。
「欲しい! でもでも、高いんでしょ?」
と勢いで私が言ってから、少し躊躇って上目遣いでおじさんに値段を聞く。
「こんな珍しい本、1冊しかないからね。本当は高いけど、いつも贔屓にしてくれている明ちゃんだから特別サービスで1万円にしてあげるよ」
「い、1万円!?」
私は急いで財布の中身を確認する。一万円札など財布に入っていないことは分かり切っている。私は千円札の枚数を数え始めた。千円札が9枚......。足りない。小銭を確認するが、それでも足りなかった。しかも、一万円も本に使ってしまうと今月の食費が無くなってしまう。私は涙目になりながら考えた。
(本。めっちゃ欲しい。1冊しかない本なんて貴重過ぎじゃし、そんな本めったに巡り会えんし......。でもでも、ご飯食べられん様になるのは困るし......。しかも、お金足りんし、どうしょうか?)
「おじちゃん、お金足りんかった……。ちょっとまけてくれん?」
涙目のまま私が言うと、おじさんは少し考えてこう言った。
「よし! じゃあ、こうしよう。千円で売る代わりに、本の世界で旅した話を聞かせに来ること。この条件が飲めるのなら、千円にまけてあげるよ」
とおじさんはウインクして言った。
「ほんまに!? 聞かせに来るから千円で売って!」
と勢いよく私は言った。心の中では(おじちゃんイケメン、かっこいい、惚れるわ)等、称賛の嵐だった。そして、財布から千円札を一枚取り出しておじさんに渡す。おじさんが会計を済ませて本を袋に入れて渡してくれた。
「じゃあ、本の旅を楽しんでな」
とおじさんが言った。
「うん。ありがとう。また来ます!」
私は本を大事に抱えて返事をする。
これが私と『世界の扉』の本との出会いだった。
感想や評価をしてくださると嬉しいです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。