パパの約束 (童話26)
「つかれた、つかれた」
会社から帰ってくると、パパはいつも言います。
そんなパパに、ほたるさんは肩たたきと腰ふみをしてあげます。
「ほたるは、いい子だなあ。なにかプレゼントしなきゃあ」
「だったら、ワンちゃんのヌイグルミがいい」
ほたるさんは犬が大好きなのです。
「じゃあ、仕事が早く終わった日に買ってこような」
パパは約束してくれました。
三日がすぎました。
約束のプレゼントはまだありません。
「ねえ、パパ。ワンちゃんのヌイグルミは?」
「忘れちゃいないよ。でもこのところ、ずっと残業だったからなあ」
パパがもうしわけなさそうな顔をします。
「あしたも?」
「いや、あしたは早く帰れるよ」
「じゃあ、あしたね。約束よ」
ほたるさんはパパとゆびきりをしました。
次の日。
パパはおそい時間に帰ってきました。
「ねえ、ヌイグルミは?」
「ごめん、ごめん」
パパはソファーにバタンとたおれこみました。お酒によっているのです。
「肩もみなんて、もうしてあげないから」
「あしたはきっと……」
パパは眠そうです。
「パパったら!」
ほたるさんは悲しくて涙が出そうになりました。
よく朝のこと。
「ほたる、ごめんな。ことわれない飲み会が急に入っちゃったもんで」
「ふん!」
ほたるさんはプイと横を向いてやりました。
「そうおこるなよ。今日こそ、ぜったい買って帰るからさあ」
パパはこまった顔をして会社に行きました。
「ねえ、ほたる。パパもいそがしいのよ。ゆるしてあげたら」
ママが笑って言います。
「いや! ゆびきりして約束したんだもん」
お酒を飲んで約束をやぶったパパのことが、ほたるさんはどうしてもゆるせませんでした。
その日の夜。
パパは、またお酒によって帰ってきました。手ぶらで、なんにも持っていません。
「ごめん、おそくなって」
「約束、やぶってばっかり。パパ、大キライ!」
パパのこと、ぜったいにゆるしてやらない。ほたるさんはそう思いました。
「ほたる、いいものがあるんだけど……」
パパがニコニコしながら言いました。
「なによ。なんにもないじゃない」
「玄関の外においてあるんだ。ひろったんで汚れてるからな」
「イヤ、そんなもの」
「洗えばきれいになるよ」
パパは玄関を出ると、ダンボール箱をかかえてもどってきました。クーンって、箱の中から鳴き声がします。
「えっ、なあに?」
「見てごらん」
パパが箱のふたを開けました。
箱の中には真っ黒な子犬が入っていて、ほたるさんをじっと見上げました。
「わあー。パパ、大すき!」
ほたるさんは、おもいきりパパにだきついたのでした。