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その4 襲撃

「準備を手伝えずに済まなかった。つい話が弾んでしまって。」


 ハルトはスッキリとした顔で家に入るとテーブルにつく。

 その険の取れた穏やかな顔にティルシアが衝撃を受け、彼女のウサ耳もピンと立つ。


「お前本当にハルトなのか?!」

「何を言ってるんだ?」


 そんな二人に苦笑するカイ。


「それより食事にしよう。簡単な調理しかできなかったけど、そこは我慢してね。」


 材料の提供はハルトである。彼は何故か保存食を大量に持っていたので、今日の食事はそれの味を調えて火を通した物になる。

 とは言うものの・・・


「悪くない。」「まあ食えるな。」「私はちょっと・・・。」「ごめんなさい、もっと他に食材があれば良かったんですが。」「貴族のご令嬢の口には合わなかったようだね。」


 ハルトの提供した保存食は、元々保存性に全振りしたかのようなヒドイ味である。調理されてもその味はたかが知れていた。

 慣れているのかハルトとティルシアは無心で食事を口に運ぶ。

 貴族の令嬢であるティトゥは食が進まない様子だ。

 それを見たエタンが申し訳なさそうにしている。


「あのドラゴンの飯はいいのか?」

「ああ、飯は食わないそうだ。睡眠もいらないそうだぞ。便利な体だよな。」


 ティルシアの疑問に横からハルトが答える。

 食事も睡眠もいらないという話に全員が驚く。

 ティトゥも食事はともかく睡眠については初めて知ったようだ。

 自分が知らなかったことまでハルトに教えたハヤテに対し、ティトゥは見捨てられた気分になる。

 周囲はそんなティトゥの気持ちに気が付くこともなく会話を続ける。


「それで俺とハヤテで少し考えたんだがいいだろうか?」




 食後、彼らは白湯を手に今後の打ち合わせを行うことにした。


「まず最初に言っておくが、俺とハヤテは地球と呼ばれる星の日本という国に住んでいた別世界の人間だ。」


 ハルトの発言に全員が衝撃を受ける。

 ティルシアがハルトに詰め寄る。


「お前・・・私にそんな大事な事を黙っていたのか!」

「すまん。俺はフォスのーー俺にとって異世界の人間を信用出来なかったんだ。」


 バッサリ切られて言葉を詰まらせるティルシア。


「だがこうなった以上お前も俺と同じ立場だ。情報は共有するべきだと思う。」


 それが先程、ハルトとハヤテの間で相談した上で出た結論だった。

 ハルトはカイの方へと目をやる。


「この中ではカイ、お前だけがこの世界の人間だ。事情を説明するので俺達に協力して欲しい。」


 ハルトーー青木晴斗が異世界フォスに転移した時、当時中学生だった彼は突然天涯孤独の身となった。

 彼は子供を食い物にする質の悪い異世界人から様々な洗礼を受け、その結果誰も信じられなくなった。

 しかし、この二度目の転移では同じ境遇の仲間もいれば、同郷の日本人もいる。

 ここでのハルトは異世界の生活によって歪められる前のーー協調性がありリーダーシップのある本来の彼の性格が前面に出るようになっていた。


「先ず、なかなか信じられないかもしれないが、この世界は俺達にとっては見ず知らずの異世界だ。そこは大前提として理解して欲しい。俺達はどうやってここに来たのかも分からなければ、現状では帰る方法も分からない。だから俺達は帰る方法を知っている者を捜さなければならない。」

「そんな人いるんですか?」

「ああ、俺はこの世界の神なら元の世界に帰る方法、”界を渡る”方法を知っていると思っている。」


 ハルトの言葉にカイは今度こそ本当に驚きに目を見開く。


(ハルトはどこまで世界の仕組みについて知っているんだ?!)


 カイの驚きをハルトは違う意味に捉えたようだ。

 少し申し訳なさそうにしながら言う。


「神に会う、などと言われれば驚くのも当然だ。俺の正気を疑うのも仕方が無い。しかし、俺は世界に神が存在することも、神と人間との間で会話が成り立つことも知っているんだ。だからどうか落ち着いて俺の話を聞いて欲しいーー」


 その時、家の外で爆音が鳴り響いた。


「ハヤテ!」


 それは四式戦・ハヤテのエンジン音だった。

 ティトゥはドアを開けるとピンクの髪をなびかせて飛び出して行く。


「ティルシア! ぼんやりしている場合か!」


 ハルトが立てかけてあった彼の武器ーーナタを手にウサギ獣人の少女を怒鳴りつける。


「あ、ああスマン。」


 ティルシアはいつもの彼女らしからぬ、少し精彩を欠いた動きであたふたと武器を手にする。

 同じく杖を手にしたカイが隣の席のエタンに声を掛ける。


「君は戦いは?」

「ム・・・ムリです! 僕に戦いなんて!」


 カイはエタンが調理中に小さなお守りを手に火属性の魔法を使っていたのを見ていた。


(やけにマナの流れが悪い魔道具だと思ったけど、やっぱり戦闘には使えないんだな。)


 怯えるエタンにカイはいつもの柔らかな笑顔を向ける。


「ならもし戦闘になった場合、君はどこかに隠れていることだ。いいね?」


 そう告げると、カイはハルトとティルシアを追って家の外へと駆け出すのだった。




 みんなが家の中で食事を行っている間、四式戦・ハヤテは自発的に周囲の見張りを行っていた。

 村は夕焼けに真っ赤に染まっている。

 村の広場で一人ポツンと佇むハヤテは、ここが無人の村ということも相まって強い孤独感と物悲しい郷愁を感じていた。

 久しぶりに日本人と日本語で会話をしたことも、そんな気持ちに拍車を掛ける原因となっていたのかもしれない。


『ん? 何だ? 今、村の外で何か光ったような・・・』


 そんな風に一人黄昏ていたハヤテの目が、村の外に太陽の残照の反射を捉えた。

 村の外は森である。光るような物があるとは思えない。

 ハヤテは気を引き締めると警戒を強め、全周をぼんやりとまんべんなく見渡す。

 すると今まで見えなかった不自然な動きに気が付いた。


(この村が何者かに囲まれている?!)


 ハヤテは急いでエンジンをかけると大きくふかし、家の中の仲間に警戒を呼び掛けた。



「ハヤテ! どうしたんですの!」


 最初に飛び出して来たのはティトゥだった。


「警戒して! 村の外に何かいる!」


 ハヤテの声に反応したのは後から出てきたハルト達であった。

 ティルシアの頭のウサ耳がピクリと反応する。


「くそっ! 囲まれているぞ!」

「不味いな・・・ここじゃ俺達に不利だ。」


 見通しの良い村の中である。建物の中に立てこもって防ごうにも周りは壁も造りも貧弱な民家しかない。


「こっちに! 村の避難場所があります!」


 エタンの住むペリヤ村では村の中央に頑丈に作られた大きな食糧庫がある。

 そこはいざという時には村人の避難場所になっていた。

 もちろんここはペリヤ村では無い。

 慌てたエタンの勇み足だったのだが、幸いなことに同じ場所に食糧庫が存在していた。


「これならいけそうだ。エタンとお嬢様はこの中に。カイ、お前は・・・」

「僕の事なら心配なく。それよりそろそろ来そうだよ。」


 カイが杖で指し示した先。村の入り口からぞろぞろと異形の者達が侵入してきた。


「あれは乱暴猿? じゃない? 手に武器を持っているぞ。」


 ティルシアが異形の集団を見て呟く。乱暴猿はダンジョンの2階層に生息するモンスターだ。

 駆け出しダンジョン夫の最初の壁ともいえる狂暴なモンスターである。


「あれはトロールだね。ああ見えて魔獣だから。」


 トロールは人に似た姿と武器を使うことから、人間の間では魔族と思われている。

 しかし、カイは魔王本人から彼らが魔獣であると聞いている。

 実際にトロールには魔族の特徴である角も生えていないし、当然魔法も使えない。戦ってレベルアップをすることもない。

 しかし、その戦闘力は侮れないものがある。


「魔獣?! 魔王軍の?! あんなに大勢いるなんて!」


 相手が魔獣と聞き、エタンの顔が血の気を失い紙のように真っ白になる。歯の根が合わずにカチカチと歯を鳴らす。

 魔獣相手に随分と大袈裟な反応をする、と、エタンを不思議そうに見たカイだったが、戦う力のない村人にとってはそんなものかもしれないと納得したようだ。

 ハルトとティルシアは方位の輪を縮めつつあるトロール達を観察している。


「割と手ごわそうだ。階位(レベル)3はありそうだぞ。」

「マジか・・・階位(レベル)3があの数、灰色狼の群れ以上の規模か。」


 灰色狼はダンジョンの3階層を徘徊するモンスターだ。群れの場合は階位(レベル)4相当と言われている。年に一度はうかつなダンジョン夫が犠牲になっている、3階層の要注意モンスターだ。


(ダンジョンの外では俺は階位(レベル)1のクソザコに過ぎない。ティルシアとカイだけでどこまでしのげるか・・・)


「全員で食糧庫に入ろう。入り口から入って来た数匹ずつを相手にするんだ。」


 ハルトは籠城戦を決意する。

 ハルトの提案の無謀さにハッとするティルシアだったが、すぐに彼女も他に選択肢は無いと気付いたようだ。

 まともな戦力が二人、自分の身を守ることもおぼつかないお荷物が三人。これでは最初からまともな戦いにならない。

 彼女は幼い見た目に似合わない凄絶な笑みを浮かべる。


「いいだろう。私一人でヤツらを皆殺しにしてやるさ。」

「僕の事を忘れてないよね? もちろん僕も手伝うよ。」


 こちらはこんな場面でもいつもの笑みを浮かべるカイである。

 しかし、元傭兵のティルシア同様、戦場を良く知るカイは、内心ではこの作戦の困難さを痛いほど理解していた。


(いざという時には神器を使ってでもみんなを守らなければ・・・)


 ただ、どこまで知っているか未だに底を見せないハルトに神器を見せるのは最後の手段にしたい。

 カイは懐の中の神器の存在を強く意識した。


 先頭のトロールが吠えるのを合図に、次々と村の中にトロール達が侵入して来た。

次回「トロール」

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