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その7 うなる剛腕

 グレートキングデビルは、リングに上がったトロールの一匹をコーナーに押し付けると水平チョップを叩き込んだ。


 パアン!


 肉を打つ音が会場?に響き渡る。


 パアン! パアン! パアン! パアン! パアン!


 オイ! オイ! オイ! オイ! オイ!


『グレートキングデビルのマシンガンチョップだー!』

『あー、僕はあの技だけは二度とくらいたくないです。前に試合で受けた時には、次の日までダメージが残りましたからね。』


 多くのレスラーから「あの技だけは勘弁してくれ」と言わしめたグレートキングデビルのマシンガンチョップである。

 しかし、そのグレートキングデビルの無防備な背中に別のトロール達が襲い掛かろうとする。

 危うしグレートキングデビル!

 だが、優れたレスラーはリング上の出来事を全て把握しているという。

 グレートキングデビルは背中に目が付いているかのごとく、攻撃の瞬間にクルリと振り返ると、襲い掛かってきたトロール達をまとめてコーナーに押し付けた。


「いくぞーーっ!」


 パアン! パアン! パアン! パアン! パアン!


 オオオオオオッ!


 グレートキングデビルのマシンガンチョップは一番手前のトロールの体にしか当たっていない。

 しかしそのチョップの威力は体を貫通してコーナーに押し付けられた全てのトロールにダメージを与えているようだ。

 そんな事は有り得ないって? 否。プロレスのリング上では起こり得るのだ。

 その証拠にプロレスの試合では普通に見られる光景なのだ。考えるな、感じろ。論より証拠だ。


 グレートキングデビルはコーナーのトロール達をまとめてリング下に落とすと、今度は自分から背後のトロールに襲い掛かった。

 グレートキングデビルのタックルをくらい、転倒するトロール。グレートキングデビルはそのトロールの体をホールド。自ら後方に倒れこむように回転する。


『おおっと、ここでグレートキングデビルの得意技、回転揺り椅子固めローリング・クレイドルだ! いつまで回るんだー!』

「「おおおっ! G・K・D! G・K・D!」」


 グレートキングデビルはそのままトロールを回転揺り椅子固めローリング・クレイドルに捉えると、リングの上をグルグルと回転する。

 リング上のトロールは回転するグレートキングデビルに弾き飛ばされて次々とリングから落ちていく。

 若干やらせっぽいようにも見えるがハルトとハヤテは大興奮だ。


 ちなみにハヤテは今ではリングサイドかぶりつきで応援している。

 その大きな翼の上にはハルトが上って声援を送っている。

 カイとティルシアは逆の翼の上に座ってぼんやりとリングを眺めている。

 彼らの目からは光が消えている。この展開について行けずに理解する事を放棄してしまったのだ。



 こうしてグレートキングデビルがリング上でトロールの集団を相手に闘い出して、すでに30分を過ぎている。しかし、彼の体力は一向に落ちる気配が無い。

 かつて日本プロレス界のとあるベルトをかけた一戦で、猛牛ファイトで有名な当時のチャンピオンが59分45秒闘って脱水症状を起こしてKO負けをしたことがある。

 しかしこのことは、逆を返せば頂点に立つほどのプロレスラーは59分45秒までは十分に闘えるということにもなる。

 もちろんグレートキングデビルとて一流のレスラーだ。例外では有り得ない。


 グレートキングデビルは抱えていたトロールをリングの下にポイ捨てすると、リング下のトロール達をねめつけながらリングを一周する。

 しかし、散々叩きのめされたトロール達は怯えて誰もリング上に上がろうとしない。それどころかグレートキングデビルと目も合わせられない。

 観客?からヘタレなトロール達にブーイングが沸き起こる。


「「ブー! ブー! ブー!」」


 すると突然、今まで怯えるだけだったトロール達が急に驚いたように後ろを振り返ると、左右に分かれて道を開けた。

 道の中を歩いてくるのはひときわ大きな個体。体長2.5m。大きな角を持つ筋骨隆々の黒い色のトロールだ。


『おっと、ここでついにトロールを代表する選手の登場か?!』

『ボスですよきっと。トロールのボスだ間違いありませんね。』


 トロール・ボスは手にした大きな武器を投げ捨てると素手でリングの上に上がった。

 どうやらグレートキングデビルに素手でタイマン勝負を挑むつもりのようである。

 熱い展開に会場?が大きな歓声に包まれる。


「おおっ! 分かってるじゃないか! 見直したぞトロール!」「ああ! それでこそ漢だ!」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ


 会場?が割れんばかりの拍手に包まれる。

 トロール・ボスの男気にうたれたのか、グレートキングデビルが手を差し出し握手を求める。

 トロール界にも握手の習慣はあるのか、トロール・ボスが鷹揚にその握手に応える。

 しかし、グレートキングデビルは相手の手が塞がっているのを良いことに、卑怯にもトロール・ボスの腹に蹴りを入れた。


『あーっ! ここでグレートキングデビルが奇襲を仕掛けた!』

『もったいぶってないで最初から出てこい、というグレートキングデビル選手からのメッセージでしょうね。』


 たまらず膝をつくトロール・ボス。

 グレートキングデビルは握った拳を天を突くかのごとく高々と掲げた。


『ええっ! ここでいきなり剛腕を抜くつもりでしょうか?!』

『本当ですか?! いやあ早すぎですよ、グレートキングデビル選手。何を焦っているんでしょうか。』


 会場?から大きなどよめきが上がる。

 しかし、グレートキングデビルの動きは止まらない。


 メキッ!


 拳に力が入ると、グレートキングデビルの右腕は一回り大きく膨らんだように見えた。


 ゴウッ!


 剛腕が空気を引き裂く音と共にトロール・ボスの胸板にパッっと汗のしぶきが上がる。


 ドシイッツ! 


 ワアアアアアアッ!


『グレートキングデビルの剛腕ラリアット! トロール・ボス一回転! 顔面からマットに倒れた!』

『立てー! 立ってくれトロール・ボス! 試合は始まったばかりだろう!』


 解説のタイガー・サンダーさんの叫びに会場も呼応する。


 ト・ロール! ト・ロール! ト・ロール!


 ワン~ ツゥ~


 大トロール・コールが起こる中、どこからともなくダウンカウントが流れ出す。


「「ト・ロール! ト・ロール! ト・ロール!」」


「なんでハルト達は自分達を襲って来たトロールを応援しているんだろうな。」

「さあ、僕には異世界の事は分からないから。」


 会場?のトロールコールに加わるハルトとハヤテに、ティルシアとカイが乾いた視線を送る。

 ティトゥもハヤテの操縦席の中でジト目で自分のドラゴンを見ている。


 ナイン~ ・・・テェン!!


 カン! カン! カン! カン! カン!


『カウントテン! グレートキングデビル、バトルロイヤル戦を制しました!』

『ええ~っ。これで終わっちゃうの?』


 ブウウウ! ブウウウ!


 会場は割れんばかりの大ブーイングである。

 しかしグレートキングデビルは無反応である。かなりお疲れ様の様子だ。

 どうやらグレートキングデビルはそろそろ自分の体力の限界が近いとみて巻き(・・)で試合を終わらせたようである。

 プロレスラーは59分45秒まで闘えるんじゃないのかって? プロレスラーだって人の子だ。ペース配分を間違えて早目にバテてしまうことだってあるのだ。


 ここにグレートキングデビルは、44分32秒テンカウント勝利でバトルロイヤル戦を制したのである。



 会場?を揺るがすブーイングが次第に小さくなってゆく。

 エメラルドグリーンのリングが大地に吸い込まれるように消えてゆく。

 残ったのはうつ伏せに倒れたトロール・ボスと仁王立ちのグレートキングデビルだけである。


 グレートキングデビルはトロール・ボスをひっくり返すと「じゃあ約束通りお前のマスクはもらっていくぞ。」とお約束のセリフを言うが・・・当然のようにトロール・ボスはマスクなど被ってはいない。


「まあ流石に今回は気付いていたけどな。」


 さらっと流すグレートキングデビルだが、だったら言わないでほしい。


 ボスの姿に周囲のトロールが一斉にショックを受けて項垂れる。


「むっ?」


 すっかり元気を失くしてしまったトロール達は三々五々、パラパラと櫛の歯が欠けるように村を去って行った。

 グレートキングデビルはトロール・ボスの髪の毛を掴むと・・・


「ま、待ってくれ!」


 ハルトの呼びかけに去ろうとしていた足を止めた。

次回「勝利者インタビュー」

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