それぞれの動き
ビービーと警告音がなる。
ここは研究所の一室でダンジョンに潜っている研究者の情報を集約している部屋だ。リアルタイムで送られてくる音声。ダンジョンからの帰還後に提出される映像などを解析し、上層部に提出するための部屋だ。今は情報員2名が在室しており、リアルタイムの音声などに対応している。
「月見里研究員がどうやらオークに捕まったようです。」
警告音によって知らされた情報を女性の情報員が読み上げる。それを受けて上司と思わしき男性が反応する。
「木槌山は調査対象に入っていて調査関係者以外は立ち入り禁止になっていたんじゃないのか?」
「そのようですが、月見里研究員はダンジョンにしばらく潜ってなかったので通知を知らなかったようです。入山手続きも事務員を通さずに自分で行ったようですので。」
「ったく。また、冒険者組合から文句がくるぞ。とりあえず北山主任に報告をあげろ。あと、救助要請だな。調査で入っているサーシャ研究員に連絡をいれろ。」
「北山主任より、救助に関してはこちらで用意するので無用との連絡がありました。」
「おいおい、間に合わなくても知らないぞ。」
「心配無用!3番を用意した!だそうです。」
「こちらが言うことも把握済みか、『空間スキル』持ちか。間に合いはするか。」
「そうのようで」
「北山主任にばれないように15分ほど間をあけてからサーシャに連絡いれろ。このことに関して情報収集を頼む」
「よろしいのですか?北山主任に睨まれませんか?」
「問題ない。何もなければ情報収集した資料を抹消すればいい。何かあれば北山主任の責任は問われることになってもこちらには何もない。」
「何かあることを期待しているのですか?」
「期待はしてない。ただ、慎重な月見里が捕まったってことと3番が動くってことが気持ち悪い。確認しておくに越したことはないだろう?」
「そうですね。ちょうど、ななしのメンバーは隠密に長けていますし。」
「そうだな。今はいろいろと可能性がありすぎて考えることもできない。」
「冒険者の行方不明の原因に月見里が捕縛されたこと。そこにいつも救助になど向かわない3番が救助に向かうことですか?」
「最後のは空間どころか性格も歪めてるやつならありえるけどな。」
「有名な話ですよね。月見里さんもかわいそうに。」
「まぁな、月見里とダンジョンに潜れば3番に睨まれる。他のやつからしたら嫌だろうしな。」
「今回の救助不要も北山主任が他の冒険者に気遣ってのことかもしれませんね」
「表向きはな。あの北山主任のことだから他にも考えがあると思う」
「私たちはとりあえず、情報収集依頼をして待ちですか?」
「そうだな。その他送られてきた音声で気になる点は?」
「オークとの交戦は少女救出に向かったためと思われますが、煙玉を使用したようで音声が拾えなかったようです。」
「そうか。他にも救助対象者がもう1人か。」
「はい。」
「現状の音声状態は?」
「雑音しか拾えてませんね。オークの声で状況はわかりませんし。」
「とりあえず音声は常時チェック。あとはサーシャに期待するとしよう。」
「かしこまりました。」
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ダンジョン研究所主任室は個室になっており、応接も出来るようになっている。主任の主な仕事は研究者とそのパートナーの冒険者の管理だ。基本的には自分の担当する研究者や冒険者に関しての情も情報は全て閲覧する権限を持っているため、冒険者の情報を守るためにも個室を与えられている。研究室は国からの依頼もこなすため、その内容によって適切な研究者や冒険者に仕事が振られるためにも様々な情報を管理している部屋でもある。
北山主任の元にも月見里の状況は伝わっており、対処をすぐに行うために、研究室に偶然いた更科に月見里の救助を依頼するのは必然であった。
「じゃあ悪いけど頼むで!更科」
「わかりましたよ。オークなんて俺に任しておけば大丈夫ですよ。北山主任が心配することもありませんよ。」
更科の冒険者としてのスキルは空間スキル。ある程度の距離であれば空間移動も可能としており、今回のように一刻を争う自体であればこれほど適任はいない。心良く救助依頼を受けてくれた更科に対して北山は感謝をしていた。そこに何か感じるものがあったとしても。
「まーせやけど、気をつけてやー慎重派な月見里が捕獲されたなんて何かあるかも知らんしなー。」
「そうですね。口うるさいくらいでしたのにね。とりあえずすぐに助けに行きますよ。俺であればすぐです。」
更科は心配しているように見えるが機嫌が良くも見える。月見里と更科はまだお互いが新人の頃にダンジョンに潜るパートナーでもあったが喧嘩別れをしている。ただ、更科が月見里に対して執着をしているのも周知の事実だ。細かいことはわからないが、今はそれどころではない。
「せやなー頼むわ。せやけど一人で行くんか?」
「そうですね。一人で行かないと長距離は無理なんですよ。」
「そかーまー頼むわ。」
「わかりました。急ぐのでそれでは」
そう言うと更科はスキルを使ってその場から消えた。
北山主任としては心配する部分もあるが他のものを連れて行かせることもできない。仕方なく行かせるしかないのだろう。
「と、でも思ってるんやろねー。さてと…」
1人ごちると北山は電話の受話器をとり、内線をかける。
「あ、カナちゃん?ちょっときて。急いでなー」
コンコンコン
ほんの1分もたたずにドアがノックされる。北山が入室を促すとスーツ姿の女性が部屋に入ってきた。
「およびですか?」
「あー、うん。ちょっとお願いがあるんやけどー木槌山に行って欲しいねん。」
「木槌山にですか?あそこは現在、調査中だと聞きましたが。」
「そやねんけどいろいろ手違いで月見里が探索に入ってな。月見里がオークに攫われよったみたいやねん。一応、更科行かせたけどー他の意味で危ないやん?」
「結構な一大事をさらっと言いましたね。というより月見里さんはダンジョンに潜らせないように画策してませんでしたか?わざわざ更科さんのせいにまでして、探索者が月見里さんと同行しないように思考誘導までして。」
「気づいてたんやー。月見里になんかあったら上に怒られるからなー。ただもう最期かなと思って許可は出したんやけど、いろいろあってなー」
「構いませんが私の目的は?」
「月見里の安全確保とついでに月見里を捕まえたオークを見て来てほしいねん。一応、更科が救助できるなら手出しはなしで。確認だけしておいて。まーないとは思うけど更科が何かをした場合制圧して。」
「かしこまりました。すぐに向います」
北山が月見里の救助要請をしたこの女性は「白河カナ」対冒険者用に訓練されたプロだ。犯罪を犯した冒険者に対して抑止力として研究所が雇っている。元は冒険者であったり、軍関係であることが多く、モンスターを駆除する訓練ではなく、冒険者が持つスキルに対しての訓練を受けている。ダンジョン発生により、冒険者の魔法、スキルの取得により、犯罪などおこさせないように政府が軍に依頼し、研究所に派遣されている。別名は執行者。冒険者に対しての実力行使者になる。
「よろしく頼むわ。出来れば何かをする前にとめて欲しいけど」
「善処はしますが、誰であれ犯罪をおこせば厳正なる対処が私の仕事です。」
相変わらず融通の利かない相手だが実力だけは信頼できる。今、月見里に何かあれば自分の立場など塵のように吹き飛ぶだろうから依頼する相手としては申し分ない。
「一番は月見里の安全確保。更科は出来ればで。念のため記録だけはしといてな。リアルタイムでは見れない可能性があるから録画はしっかりと。」
「わかりました。差支えなければ教えて頂きたいのですが。なぜそこまで月見里さんの安全を優先させるのですか?」
「ごめん。差支えあるわー。ま、そのうちわかるよ」
明らかに不機嫌になる白河に北山は気づかないふりをして答えた。
「差し出がましいことを申しました。それでは行ってまいります。」
実力はあるし、仕事に対しても実直ではあるがまだ若い。感情を隠すのもまだまだなので北山が管理している。足早に部屋を出ていく白河を見送り、北山は思考にふける。
月見里の安全確保が最優先は本当だ。何かあれば一大事でもある。だが図らずも月見里のあの能力がどうでるか見れる機会になるかもしれない。主任という立場ではあるが、これでも研究者だ。未知なるものの好奇心は抑えられない。
「さー何がみれるかな?」
どこか楽しそうな北山の独り言が部屋に響いた。
この時は誰もが月見里と同行していた探索者のことなど忘れてしまっていた。
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