月見里結衣の憂鬱
誤字報告受付とかあるんですねー。受付できるようにしました。いっぱいあると思います。評価、感想お待ちしております。
ダンジョン研究所
西暦202X年9月 世界各地を等しく地震が襲った。マグニチュードや発生地点はわからず、日本列島は全体が震度3から4で揺れた。
この地震はのちにダンジョン発生による揺れだとされているが真相は定かではない。だがこの後、世界各地に今まで見たことのない生物が発見された。それはのちにファンタジー生物と呼ばれる生物たち。ゴブリンやオークなど幻想でしか存在しなかった生物たちが人々を襲い、危害を加えていった。
世界各地で対応に追われ、軍隊主導の元、駆除が行われたが銃火器の効果が低い為と突然何もないところから大量に現れるため被害が後をたたなかった。
ファンタジー生物たちの発生源を探るべく各国の軍隊が動き、発見されたのがダンジョン。ダンジョンが発する波形を読み取り各国でダンジョンを発見し、閉鎖を行うことで混乱は収束されたかのように思えたが、ファンタジー生物を倒したものに魔法やスキルといった能力が芽生えたり、ダンジョンの新たな生態系が科学的有効性を生み出したことにより、ダンジョン研究が全世界で進み始めた。
世界各地にできたダンジョンの管理と研究を目的として先進国主導の元、設立されたのが『ダンジョン研究所』
魔法やスキルの有用性とモンスターがダンジョンから溢れる『氾濫』を防ぐためにもダンジョン研究所は現在最も重要視される機関となっている。
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「というのが皆さんに一般的に知られている知識になります。皆さんがこれから働かれる『ダンジョン研究所』ではこの未知が溢れているダンジョンの有用性を活用すべく皆さんのような有能な人材を雇用しております。皆さんが持ち帰った新発見の生物や鉱物など、またそれの活用による特許などの権利を手にすることができます。魔法やスキルの獲得など夢に見たファンタジーがここにあります!」
50代くらいの男性所員が熱心に説明をしている。ここ『ダンジョン研究所』が設立されて2年。つまりダンジョンが発見されて2年と3カ月。増え続ける人口を抑えるかのように現れたモンスター達。かなりの被害は出たがそれ以上に生み出され新しい発見。魔法や新しい鉱物や植物は科学を大いに発展させた。
私、月見里結衣もそんなファンタジーなダンジョンに魅せられてこの研究所に入所した。
元々、細胞などの研究を行う一流大学の研究室に勤めていたが、これといった進展もなく、退屈し始めたところにダンジョンが発見された。ワクワクした。魔法やスキル。非科学的ではあるが革新的で刺激的なそれに魅せられて大学研究室をやめてこの研究所に入所した。
「失敗だったかな…」
当初はここで研究所の所員の話を聞いている人達みたいに希望に胸を膨らませていた。
国で管理されていたダンジョンではあったが、ダンジョンに潜り、害獣を間引かないと『氾濫』を起こすため、管理を『ダンジョン研究所』に委託することになる。といっても『ダンジョン研究所』もほぼ国の機関ではあるが名義上、民間であることが大事なのだろう。何せダンジョンに入って死亡したとしても責任は取れない。
それでも当初はこぞってダンジョンに挑む人『ダンジョン冒険者』はかなりの数がいた。魔法、スキルを覚え新しい発見をし、ダンジョンバブルというほどまで盛り上がったが、気がつくとかなりの死亡率。魔法もスキルも凄いがダンジョンのモンスターはそれ以上だったというわけだ。運良く生き残れた冒険者達だけが利益を享受できたが何度もダンジョンにチャレンジすれば死亡率は跳ね上がる。命あっての物種ということに気づくのに時間はかからなかった。
その中でこの研究所が数々の成果をあげているのには訳がある。研究者が冒険者と一緒に潜ることによって安全マージンを確保しつつ、貴重な生態系や物質などを見極めて採取してくることにより、低リスクハイリターンを実現させている。何せ冒険者になるような人達は無謀な人が多いのでチーム編成や体調管理なども含めて行うのが研究者パートナーの仕事だ。
最初は私も冒険者パートナーを探し、ダンジョンにも潜ったが、上手くいかない。どうもガチガチの研究室出のお堅い頭が小賢しいらしく、いつもパートナーに嫌がられて去られる。私は慎重に行くことを推奨してるだけなのに。最初に私と潜った冒険者から悪評を受け、それでも何人かと潜ったが同じような評価を受けた。もう一年、パートナーを組むことなく過ぎようとしている。次の契約更新は絶望的だ。
今ではこうやって冒険者見習い募集を手伝うのが私の仕事になりつつある。この後、上司に呼ばれている。きっと契約更新の話だ。
「もうダメかな…」
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「で?どうするん?」
甲高い関西弁。苦手だ。
「もう一年もダンジョン潜ってないやろ?研究者として契約更新は絶望的。なんなら採用担当に変わったらどうや?見た目綺麗やし」
このハゲ…いや、ダンジョン研究所の主任でもある北山浩二さんにそう提案される。
「ですが、私は研究者としてやっていきたく…」
自分でもこのままでは無理だという思いから後半の言葉は尻窄みになってしまう。
「いやー無理やん!誰も潜ってくれへんやん?なんやろなー結衣ちゃんは素材はいいんやから、もうちょっと色気出すとかして冒険者をやる気にさせるとかそういう努力したら?」
いつものように早口でまくし立ててくる。セクハラだぞ。ハゲ。
「まーなんにしても後1カ月。何か成果だして。どうにかしてダンジョン潜って成果出すかなんかして?」
簡単に言うが一回ダンジョンに潜ったくらいで成果なんて出ない。わかってて言っている。でも1年も何も出来ていない自分が悪いことがわかっているので言い返せない。悔しい。涙が出そうになる。堪えないと。
「わかりました」
諦めが声に出てる。情けない。
「そか。わかってくれてありがとー。何も辞めさせたいわけちゃうからな?成果でるのを期待して待っとくから!」
パソコンの画面を見たままこっちも見ずに…もう満足したのだろう。部屋を出て行くように促される。
「かしこまりました。失礼します。」
頭を下げて主任の部屋を退出する。
扉を閉めて廊下を歩く。悔しい。もう諦めなきゃいけないのかな。いろいろと思考が巡る。
前から冒険者が歩いてくる。知っている冒険者だ。
「あれ。月見里さんじゃないですか?ご活躍を聞かないので辞めたのかと思っていましたよ。」
爽やかな顔で嫌味を行ってくる。彼はこの研究所TOP3の成果をあげている冒険者の更科陽翔。かなり優秀であり、見た目もよく、この研究所の顔見たいなものだ。私の最初のパートナーでもある。
「まだ辞めておりません。」
最初にダンジョン内で揉めてから何かと絡まれる。嫌われているのは自覚している。
「そっかー俺の研究者パートナーも言ってたけどもう危ないんじゃないんですか?成果なんて何も出していないって聞きましたよ?」
この人の研究者パートナーとも同期だ。私とは違って話も上手く、気持ちを誘導するのが上手い。よく見習えと言われた。
「はい。お気遣いなく。なんとかいたしますから」
素っ気なく言い返すことしかできない。
「そうですか?なんなら一緒に潜ってあげましょうか?一つや二つの成果くらいあげますよ?」
…心が揺らぐ。でも何を要求されるかわからないし、ちっぽけなプライドがそれをよしともしない。
「いえ。結構です。」
これ以上話すと揺らぎそうになる。足早に廊下を歩き立ち去った。
「可愛くないね。そういうところが大嫌いだ。」
更科陽翔のつぶやきは月見里結衣には聞こえなかった。
お読みいただきありがとうございました。