『チュートリアルダンジョンが攻略出来ません。助けてください』
前作『我がダンジョンに冒険者が侵入し好き勝手していきます。助けてください』(https://ncode.syosetu.com/n5128eo/)の続きです。
でも前作を読まなくても大丈夫だと思います。
私はダンジョンコンサルター。ダンジョン経営に悩む人の為に知恵を絞り成功に導く、まあ、それなりに素晴らしい仕事……だった。
訳有ってその素晴らしい職を離れ今は経験を活かして冒険者をしている。とは言っても、ダンジョン攻略のアドバイザーというのがメインになりつつあるが。
「すまない。あなたがダンジョン攻略を手伝ってくれるという御仁だろうか」
「ええ、まあ。そう呼ぶ方もいらっしゃいますね」
そして今私を訪ねて来たのは二人組の冒険者、剣士の男性、魔法使いの女性。アベックだろうか。
「あたし達攻略したいダンジョンがあってさ、手を貸してくれない?」
「構いませんよ。どこのダンジョンに挑むおつもりですか? 失礼ですがお二人は駆け出しの冒険者とお見受け致します。あまり難しいダンジョンとなりますと案内し兼ねます」
「む、駆け出しというのはお見通しか。攻略したいのはここから南にある石畳で作られたダンジョンだ。大丈夫だろうか」
ここから南、石畳、心当たりがある。なるほど、あのダンジョンなら安心だ。なにせコンセプトが『駆け出し冒険者が中級者になる為のダンジョン』なのだから。お二人には丁度良い。
「良いですよ。同行させてください」
「よし、俺達の手であの難攻不落のダンジョンを攻略するぞお!」
「あたし達が最初の走破者よ!」
「…………難攻不落? あのダンジョンがですか?」
「あら、知らないの? あのダンジョンって最後のボスまでたどり着いた人が居ないのよ」
そんなはずはない。あのダンジョンの難易度は然程高くは無いはずだ。なにせあれは私が以前コンサルティングを行い手直ししたダンジョンだ。私自身「攻略できないダンジョン」を作ったりはしない。
……ああ、なるほど。あれから何年も経ったのだ中身が変わったとしてもおかしな話ではない。
よもや私の手掛けたダンジョンが難攻不落とまで成り上がり有名になろうとは。コンサル明利に尽きる。
いったいどのような成長を遂げたのか、家庭を持った事はないが、きっと可愛い子に旅をさせる親というのはこういう気持ちなのだろう。
私はちょっとだけ意気揚々と我が子の下へ向かった。
「……ところで、街中なのにどうして鎧を脱がないんだ? せめて食事の時くらいその兜を脱いだらどうかな?」
「宗教上の理由で脱げないので御座います。ご容赦くださいませ」
いくら人間社会に溶け込んだとはいえ私は人外の身、この愛らしい角と可愛らしい翼とキュートな尻尾は隠さなくてはならないのだ。
・ ・ ・
「おや、おやおやおや、これはまさかもしかして」
ダンジョンに入りものの数分、私は違和感のある壁を見つけ立ち止まった。
「どうかしたんですか?」
「いえ、この壁の前だけ埃の積もり方が違っていまして。恐らくこれは……」
私は以前の記憶を頼りに、近くにあった火の灯っていない燭台を、あらよっと。引いた。
すると壁がずれ、隠れた通路がぽっかり大口を開けた。
「これは隠し扉!?」
「もしかして隠れたお宝とかあるヤツ!?」
「……いえ、トラップがある可能性がございます。私が先に見て参ります」
私はここから先は危ないから一人で行くと釘を刺し通路を歩く。
歩いて歩いて、そしてようやく突き当たって、そこにあった扉をノックする。中には書物を読み耽っていた小鬼族がいた。
「失礼致します」
「うわっ! なんだお前!?」
「お久しぶりで御座います。以前このダンジョンのコンサルティングを担当した者でございます。近くに立ち寄ったものでご挨拶に参りました」
「ん? あーそういえばそんな事もあったっけ、忘れちゃったよそんな事」
「左様ですか。それで、つかぬことをお聞きしますがあの隠し通路、五重に鍵を掛けてあったはずなのですが」
「あれね、だって面倒じゃん、オレよく出かけるタイプだからさあ、いちいち魔法陣解除したり迷彩解いたり面倒じゃん? どうせ誰も気付かないって」
私が気付いたのですがそれは問題ないのでしょうか。
「それにダンジョン内の清掃・整備が不十分と見えます。ここに来るまで不発の罠が三つ程ありました」
「あー? 別にいいだろその位、どうせこのダンジョンを攻略するなんて無理なんだし」
「……お言葉ですが絶対攻略不可能なダンジョンなど存在しません。そもそもダンジョンとは――――」
「あーはいはい、そういうのもう良いから。このダンジョン結構有名になったしさあ、やっぱそれって俺の商才あってのモノじゃん? 今更口挟む必要ないっての」
「左様ですか。差し出がましい事を言って申し訳ありませんでした。それでは私はこれで。そうそう、私冒険者に転職致しました。改めて、よろしくお願い致します」
「ふーん、あっそ」
「どうだった?」
「残念ですがこの通り、何もありませんでした。しかし罠が生きております、こちらは入らない方が宜しいかと」
今の私は冒険者という立場だが、だからとて裏口から入って主を討つなどどいう無礼はしない。
ダンジョン攻略は正々堂々真正面から行う。それが私の流儀であり、私が作り上げたダンジョンへの礼儀、自身の顔に泥を塗るつもりは無い。
・ ・ ・
「印の付けた床板は踏まぬ様気を付けてください、焼かれます。そちらも、そっちは踏んで大丈夫です」
この部屋には罠がふんだんに散りばめられている。うっかり歩けば真っ二つ、もしくは串刺し、ついでにウェルダンに焼かれて上から降ってくる鉄球で粉々だろう。
「しかしよく罠の場所がわかるな、コツでもあるのか?」
「企業秘密で御座います。それを喋ってしまっては私の仕事が無くなってしまいますので」
種を明かせば明白。この部屋を設計した段階で私が目印を付けていたのだ。
無論、私で無くてもちょっと注意すれば容易に気付く目印だ。私が罠を仕掛ける際は『運』や『感』に頼らずとも暴ける様に設置する。それらも実力の内かもしれないが運だけでは人は成長しない。気付く事、目を配る癖を付ける事が大事なのだ。『駆け出しから中級者へ』がこのダンジョンのコンセプトだ。
「…………もしかして、天井か?」
「天井? なんかあんの?」
「単なる染みかと思ったが、形とか色が規則的すぎる。あそこの真下は炎の罠、あっちは槍、あの色は鉄球、かな?」
「へー、あんたもやるじゃん。ちょっと見直した」
・ ・ ・
「リザードマンの盾持ち、その後ろには槍と魔法使いか。おまけに天井には毒蜘蛛まで……」
「おまけに盾には魔法反射が付与されてるって情報もあったし……、てか道を塞ぐような配置すんなっての、このダンジョンの設計者性格悪くない?」
それはどうも、配置した甲斐があります。でもリザードマンという低脳モンスターを使うだけまだ有情だと喜んで欲しいモノですが。
さて、これも攻略法はいくつか用意してあるのだが、
「つかぬことをお聞きしますが混乱魔法は使えますでしょうか」
「ごめん、あたし攻撃系と回復をちょっとだけで」
「うちの魔法使いが脳筋ですまない……」
「怒るわよ」
まあ妥当である。駆け出し冒険者の混乱魔法なんかはまともに役に立たない。掛かるとすればせいぜい鳥とか虫とか、あとはこのダンジョンの主位でしょう。まず習おうとは思うまい。
「じゃあさ、さっきの罠の部屋までおびき寄せるってどう? 目印も付けたしあたし等なら引っかからないっしょ」
「そうか、別に正面から相手にする必要もないな」
「名案で御座います。そう致しましょう」
私は適当な石をリザードマンに投げつけてさっさと逃げ出した。
それからしばらく、哀れリザードマンの編隊は真っ二つになり串刺しになったあげくこんがり焼かれて鉄球で潰されてしまった。
・ ・ ・
「これが最後の扉か……」
「ここが難所なのよねえ」
ダンジョン最深部より一歩手前、謎解き部屋である。ここを抜ければいよいよこのダンジョンのボス、ストーンゴーレムとご対面できる。
はずなのだが……。
「あら、おかしいですね。これで扉が開くはずなのですが」
「順番が間違ってるのか?」
「でもこれヒント通りやってるでしょ?」
ボス部屋に繋がる扉の鍵は魔法陣を採用している。扉に描かれた複数の魔法陣を順番通りに解除すれば開く、シンプルな作りだ。
勿論ヒントはこの部屋にある。しかし答えと合致しない。そうなれば考えられる可能性は1つ。信じたくはないが恐らく――――
『ヒントと答えを全く別の物にすれば誰も解けないんじゃね??』
という安直でバカげた、愚かで間抜けなバカみたいに愚直でくだらない理由で思い至ったのだろう。
ちなみにこの部屋の隅には申し訳程度に財宝が置いてある。『どうせ扉開かないしこれで満足でもしてさっさと帰りな』という浅ましい考えが手に取る様に分かる。
これが難攻不落のダンジョンの正体か。小賢しいですね。
「…………少々。お時間を頂いて宜しいでしょうか。お二人はボスに備え休憩なさってください。食事をしても構いませんので」
「ああ、それは良いけど……」
「まさかあなた……」
「総当たりで御座います」
・ ・ ・
「あー、やっと出口が見えて来た」
「まさかダンジョンで一日過ごすなんてねぇ」
「私が解錠に手間取ったもので、失礼致しました」
「いやいや良いの良いの、こっちもほら、こんなにお宝が手に入ったし」
「これで俺達も駆け出し冒険者卒業かな!」
結局最後の扉を解錠するのに半日ほど掛かり、ようやくストーンゴーレムを討伐、財宝を手にすることができた。
総当たりなどという小癪な手を使って何だが、お二人もよく我慢してくれた物だと思う、あのダンジョンの主より余程骨がある。
「さて、それでは最後の一仕事と参りますか」
「最後? その壁は隠し通路だろ、なにをしてるんだ?」
「しかもそんなに厳重に」
「この通路は元より五重に鍵を掛けていたもので、せっかくなので元に戻しているのです」
「でもそれは外側から掛けちゃ意味ないんじゃ……」
「そうですね大した意味は御座いません。中に誰かが居るならともかくですが」
それでは、御自身のダンジョンをお楽しみくださいませ。
・ ・ ・
翌日の朝、二人の元駆け出し冒険者は街を出て行った。ここよりもう少し大きな街でもっと大きなダンジョンに挑むらしい。
二人を見送った気持ちはどことなく、あの時、あのダンジョンを完成させた時と同じ物を感じた。
これからどうなるか、どう成長するか、自分の知らない所で多くの物と関わって、経験して、成長して、いつかまた出会う時それは見違える様に変わっていて。
あの時の私はきっと、そういうのを期待していたんだろう。……しかしまあ、今回のダンジョンは主が悪かった。あの二人はもうちょっとまともに成長してくれると私としては嬉しい。
「でもまあ私も冒険者としてはまだまだ駆け出し、そんな事を思うのはおこがましいですかね。さ、私もお仕事をしますか」
私はテーブルに羊皮紙を広げ筆を走らせる。冒険者家業の他にも副業として物書きをしているのだ。
ダンジョン情報誌に資料を送ったり、記事を書いたり。あとは気まぐれに、レビューを送ったりとか。
『【ダンジョンマスターの人格を疑う。】☆----
このダンジョンはスタンダードな罠・モンスター・謎解きから構成されたダンジョンで、深さはさほどなく、初心者~中級者向けのダンジョンに思われます。
罠は気を付ければ回避可能、道中のモンスターは機転を利かせれば難なく対処できる親切設計。
それだけ聞けばまともに思えますが、問題は先進性です。私が数年前に訪れた時から一向に変わりの無く、流行を取り入れる事無くただ形を維持しているだけのダンジョンです。
目新しさも無い、発展も無い、オリジナリティも感じられない。マスターの怠慢が見え見え、このままでは廃れていくだけでしょう。
それに管理も不十分、罠がいくつか不発となり、そこまで誘い込んだリザードマンを仕留めそこない危ない思いをしました。
手入れも不十分、掃除がされてないので埃だらけだしカビ臭い。きっと清掃費や維持費をケチってお宝を貯め込んでいたのでしょう。回収した財宝がそう物語っています。
そして極めつけは扉を解除する為のヒントと答えが合致しないという事。結局総当たりで解錠してダンジョンを攻略する羽目になりました。
ダンジョンの主の性格、品性、人格が見て取れるダンジョンだと感じました。余程の事が無ければこのダンジョンを訪れないほうが良いでしょう。
でもダンジョンそのものに罪は無し、これを機にダンジョンマスターには心を入れ替えて欲しいです。
生きていれば、ですが。』