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その5 トロール

 カイ達が調査のために入った村の周りを異形の化け物達がぐるりと取り囲む。

 かなりの数だ。この包囲網を破って村から逃げ出すのは困難だろう。

 異形の化け物の名前はトロール。身長は2m弱。やたらと太い両腕は地面に付きそうなほど長く伸びている。

 肌の色は灰色でまるでゴムのような弾力と硬さを持ち、生半可な攻撃は通さない。

 各々手に肉切り包丁のような形の武器を持ち、ホウホウという警告音を叫びながらカイ達の立てこもる食糧庫に近付いてくる。


 

 ここは食糧庫の中。最初のトロールがここに到達するまでさほど時間は残されていない。

 カイ達はこの籠城戦の最後の打ち合わせを行っていた。


「スマンが俺はここでは階位(レベル)1のザコだ。戦力として数えないで欲しい。」


 黒髪の地味な青年、ハルトが苦々しく告げる。


「ハルトの分は私が戦うさ。私は階位(レベル)5だ。このメンバーだと私が前衛を受け持つ事になりそうだな。」


 ウサギ獣人の少女、ティルシアがカイの方を見て言う。

 カイはいつもの笑みを浮かべつつ軽く肩をすくめた。


「僕のパラメータは最低値だからお任せするよ。僕は後ろから魔法で援護に徹するね。」「魔法が使えるのか?!」「その杖か? アーティファクトなのか?」


 アーティファクトが何を意味するのかは分からないが、おそらくマジックアイテムのことだろうとあたりを付けるカイ。


「分かった。前衛がティルシア、後衛がカイ。貴族のお嬢様とエタンは俺の後ろにいろ。抜けてきたヤツは俺が相手をする。どこまで歯が立つかは分からんがな。」


 ハルトの持つナタはプラス武器と呼ばれる能力が底上げされた武器だ。

 見た目よりも遥かに強力だが、それを使うハルトは階位(レベル)1の筋力でしかない。

 ティルシアの見立てでは階位(レベル)3相当のトロールにどこまで通じるかは未知数だ。


 室内に漂う重い空気に、ピンクの髪の少女ティトゥが覚悟を決めて叫ぶ。


「ハヤテならあんな相手イチコロですわ! 私を援護して下さいな。ハヤテの力であいつらを蹴散らしてみせますわ!」


 そう言うや否や、立てこもった食糧庫から外へと走り出す。

 慌ててティトゥに手を伸ばすティルシア。


「馬鹿! よせ!」「いや、行かせろ! 俺達もお嬢様を援護してハヤテの元に送り届けたら直ぐにここに戻るぞ!」


 カイもハルトの考えを察して飛び出す。


「どうして?!」「ハヤテは空中にいれば安全だ。お嬢様にはハヤテの中に避難していてもらう。」


 そういうことである。魔法を使えないトロールは空中のハヤテに有効な攻撃手段を持たない。

 ハルトは保護対象のティトゥをハヤテに乗せて空に逃がしておくことにしたのである。

 

 ハヤテは迎撃のため今まさに飛び立とうとしていた所だったが、仲間達が駆け寄って来たため急遽発進を取り止める。

 ハヤテに駆け寄るティトゥの前に立ちふさがるトロール。


「礫!」


 パン!


 乾いた破裂音がすると、カイの杖の先から土で出来た弾丸が射出され、トロールの胸板に着弾した。

 悲鳴を上げながらもんどりうって倒れるトロール。


「ティトゥ、危ない! みんなと一緒にーー」「私も戦いますわ!」


 足を止めずにハヤテに駆け寄るとひらりと乗り込むティトゥ。


「ハヤテ! お前はその子を守れ!」


 ハルトの言葉の余裕の無さに、ハヤテは状況が良くない事を察する。

 ハヤテはティトゥが乗り込むのを待ってブーストをかける。

 疾走するタイヤが地面を切るとハヤテは宙に浮かんだ。

 しかし、ハルト達はその姿を見ることは出来なかった。

 次々とトロール達が襲い掛かって来たのである。



 ハヤテは焦る気持ちを押さえて一旦村から離れながら高度を取る。

 上空から見るとハルト達が群がるトロールに苦戦している。


「みんなが危ないですわ! ハヤテ!」

「分かってる! 急降下するよ、安全バンドをして!」


 座席と風防の隙間から必死に後ろを見ていたティトゥが、ハヤテの言葉に慌てて座席につくと安全バンドを締める。

 ハヤテは180度ループ・アンド・ロール、インメルマンターンで反転。

 日頃のハヤテならティトゥを乗せている時には決してしない空 中 機 動(エア・マニューバ)に、ティトゥは懸命に悲鳴をかみ殺す。

 ハヤテも仲間のピンチに焦っているのである。

 村を正面に捉えたハヤテは上空からトロールの集団に襲い掛かる。


 ドドドドド


 四式戦の四門の機関砲が火を噴く。薄暗くなった空に20mm機関砲の曳光弾の光跡が美しい光の線を描く。



 地上ではハルト達がトロールに囲まれて危険な状況にあった。


「どけっ! モンスター共!」


 流石にティルシアの力は凄まじく、群がるトロールをバッサバッサとなぎ倒す。

 しかし、次から次へと襲い掛かるトロール達にその場に釘付けにされていた。


(不味いな。俺は一緒に外に出るべきじゃなかった。)


 このジリ貧の状況を招いた自分の判断ミスに臍を噛むハルト。

 そう。もしこの場にいるのがティルシアだけなら、彼女は強引に突破口を切り開いて食糧庫に戻る事が出来ていただろう。

 今、彼女が未だにこの場所で身動きが取れないでいるのは、自分の背後にカイとハルトがいるからなのである。

 そして、より足手まといになっているのは、戦えないハルトの方であることは間違いない。


 ハルトが何か方法が無いかと辺りを見渡した時、トロール達の動きに乱れが生じた。

 空から聞こえるヴーンという飛行音。


「ハヤテか!」


 ドドドドド


 死神の咆哮がとどろき、トロール達が悲鳴を上げて逃げ惑う。

 トロールの手が足が、真っ赤な血しぶきと共に辺りにぶちまけられる。


 ゴーウゥ!


 恐るべき破壊の使者は轟音と共に上空を横切って行った。


「な・・・なんてヤツだ。アイツこんな化け物だったのか。」


 ティルシアの頭のウサ耳はハヤテの攻撃と轟音の凄まじさにペタンと倒れている。


「今だ! トロールの包囲網を突破するぞ!」


 味方に対して誤射することを恐れたハヤテは、ハルト達から遠く離れたトロールを攻撃した。

 しかし、浮足立ったトロールはあちこちで右往左往している。

 カイは自分達の前に立ちふさがるトロールの集団に杖を向けた。


「渦!」


 パン!


 空気が弾ける音がして、トロールの集団の中心に小さな竜巻が発生する。

 弾き飛ばされて転倒するトロール達。殺傷能力は低いが効果範囲の広い魔法のようだ。

 トロールの集団の中に駆け抜けるのに十分な隙間が空いた。


「よしっ! 続け!」


 ティルシアが大砲から放たれた弾のような勢いでその隙間に突撃すると縦横無尽に暴れまわる。

 その後ろからハルト、殿をカイが勤める。


 そのまま彼らは一団となってトロールの集団を突破、無事に食糧庫に転がり込んだ。


「ティルシア!」「任せろ!」


 ティルシアはそのまま入り口に立ちふさがり、トロールを切り伏せる。

 カイも後ろを気にしながら彼女の援護に回る。


「エタン! 無事か?!」


 食糧庫の奥に駆け込みながらハルトは一人残されたエタンを捜す。

 しかし、そこにいたのはエタンではなかった。


「ボーウ!」「トロール!」


 すでに一匹、食糧庫に潜り込んでいたトロールがいたのである。


(しまった! やられる!)


 その時ハルトの脇腹を掠めるように塊が飛び、トロールの腹に直撃した。

 カイによる土属性魔法の攻撃である。

 室内を警戒していたカイはハルトとほぼ同時にトロールの存在に気が付き、咄嗟に魔法で攻撃したのだ。

 腹を押さえて膝をつくトロール。丁度良い高さに来たトロールの喉元に、テニスのバックハンドのような形でハルトのナタが叩き込まれる。


 ズシッ


 ゴムの塊を切りつけたような重い手ごたえにハルトの手が痺れる。

 しかし、彼の繰り出したナタは見事にトロールの喉を切り裂き、頚椎の半ばにまで食い込んだ。

 こじるようにしてナタを引き抜くと、サッと後ろに下がるハルト。

 トロールは喉から噴水のように血を噴き出しながら音を立てて倒れた。


「すまんカイ、助かった。まさかもう入り込んだヤツが・・・」 


 しかしハルトはその先を続ける事が出来なかった。

 信じられない物を見る目で目の前のトロールの死体を見つめるハルト。


「そんな・・・まさか・・・こんな事があるのか?」


 カイはそんなハルトを訝しげに見る。


「今は戦闘中だよ、ハルト。考え事なら後にしよう。」


 戦闘中に茫然自失になるハルトに忠告するカイ。

 ハルトはその言葉にハッと我に返ると、急いでティルシアの元へと向かう。


「ティルシア! 俺に止めをささせろ! この島はダンジョン(・・・・・・・・・)だ!」


 ハルトの言葉に驚愕するティルシア。

 しかし、事態はここから更に展開する。



 ピクリッ! 突然ティルシアのウサ耳が何かの音に反応する。


「何だ、この音は? 音楽か?」


 ティルシアの言葉にカイとハルトの足が止まる。

 すると二人の耳にもその音楽が聞こえてくる。


「確かに音楽だね。でも、どこから聞こえてくるんだろう?」


 突如としてどこからともなく流れてきた音楽を訝しむカイとティルシア。

 しかし、ハルトは電気に撃たれたように体を震わせる。


「馬鹿な! この曲は”GREAT SWORD”! グレートキングデビルの入場曲じゃないか!」

次回「蘇る伝説」

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