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迷宮入りの恋  作者: たなかきよし
1章 ゴブリンとオークと青空と
15/19

更科陽翔の……

更科陽翔さらしなはるとは日本で最も冒険者の多い、関東支部でNo3の実力を持つと言われている。No1と2はダンジョンマスターの盗伐を成功させたチームに所属しており、チームの順位はそのチームの次の2番目になる。冒険者の上位は元々の経験者(軍や格闘技経験者)が多く、更科のようにダンジョンで戦うことを始めた人間が上位にいることは珍しい。

更科がそういった経験者たちを抜いて上位にいれるのには更科が得た特殊なスキルによるところが大きい。


更科の所有スキルは「空間スキル」

空間転移は場所を把握していれば5キロ程度飛べる。また、空間をゆがめることによって正面にいる敵を後ろから攻撃することを可能にした。見えないところから突然出てくる刃物への対処は難しく、モンスターたちを狩ることはたやすい。月見里救助のために、何度も来たことのある木槌山に何度か飛ぶことによってたどりつき、オークは正面いながら後ろから切りつけることによって対処していた。

今回の早急な救助を要する依頼に関しては更科が最も適任だと言えた。


「やっとこのチャンスがまわってきた!」


月見里がオークに捕まったと聞いて更科は焦った、月見里とは初めてダンジョンに潜ってから、仲違いをしたが、どうしても認めさせたい相手だ。だが自分がその救助に最も適任で救いにいける状況は更科の心を躍らせた。


更科は子供の頃から人よりもなんでもできた。勉強やスポーツに関して苦労したこともなかったが苦労をしなかったからこそ楽しくもなかった。特に何かやりたいこともなく、一流と言われる大学を出て、一流と言われる商社に勤めた。親もその商社で役員をしており、出世も出来るだろうがつまならかった。そこに未知のダンジョンが現れた。親の意見を無視して仕事を辞め、ダンジョン冒険者になることを決めた。自分に出来ないことはなく、すぐに魔法やスキルを使ってモンスターを倒せると思っていたが、簡単な訓練を終え、初めてダンジョンに潜った時にそれは打ち砕かれた。


調子に乗って戦いを挑んだ狼の魔物(のちにワーウルフと聞いた)にいいように嬲られ、敗北した。智恵もあり、連携をとってくるワーウルフ達に更科の剣は届かず、一緒に潜った探索者や研究者が光の粒子に変わっていくのを力なく見ていたのを今でも覚えている。自分と同じように周りが諦めていく中、月見里だけは違った。戦闘では役に立たないはずの「鑑定」スキルを使用し、その場をしのいで見せた。憧れた。明らかに自分より能力の低い人間にここまで出来るとは思っても見なかった。


逃げれた時には月見里と自分しか残ってはいなかったが命が助かったのは月見里のおかげだった。この人と歩みたいと思った。


最期に自分を見た月見里の顔を見るまでは。


その顔には失望が色濃く出ていた。そんな目で見られたことなど今までで1度たりともなかった。自分だけが悪いわけじゃない。消えていった探索者や研究者も同じようにダンジョンを甘くみていた。更科も月見里を助けたはずだ。残った自分だけが責められるのは納得がいかない。


月見里とはそこで揉めてそれ以来、一緒にはダンジョンに潜っていない。月見里を見返すためにも実力をつけたかった。いろいろと苦労した結果この空間スキルを手に入れそれからは順調に結果を出せた。


自分が実力をつけて、結果を出していくにあたって月見里の評価は下がっていった。あの初めてダンジョンでの事件がどこか月見里のせいにされていく。自分としては誰かと月見里がダンジョンに潜ることは気持ちの良いものではなかったので多少助長した。誰とも潜れなくなった彼女があの時の間違いに気づき、助けを求めてくるまで待つつもりだった。


それが知らないやつとダンジョンに潜ってこんなことになるなんて。俺と行けばこんなことに絶対にさせないのに。月見里(アレ)は俺のものだ。誰にも手は出させない。


憤りと焦りが更科の足を早く進め、またその前を塞ぐオークを光の粒子に変えていった。


「もうすぐか」


月見里の位置情報はこの洞窟の奥で途切れたようだ。いよいよまずいだろう。洞窟の前に陣取っているのは胸に紋様が浮き出でいる大きなオークだ。特殊個体でかなり強いと思うが倒せない相手ではない。ただ時間をかけてられない。


どうする。そう考えていると軽鎧とアンバランスな剣を携えている1人の男が特殊個体に斬りかかった。


早い!切り結ぶまで見えてなかった。どこからきた?

その剣をやすやすと受けたオークもかなり強いようだ。切りかかった男には悪いがここは彼に任せて先に行かせてもらおう。あれと戦っている時間はない。


空間スキルを使用すれば気づかれず抜けることは出来るだろう。というかこのオークかなり強い。男も善戦はしているがついていけてない。やられるのも時間の問題だろう。


少し悪い気はしたがこのチャンスを逃すまいと更科は洞窟の中に飛んだ。


洞窟の外での戦闘音はここまで聞こえているが気づいた様子はなさそうだ。何匹かオークは出てはきたが難なく対処して奥に進んだ。


いた。奥の空間の檻の中に捕らえられている。見張りにオークが一匹いるが問題ないだろう。


ゆっくり歩いていく。まずはこちらに気づかせて月見里から離すことを優先させた。


グァーと醜い声を上げてオークが突っ込んでくる。月見里もこちらに気づいたようだ驚いた顔でこちらを見ている。もっと見ろと更科は高揚した。一撃目は交わす。二撃目が来るより先にオークの後ろに空間スキルで飛んで後ろから首を飛ばした。あっけない。強くなった自分をもっと月見里に見せたかったがまずは救出が先だろ。


「更科さん。なぜここに!」


「助けに来たんですよ。とりあえずここを出ましょう。」


余裕のある態度で表情でと心がけているが高揚が治らない。これで月見里も自分を認めるだろうと。


「…ありがとうございます。もう一匹います。気をつけてください。」


「あーヤバいのがいたよ。外に。今は別の人が相手してくれてるから大丈夫だ。とにかく先にここを出よう。」


そういって檻の中の月見里に手を差し出す。触れれば一緒にスキルで飛べる。無事完了だ。


「少し待ってもらえるかな?」


いきなり横から少女の声が聞こえたと思えば更科の身体が宙に浮かんでいた。いや、投げられた。なんとか体勢を整えて着地することは出来たがなんの抵抗もなく投げられた。自分が気配すら感じれずに投げられたことに更科は驚愕した。これでも更科はかなりのダンジョンを潜り、数多くのモンスター達や()を倒してきた。ここまで気配を感じなかったことなど1度もない。背中から一瞬で汗が噴き出す。


「すまない。手を引いてもらおうと思ったら投げてしまった。女、オマエの知り合いか?」


少女とも呼べる女性が立っている。見た目は普通の少女に見えるが更科の勘が警鐘を鳴らしている。


「君もオークに攫われたのかな?」


違うと告げている勘を無視して念のために聞いた。


「違うわ。コイツはオーククィーン。おそらくスキルか何かで人の形をしているの!」


月見里の忠告が洞窟ないに響く。


「早速ネタばらしをしないで欲しいな。まースキルではないのだが。おそらく進化だと思うぞ。スキルにしても何にしてもオマエ達の言うレベルアップは望みを叶える。その一端だ」


「へーそうだったんだ。それは教えてくれてありがとう。人間になりたいだなんて仲良くやりたいのかな?」


近づいては危ないがスキルを使用するためにももう少し近づきたい。こちらに注目したところで後ろに飛んで切る。それが更科の常套手段だ。


「いや、人間共のように賢くなりたいと願っていたらこうなった。お前たち人を喰らい続けた結果なのかも知らないがな。人に見えるのであればいろいろ使えるし、気にいっているよ。」


「そうかい。敵ってことには間違いないのかな?」


「面白いことを言う。我らと人間は敵でしかありえない。」


一定の距離まで近づいた。


「敵か。なら死ね!」


更科は空間スキルを使い、オーククィーンの後ろに飛んだ。


つもりだった。


「…あれ?」


飛べない。もう一度スキルを使用するが空間をいじれない。


「さっき見ていたが空間を飛ぶスキルなのだろう?かなりレアなスキルだな。ここが私の領域(エリア)でなければ私にとっても厄介だとは思うがここは私の領域(エリア)だ。そんなスキル使えるわけないだろう?」


更科の頭の中はパニックだ。スキルを中心に鍛えてきた。こんなこと今までありえなかった。


「そうか。土地の長。オマエ達の言うダンジョンマスターとの戦闘経験がないのだな。我々は自分が統べる土地ではどこへでも飛べる。また逆に飛ばさないことも出来るんだよ。」


まさか、今までこの能力を手に入れて鍛えてきた。この能力で上まで駆け上がっていくつもりがダンジョンマスターに通用しないなんて。ありえない。あっていいわけがない。


「嘘だ!!また俺が無能になるだなんて!」


頭が真っ白になる。これ以上の上には行けないなんてあってはならないのに。


「まーどうでもいい。とりあえずこの女は返さない。しばらくは餌としてここにいてもらう。まずはオマエから喰らうとしよう。」


自分の最も信頼していたスキルが使用できなくなり、頭が真っ白になった更科は後ずさることしかできなかった。


「更科さん。逃げてください!!」


「逃すわけないだろう。」


月見里に声をかけられて来た道を見た更科の前に当然オーククイーンは現れた。気がつけば更科は蹴られて檻まで飛ばされた。


「軽いな。すぐには殺さない。まずはオマエの戦い方を学ばせてもらおう。」


勝てない。勝てる気がしない。スキルも通用しなければ身体的な能力もかなりの差がある。こんな風になるなんて想像もしていなかった。ここで終わるのか。


「諦めないでください。また活路はあります!」


檻の中から月見里の声が聞こえた。まただ。あの時と同じように自分が諦めようとしていると焚き付けてくる。このままでは昔へ逆戻りだ。


「諦めてないよ!これくらいへっちゃらだ!」


力が入らない体に魔力を回し、立ち上がる。なんとか動けるかな。スキルにかまけてたつもりはないけど鍛え方が足りないと感じた。


「で、活路って?」


「おそらくですが、空間スキルの使用禁止には範囲があると思います。全ては読み取れませんが領域(エリア)把握というスキルに範囲限定があります。出来ればどれくらいの範囲か調べてもらえませんか?」


お得意の鑑定か。鑑定のレベルが上がればスキルを読み解くことができる。探索者や研究者は鑑定を防げる手段をそれぞれ持っているので人相手では無理だがモンスター相手では可能だ。ただ、そんなに簡単なことでもないらしい。なんでも読み解けるのは文字として認識できるものではなく、暗号のようなものらしい。モンスターによって配列も何もかも変わるらしい。スキル名なら鑑定を使用できるものは何とか読めるが、スキル効果まで読み解くのは至難の技だと聞く。


初めてダンジョンを探索した時の窮地もこれで救われた。モンスターのスキルを読み解き、弱点を見出し、何とか逃げることに成功したのだ。


「さすがというか。よく読みとけたね。それでもその範囲がこの空間を覆ってなければいいけどね。」


「対面する時間がかなりありましたから。それ以外に読み取れた情報は絶望的ではありますが、普通の人が勝てる強さではありません。なんとかここを脱出して外に知らせないと。外に出られるとかなり危険です。まずはあのオーククイーンの領域(エリア)把握の範囲を確定させることです。」


オーククイーンは月見里と更科が会話をしているのを攻撃するわけでもなく、眺めるように見ている。


更科は地面にあった小石を空間スキルで転送を試みる。バレないようにオーククィーンの後ろに。何度か試みれば約5メートルほどがおそらく範囲だ。


「範囲はあったよ。5メートルほどだと思う。」


「わかりました。これを使ってください。」


月見里から更科が手渡されたのは粉状になった石のようなものだ。


「もう少し近くに転送できるならもっといい攻撃方法もあったのですが、これをオーククイーンの上空に転移させて振りまくことは出来ますか?」


「できると思うけどこれを振りかければどうなるんだ?」


「それは魔石を粉状にしたものです。魔石は容量を超えた魔力を入れれば爆破します。オーククイーンはあなたの空間スキルを防ぐために魔力を展開してます。上手くいけば魔力の濃くなるオーククイーンの近距離で爆発します。」


「なるほど。でもそれで倒せるとは思えないけどね。やってみるだけやってみるか…」


期待したほどの効果は見込めないかもしれないがやらないよりはマシだろうと考え粉状の魔石を握る。


「待ってください。おそらくそれで倒せたり、大きなダメージは与えれません。ですがあなたが空間スキルを使用する隙は作れると思います。それで逃げてください。」


「…なるほど。あの時、他の探索者たちを囮にして逃げたことを責めてきたのに自分が犠牲になるのはいいんだ?君をつれて空間転移する方法は?」


「いえ、囚われたのは私の責任です。更科さんに落ち度はありません。それにこの檻の中は帰還石も使用できなくなっているのでおそらく無理かと…」


自分が逃げることを諦め、自分を逃がそうとする月見里に更科はイライラする。自分はそんなことを望んでいないのに。


「わかったよ。…始めるよ?」


「はい。気をつけて」


様子を伺っていたオーククイーンもこちらが覚悟を決めたのを分かったのだろう。話しかけてきた。


「さて、相談は終わったか?何か良い方法でも出来たか?楽しませてくれよ?」


「どうだろうね?」


声を出すと同時に粉状の魔石を袋の中だけ転送する。


「ん?」


空間スキルを使用したことに気がついたのだろう。オーククイーンは上を見る。


チッチッチチッドッドッドドドドドッ


粉状の魔石が散らばりオーククイーンの頭上に降りかかる寸前に細かい爆発が起きて大きな爆発まで広がった。


「今です!」


月見里の声が聞こえた。

更科は檻の鉄格子を掴み格子のみを転送させる。


「ほら、早く来い!飛ぶぞ!」


「あっ」


手を伸ばして月見里の手を掴もうとするが更科の手が掴むことなく、床に落ちる。


「しまった。切ってしまった。」


冷めたオーククイーンの声が聞こえると同時に頭を殴られ更科は膝から崩れ落ちた。


「あっ…し、止血を…」


月見里は魔力を巡らせて更科の腕を掴む。血を止めるために魔力で覆うのは研究所で習う応急処置の方法だを


「邪魔だ」


オーククイーンは月見里の首を掴んで持ち上げる。苦しそうにするその姿を見て薄っすらと笑みを浮かべる。


「さて、お前ももう喰らうとしよう。お前を喰らえばどんなチカラが手に入るかな?」


貫手で腹部を貫こうとすると腕をふるった。


ギィーーン


「おお、防いだのか」


腹部に穴は開かなかったがその衝撃で月見里の身体が飛ばされ、壁面にあたり落ちる。


「珍しい…加護持ちか。ヒトでも加護持ちがいるとは」


「…加護持ち?」


疑問も問えないまま月見里の意識は落ちていった。

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