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その13 最終日

 月明かりの下、ぼんやりと佇むティルシア。

 そんな彼女にハルトが声を掛ける。


「どうしたんだ? 眠れないのか?」

「ハルト、お前は今日の話をいつから知っていたんだ?」


 ティルシアの問いかけに少しだけ考えるハルト。


「いつだったかな? 正確には思い出せないが、4~5年前? そのくらいだったと思う。」

「だからなのか? だからハルトはそんな平気な顔をしていられるのか?」

「どういう意味だ?」


 ハルトに振り返ったティルシアの顔は青ざめていた。


「私は怖いんだ! 自分のいた世界がこんなあやふやな物で、今まで平気で入っていたダンジョンがそんな得体の知れないモノだと聞かされて、もう自分が何を信じて良いのか分からなくなったんだ! 元の世界に帰れても、こんな恐ろしい事を知ってしまって私はどう生きていけばいいんだ?!」


 ハルトはティルシアのこんな弱々しい姿を見たのは初めてだった。

 ショックを受けて立ち尽くすハルト。


(ーーいや、ティルシアだってもし日本に生まれていればまだ大学生くらいの女の子なんだ。不安に耐えられなくなることだってあって当然か。)


 ハルトはそっとティルシアの肩に手を置く。


「今まで通り生活すればいいだろ? 何も変わらない。」

「だが! 私は知ってしまった! もう恐ろしくてダンジョンに近付く事だって出来ないかもしれない!」


 ハルトは肩をすくめる。


「だったらマルティンの所で仕事をすればいいさ。帰れさえすればその後の事はその時になって考えればいいさ。”迷ったら食ってみろ!”前にお前が言ってたよな?」

「? 私はそんなこと言った覚えは無いぞ?」


 あれっ? そうだったか? そう言えばハヤテに言われたような気もするし、ずっと昔にゲームか何かで聞いたセリフだった気もする。

 ハルトは少し記憶を探ったがすぐには答えは出そうに無かった。


「まあいいか。ほら、立ってないで少しそこに座ろう。話していれば気もまぎれて眠気も来るさ。」


 そう言ってティルシアの肩を抱き、適当な場所に案内しようとするハルト。

 しかし、ティルシアは自分からハルトに抱き着くと彼の胸に顔をうずめた。


「お、おい、ティルシア!」

「少しでいい、こうしておいてくれ! 頼む!」


 慌ててティルシアの両肩を掴んで引き離そうとしたハルトだったが、掴んだ彼女の肩が細かく震えているのに気が付いて入れた力を抜く。


 いつもの俺の階位(レベル)なら今頃背骨が悲鳴を上げている所だな。


 怯えてしがみついているティルシアの力はかなりのものだ。

 ハルトは自分のスキルに感謝すると共に、ティルシアの肩から手を離すとその手を彼女の背中に回してそっと抱きしめた。

 一瞬ビクリと反応したティルシアだったが、安心したようにハルトに体を預けてきた。

 月明かりの下、青年と小さな少女は抱き合ったまま互いの体温を感じ合うのだった。




「ふああ・・・。 さあ行きますわよ、ハヤテ。」


 翌朝、ティトゥは早速ハヤテに乗り込むと安全バンドを締めた。

 安全バンドとは自動車の後部座席に付いている腰の所で固定するシートベルトのようなモノだ。

 旅客機に乗ったことのある人ならピンとくるのではないだろうか。


「貴族の令嬢が大あくびをしてちゃ駄目だと思うよ。」

「・・・貴方本当にカーチャみたいに口うるさいですわね。」


 貴族の令嬢とか関係なく、年頃の娘が大口あけてあくびをするのってどうだろう。

 ハヤテは日に日にダメになっていくティトゥの女子力をこっそり心配する。



 ハルトとの打ち合わせでは今日はボス戦が予想されていた。


「俺の所のダンジョンにはいなかったが、ダンジョン最下層といえばボス戦がお約束だ。備えておいて損はないだろう。」


 そのため、今日はハヤテの偵察が終わってから出発することになっていた。


「責任重大なんだからちゃんとしようね。」

「もちろんですわ。いつまでも喋ってないで、ほら、出発ですわ。」


 ハヤテはブーストをかけると大地を疾走。

 やがて翼が揚力を掴み、タイヤが地面を切る。


 朝日を浴びて四式戦闘機が大空へと飛び立った。




「ハヤテが戻り次第出発しよう。」

「そ・・・そうだな! ハルト!」


 今、ハルト達は最後の支度をしている所だった。

 どこかギクシャクしているハルトとティルシアに微妙な目を向けるカイとエタン。


「昨日の夜、君達に何があったのか「何もなかったに決まっているだろう!!」・・・何もないならそれでいいけど、戦闘の時には変な気持ちを持ち込まないでよね。」


 ウサ耳をピンと立ててワタワタと慌てるティルシアと額に手を当てて頭痛を堪えるハルト。


(恥ずかしい気持ちは分かるが、それだと逆に何かあったみたいだろうが。)


 カイとエタンはキスくらいはしたんだろうと思っているが、二人はしばらく抱き合っただけで、そのままみんなのいるテントまで戻って朝まで寝た。

 そもそも、いずれ日本に帰るつもりの自分が異世界フォスの人間と親しくなる事は無い。

 ハルトはそう思っていた。今のところは。


「変な気持ちなんてあるわけないだろう! 何を言っているんだお前は!」

「・・・はあ。そういう所を言ってるんだけど。ハルト、君は大丈夫だよね?」

「・・・ティルシアのような事は無い。」


 ため息をつくカイに目を合わせずにハルトが呟く。


「だったらいいけど。」


 そう言うとカイは自分に気合を入れ直す。

 島の中心では未知の神との遭遇の可能性があるのだ。

 カイとしても緊張せずにはいられない。


(良いように考えれば変に緊張されるよりこっちの方がマシ、なのか?)


 カイはハヤテが去った空を眺めると・・・


「えっ?! マナの流れが変わった?! まさかまた転移?!」

「どうした、カイ! 何があったんだ?!」

「転移だと?! どういうことだ?!」


 カイの見つめる先、ハヤテが向かう先に巨大なマナの渦が発生した。


「大気中のマナの密度が上がっている! ハヤテの向かう先だ!」


 カイの言葉に慌ててハヤテの方を見るハルト達。


(マナの密度が上がる?! まさかこれは・・・)


 ハルトはその現象に一つ心当たりがあった。

 それはモンスターの誕生である。

 空中の巨大なマナの渦から誕生するモンスター。それこそがーー



 その時、ハヤテ達もマナの異常を感じていた。

 とはいうものの彼にマナを感じる計器は無い。

 ハヤテは今、空間を揺らす振動に振り回されていたのだ。

 突然ガクガクと揺れ出すハヤテに悲鳴を上げるティトゥ。


「あの時みたいに揺れていますわ! ひょっとしてこれって元の世界に戻るんじゃありませんの?!」

「どうだろう? そうかな? いや、違う! 前を見てティトゥ!」


 その時、空中の巨大なマナの渦が消え、巨大なモンスターが姿を現した。


「ドラゴン!!」


 そう、体長10mを越える、背中に翼を持つ巨大なトカゲのようなモンスター。


 西洋のドラゴンそのままの姿のモンスターが四式戦闘機・ハヤテの前に立ちはだかったのである。

次回「竜騎士(ドラゴンライダー)vsドラゴン」

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