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その10 島の中央を目指して

「これでは私達には手が出せませんわね。」


 ティトゥが四式戦闘機・ハヤテの操縦席でぼやく。

 丁度森を抜けた所、草原のようになった場所でハルト達がわさわさとうごめく蔦に囲まれていた。

 確かにここにハヤテが突っ込めば味方に誤爆する恐れがあるだろう。

 もし攻撃で火でも付けば、仲間が火に巻かれて焼け死ぬ恐れすらある。



「この魔獣は血吸い蔦。植物型の魔獣は構造上死角がないから、これだけの数に囲まれると流石にやっかいだね。」

「昨日の人型のモンスターに続いて今日は蔦のモンスターか。やはりこの島はハルトが言う通りダンジョンなんだな。」

「ティルシア! 少しずつ俺に回せ! 今後のためにここで階位(レベル)を上げておく!」


 わさわさと群がる蔦のような魔獣を相手にハルトはナタを振るって戦う。

 ハルトの説明によると、彼のいた異世界フォスにはスキルというものが存在するそうだ。

 スキルはめったに生えるものではないが、その人間の個性に沿ったものが生えやすいと言われている。

 その内容は「健康体」「利発」「器用」といった汎用性の高いものから、「剣技」「走力」「演奏」といった限定的だがその分本人与える影響が高いものまでいろいろだ。

 スキルは本人の能力を底上げするものであって、能力を下げるものはない。


 そしてハルトのスキルは「ローグダンジョンRPG」であった。


 彼はそのスキルのせいで毎回ダンジョンから出るたびに階位(レベル)が1に戻る。

 昨日トロールの襲撃を受けた際、彼の階位(レベル)が1だったのはそのせいだ。

 しかし、逆に彼はダンジョンの中では天井知らずにレベルが上がるのだ。


 あの時、トロールに止めを刺したカイは、その瞬間に自分の階位(レベル)が上がるのを感じた。

 スキル・ローグダンジョンRPGを持つ自分の階位(レベル)が上がるのはダンジョン内だけだ。

 それがハルトがこの島をフィールド型ダンジョンと考えた理由である。



「くそっ! ようやく階位(レベル)3か! 敵の強さの割に階位(レベル)の上がりが悪いぞ!」


 どうやらこの島では彼のいたダンジョンより経験値の獲得量が低いようである。


(フィールド型はこう(・・)なのか? それとも他に理由があるのか?)


 中々上がらない階位(レベル)と強靭でありながらしなやかに曲がる蔦に苦戦するハルト。


「水刃!」


 パン!


 破裂音がするとカイの持つ杖に薄く水の刃がまとわりつく。

 カイは手にした杖を振るい、周りの植物を切り飛ばす。

 ハルトが苦労して切断していた蔦が、まるで大根か何かを切るように切り刻まれていく。


「助かった。便利だな、それ。」

「数秒しか持たないけどね。」


 息を整えながらカイに礼を言うハルト。

 カイの言葉の通り、水の刃は杖の先から大地に滴り落ちて消えてしまう。


「コストパフォーマンスは悪そうだな。」


 昨夜からすっかり自分のペースを取り戻したティルシアが二人の会話に加わる。


(魔法を一発撃つたびにコストで寿命が一年縮むと知ったらどういう顔をするだろうね。)


 昨日から散々驚かされっぱなしだった彼らに、ちょっと意趣返しをしてみたい、といういたずら心がカイに芽生える。

 しかし、ティルシアの警告によってその機会は失われてしまった。


「待て! デカブツが来たぞ!」

「あれはゴーレム! なんて大きさだ!」


 森の木々を揺らしながら現れたのは、身長10mはあろうかという石の体を持つ化け物だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 時間は今朝まで巻き戻る。


 キラリと朝日を反射しながら島の上空を旋回する大きな翼。

 力強いエンジン音が島の上空で轟轟と鳴り響く。

 四式戦闘機・ハヤテである。


 ハヤテは現在ティトゥを乗せて上空から島の調査をしている所であった。

 やがてハヤテの翼は彼らがキャンプ地としている村の広場に降り立つ。

 ひらりと降りるピンクの髪の少女、ティトゥ。


「ダメですわ。ハヤテが言うには、まるでだまし絵を見ているみたいな感じ?だそうです。近寄ってみないと分からないと思いますわ。」


 ハルトは島がダンジョン化している可能性が高いと考えていた。

 ハヤテはその調査のために島の中心に向かっていたのだ。


「フィールド型のダンジョンは俺も初めてだからな。そういうものなのかもしれない。」

「フィールド型のダンジョンか。風来のシ〇ンの屋外フィールドみたいなものかな? 案外やっかいだね。」


 相談の結果、チームは過去に異世界転移(転生)を経験済みのハルトとハヤテが中心になり、そのサポートをティルシアとティトゥ、そしてエタンがすることになった。こちらの世界を知るカイはチームのアドバイザーとなる。

 もちろん目的はそれぞれの世界に帰ることだが、ハルトはその鍵がこの島にあると睨んでいた。


「そもそもダンジョンとは何なんですの?」


 ティトゥの疑問に顔を見合わせるハルトとティルシア。


「ダンジョンを一言で説明するのは難しいな・・・。”ゲームのダンジョンみたいなモノ”で通じれば楽なんだが。ハヤテ、お前ならどう説明する?」

「僕? う~ん、ゲームのダンジョンなら、迷路があって宝箱があってモンスターがうろついていてる場所? それでもって、モンスターは奥に行くほどどんどん強くなっていって最後はダンジョンのボスがいる、って感じ?」


 ティルシアがハヤテの説明に軽い驚きの表情を見せる。


「割とそのまんまじゃないか? 宝箱は無いが、採取場所をそう言い換えることは出来るぞ。」

「ああ、”世〇樹の迷宮”タイプね。一日経ったらまた採取出来るようになる。」

「流石に一日では回復しないが、まあ概ねそんな感じだ。モンスターもそんな感じで復活するな。」


 三人の会話にティトゥが目を丸くして驚く。


「それって、無限に採掘出来る鉱山みたいなものじゃないですの?」

「そういう認識で間違いない。実際俺達の仕事は炭鉱で働く炭鉱夫のようなものだからな。」

「何となくダンジョンだから当たり前だと思っていたが、こうやって別の世界の人間が驚く姿を見ていると、ダンジョンって不思議な物だったんだと思えるな。」


 ティルシアがうんうんと頷く。

 ハルトはここで全員を見渡す。

 

「先ずは島の中央を目指そう。出発の準備をしてくれ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「何かロボっぽいモノが来たー!」

「今こそ私達の出番ですわ! 行きますわよ、ハヤテ!」


 確かに、身長10mの石のゴーレムはロボットアニメに登場しそうなデザインにも見える。

 そんなゴーレムにハヤテは大喜びである。


「こんなこともあろうかと、250kg爆弾を用意しておいたのです! そう! こんなこともあろうかと!」

「・・・何で二回言ったんですの?」


 ”こんなこともあろうかと”は男のロマンだからである。

 男に生まれたからには一度は口にしたいセリフの一つだ。当然ハヤテも例外ではない。


 ハヤテはゴーレムに向かって急降下爆撃を試みる。

 空中から唸りを上げながら襲い掛かるハヤテ。空からの襲撃に気が付いたゴーレムが回避行動を取る。


「もう遅い! ミサイル発射!」


 言うまでもないがミサイルではなく爆弾である。

 機体から切り離された爆弾は狙い過たず見事にゴーレムの足元と腰に命中した。

 

 ズドーーン!


 ギギギギギッ


 軋み音のような悲鳴のような音をたててゴーレムが大地に倒れる。


「お前の敗因は空に対する備えを怠ったことだ。近代戦闘では空を制する者が戦場を制するのだ!」

「貴方って意外とお調子者だったんですのね。」


 ノリノリのハヤテに呆れた顔をするティトゥ。


「ええ~っ。ロボや怪獣にミサイル攻撃。これってセオリーというかロマンじゃない?」

「・・・こんなに言葉が通じるようになっても、相変わらず何を言っているのか分からないなんてどういうことなのかしら。」


 その時、島に音楽が鳴り響く。


「この曲は昨日の?!」

「おおおおっ! G・K・D! G・K・D!」



 ハヤテの爆撃は見事にゴーレムを捉えた。


 ズドーーン!


 ギャアアア!


 悲鳴を上げてすっ転がるティルシア。


「お前、ギャアアって悲鳴はどうだよ。」


 ティルシアを助け起こしながら呆れるハルト。

 流石に自分でも若い女性の上げる悲鳴ではないと思ったのか、ハルトの支えを受けつつティルシアは真っ赤になりながら立ち上がる。


「・・・凄い威力だね。」


 腰から下を半ば失い倒れるゴーレムを見ながらカイが思わず呟いた。


「ああ。昔の爆弾なんでどうかと思っていたが、実際に見てみるとかなりの威力だな。」


 ハルトが言うには、彼の世界ではこの爆弾でも70年以上も前の骨董品で、すでに現代では比べ物にならないほどの威力の兵器が存在しているのだそうだ。


「恐ろしい世界だな、お前達の世界は。そんな武器を使って何と戦っているんだ?」

「同じ人間同士なんだが、何故だろうな。そう言われると非常に愚かな事をしている気がするな。」


 ハルトの説明を聞きながらカイは「どうせなら魔族もハルト達の世界に攻め込んでくれたら良かったのに」と思わずにはいられかった。


 その時、昨日聞いたあの曲が流れてきた。


「この曲は昨日の! またあのムキムキ男が出るのか?!」

「おおおおっ! G・K・D! G・K・D!」

次回「場外乱闘」

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