慣れた。
奥に続く道を歩いていく。それなりに前は見えるが薄暗いのでゆっくりと歩いていく。これは怖い。何が出てくるかわからない。壁や床は石がゴツゴツとしている。やはり洞窟みたいだ。ダンジョンってやつかな?また一本道だし迷うこともないけどマップでも書いた方がいいだろうか。
ん?声が聞こえる。多分またゴブリンだ。ギャギャッとさっきと似た声が聞こえる。洞窟で響いてるせいか方向はわからない。とりあえずゆっくり進もう。きっと大丈夫。自分に言い聞かせる。
ギャッギャ
先ほど聞こえた声が大きくなってきた。近づいてる。止まるべきか?いや、もう少し進もう。歩いてる音は聞こえないので向こうは止まっているはずだ。
しばらく歩くと少し広いところがある。そこにゴブリンが三匹いる。どうやら休憩しているようだ。何か話すような仕草をしているが何を話しているかはわからない。しばらくじっと観察しているとやはりコミュニケーションはお互いとれているようだ。体格も小さいので子供がふざけているような雰囲気だ。知能はあるがあまり賢くは無いと思う。
観察していると三匹のうち二匹がどこかに歩いていく。一匹は荷物番のようだ。何か袋のようなものを置いている。挨拶のようなものを交わし、二匹は奥の道へ歩いて行った。
チャンスだ。一度正面から挑んでみよう。さっきはどれくらいの能力なのかすらわからなかった。腕力は体格から想像するよりも強い。それくらいだ。とりあえず対処方法を検討するためにも戦ってみよう。
二匹が遠のくだけの時間を待つ。一匹で暇そうにしながら荷物から果実みたいな物を出して食べている。噛む力も強いし、牙もあるから気をつけないと。噛まれるのがあんなに痛いと思わなかった。10分ほどたっただろうか、ゆっくりと立ち一匹で待っているゴブリンの前に立った。緊張している。足が震える。
ギャッギャ
こちらを見て驚いたような顔を一瞬した後、ニヤッと笑った。怖い。というか気持ち悪い。肌は青緑。体格は小さいが筋肉はある。猿とかチンパンジーの握力は凄いって聞いたことあるけどあんな感じなんだろうか?
走ってきた。早くはなくベタベタと足をつける走り方なので不恰好に見える。武器として棒を持ってる。おそらく木だ。
ゴブリンは走りながら木の棒を振り下ろしてきた。僕は飛びのくように大きく避けた。もう一度振ってくる。これも避ける。何度も何度も。わかりやすいモーションで振ってくるので簡単に避けれるがやはり緊張する。さっきみたいにつまづいてこけるわけにもいかない。華麗に避けてるわけではなく結構大げさにだがちゃんと避けれている。なんといっても掴まれたくない。噛まれたくない。あれはめちゃくちゃ痛い!
何度も繰り返すとじっくり見れる余裕ができてきた。動きは単調。力はおそらく人と同じくらいなのだろ。体重がない分、打撃は軽いのかもしれない。
何度も空振りをして床を叩いているので手が痺れたり、疲れてきてるようだ。木の棒を振った後、少しもたつくようになってきたので避けてから横から蹴る。ゴブリンはよろける。一気にいかない。ここは落ち着いて観察しよう。
何度か繰り返していくと棒を投げてきた。そんなに早くもないので棒を掴んだらゴブリンが掴みかかってきた。なかなか当たらないから掴んでどうにかしようとしたのだろう。掴みかかってくるモーションもなんとなくわかったのでそれも避けた。地面にダイブしている。
その後は棒で滅多撃ちにした。勝てるうちに勝っておかないと。奥に行った二匹が戻ってくるかもしれない。何度も叩いているとゴブリンは光の粒子に変わった。倒せた。知らない間に力が入りすぎてたのだろう。手がいたい。棒を握っている手をゆっくりと開いたり閉じたりした。なんとかなった。とりあえず怪我せずに一匹倒せた。よかった。
倒せばやはり光の粒子になって吸収している。この分強くなるのかな?なんとなく力の張りを感じてはいるがそれよりもこんなに棒を振ったことが初めてなので腕がだるいし、手が痛い。
一度戻るべきか?そう考えた時に走る足音が聞こえた。結構ゴブリンも声をあげてたし、気づかれて戻ってきたんだろう。二匹か、勝てるかな?
戦う決断をして向き合う。一匹が掴みかかってきたので避ける。また地面にダイブしてる。
二匹目が振り下ろしてきた棒を受ける。右手で棒を振り、左手で掴もうとしてくる。掴まれまいと距離を取るために蹴る。体格が小さいので距離を取るのに蹴りは有効だ。とりあえず掴もうとしてくるので避ける、もしくは手を叩いたり、身体を蹴って距離を取ったり、とりあえず一定の距離を取るのが大事だな。ゴブリンは単純なのか次にすることがわかりやすいので対処することは簡単だ。リーチもこちらの方が長いからなんとかなってるんだろう。とりあえず倒すことよりも慣れよう。
落ち着いてきてからは練習だと思い、向こうの動きに合わせて蹴る、叩くを繰り返した。いい感じでゴブリンの動きが読めるようになってきた。棒を持っていない方のゴブリンが掴みかかってきた時に合わせて棒を叩きこんだら力は入れてないがいい感じに入った。
バキッという音と共に棒とゴブリンが光の粒子になる。
棒が折れてしまった。というか棒も粒子になるんだ。ゴブリンの粒子は吸収したが棒のはその場で消えた感じだったな。
武器を失った僕を見て優位に立ったと思ったんだろう。もう一匹のゴブリンが木の棒を叩き込もうとしてきた。
避ける。避ける。これも問題ない。やっぱりレベルアップみたいなものをしてるのかな?すごく動きやすくなってる。余裕もあるし、受けてみよう。どれくらい痛いか、どこで受ければ痛くないかを試そう。
ガン……ガンガン…ガッ…ドン…
痛い……痛たたた…ぐっ…もうっ!
痛くて最後は蹴ってしまった。何回か受けたがやっぱり痛い。でも耐えれるな。棒の先端よりも手元の方なら受けやすいし、取りやすい。踏み込むことも大事なんだ。
ゴブリンの動きも遅くなっている。ここでハイキックでも決めれたらいいんだけど身体が硬いので出来そうにない。柔軟も大事だな。回復の泉があるなら無茶しても大丈夫かな?
踏み込んで棒を掴みゴブリンを蹴る。ゴブリンが木の棒を掴んだままだったから蹴りが深く入った。ゴブリンもふらついたので思いっきり顔を殴った。
ゴン
膝から崩れ落ち地面に頭を打ち付けて光の粒子に変わった。
よし!素手でも倒せた。ゴブリンなら二匹までならなんとかなりそうだ。光の粒子が僕の身体に吸い込まれる。やはりこれは強くなっている。元々の筋力で殴って倒せるわけないし、手も痛いには痛いがそこまで痛くない。
そういえばゴブリンの荷物があった。漁ってみよう。何かの皮でできている袋をあけた。紐などはなく、風呂敷みたいだ。
開けると何かの実みたいなものがいっぱい。さっき食べてたやつだ。僕にも食べれるかな?匂いを嗅いでみるが怖い。食べる勇気がない。あ、小さなナイフがある。これは頂こう。
ゴブリンならなんとかなりそうだ。そうはいっても緊張するし、疲れる。腕だるい。手は痛い。一度、噴水まで戻って休憩しつつ、何匹か倒してみよう!柔軟もしよう!ハイキックで倒すとか憧れる!
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あれから合計50匹は倒してみた。結果、強くなってる!ゴブリンの荷物にあった実はおそらくリンゴくらいの硬さだか簡単に握り潰せるし、木の棒があれば簡単にゴブリンも倒せる。力を入れすぎてたびたび木の棒を折ってしまったけど。素手でもどこを攻撃すればいいか、どう受ければいいかもわかる。殴る蹴るでゴブリンを倒せるようになってきた。気分は格闘家だ。ゴブリンは二分の一くらいの確率で何かをドロップする。木の棒だったり、ゴブリンの牙だったり。ドロップした棒で基本的には戦っているが、棒が折れれば、素手で戦う。
何度も怪我もしたし、骨も折ったと思うが回復の泉さんのおかげですぐ復活!柔軟もたくさんしたので大分柔らかくなった。筋トレもしたが光の粒子吸い込んでレベルアップしてるせいかなかなか効かない。とりあえず負荷のかかりそうなことして無理やり何度も筋肉痛になった。
戦闘になれるためにも複数のゴブリンとも何度も戦った。避ける練習をする為に手を出さず四匹同時に相手してみたこともあった。後ろに回り込まれないようにするのが大変。油断すれば捕まれる。ゴブリンには捕まってもそのまま振り回したりして対処出来るがもっと強い敵が出てくればまずい状況に追い込まれるだろうと思い、かなり避ける練習はした。近接鬼ごっこみたいな感じだ。難易度は高いし、相手の顔は怖いけど。
スーツは動きにくい。各部分が破れて動きやすくなってるが見た目はひどいものだと思う。鏡がなくて逆によかった。髪も髭もほったらかしだ。安いスーツでよかった。帰ったら捨てよう。シャツだけになるとゴブリンの爪とか食い込みそうで脱ぐ気になれずジャケットを着たままいつもの噴水の縁に腰を落ち着ける。
あと、やっぱり回復の泉は偉大だ。飲めば疲労回復と栄養補給になってそうだ。お腹は減ってるが致命的になってない。体が動く。点滴を飲んでるようなものなのかな?ここに来てどれくらい経ったのだろう。日にちの感覚もないけど1週間は経ったという思う。
そろそろ先に進むべきかな?ゴブリンになら余裕を持って勝てるからもっと奥に進もう。まずはとりあえず寝よう。座りながら僕は目を閉じた。
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