僕の行く先に君はいないけど
駅のホームにいる。
君は向かいのホームにいる。
表情は、前髪で隠れてよく見えない。
泣いているだろうか、それとも。
自分のいるホームに電車が来る。
僕は勇気が出せずに乗ることが出来なかった。
電車が発車すると、向かいにいる君は誰かを呼んでいた。
僕の名前ではない名前を。
返事をしながら、男が君の元へ行く。
今度は君の表情がはっきり見えた。
君の目の前に電車が来た。
君は、男となんの躊躇いもなく電車に乗った。
そして呆気なく、君はどこかへ行ってしまった。
駅のホームにはもう僕以外いない。
再び、僕の目の前に電車が止まる。
今度は乗ることにした。
少ないが、何人か乗っていた。
僕は席に着いた。
定期的に音を出す電車に心地よさを感じ、少し眠ることにした。
意識が朦朧していく中で、君の顔が浮かんでくる。
君の最後の表情。
もう会うことは無いだろうというのに、不思議と悲しくは無かった。
次に目を開けたら、どんな景色が待っているだろうか。
君とは反対に行く電車に揺られながら、僕はそんなことを考える。