An evening calm
某音楽ユニットの曲をモチーフに書きました。
窓の向こうの景色は、早々と移り変わって行く。古風な建物が建ち並んでいたと思えば、畑や田んぼだらけの殺風景な景色が広がり、気が付けばビルが建ち並ぶ都市の光景へと変わっていた。
もう見慣れたこの景色に、何の感情も湧かない。あるとしたら、「やっと帰ってきた」という疲労の感情だけだ。片道一時間半のこの通学路に、疲労以外の感情等何も湧かないだろう。
電車を降り、駅を通って私は帰り道を歩く。都市部から少し離れたそこは、人が多すぎず、少なすぎず、丁度いい塩梅……田舎というより、町という感じだ。
この町は海岸に面しており、夏には溢れ返る程人がやって来るのだが、今日はまだ四月に入ったばかり。当然、海岸に人気は無かった。
夕日が眩しい。海に反射した光が私の目を刺激する。直ぐに目線を背けて、家までの道を歩き出した。
家路を行くと、制服を着た学生達と何度もすれ違う。自分も一年前まではあの服を着ていたんだと思うと、なんだか少し寂しく思えた。
そして前には、また制服を着た二人の女の子が並んで歩く。仲睦まじく歩く二人を見て、私は懐かしさを感じた。去年の今頃は、私も友達と二人並んで帰っていたんだ。他愛の無い話をしながら、コンビニでアイスを買って食べたり、道で寝転がる猫を見つければ屈んでその猫とジャレたり……思い返せば、とても素敵な時間だったのだと今更ながらそう思った。
それが今では、私の隣を一緒に歩くあの子は居ない。空白だ。だからと言って、他の誰かと帰ろうとは思わない。そもそも、行っている大学の場所が遠く離れてるし、そこに通ってる子の多くは下宿してるから、こんな町にまで一緒に帰る相手なんて居ない。
別に、いらない。
実はまだ、感じている。その手に残るあの子の感触を。温度を。脈打つ鼓動を、未だに。それは多分、永遠に残り続けるだろう。私が忘れない限り。
君は確か、もう遠い所に旅立ってしまった。それを聞いた時とても悲しくて、哀しくて、思わず感情が高ぶっちゃったけど、それも今は良い思い出だ。
何時か別れはやってくるものだと思い知らされた。当然だよね。永遠なんてこの世界に存在しない。この世界に居る限り、何れ別れ……終わりは来るんだから。だからせめて、君の温度を感じたままで居たかったから、直接私が見送ったのも、また良い思い出だった。
ふと私は足を止めて、海岸に向かった。
夕焼けはまだ海を、私を照らした。少し眩しくて仕方なかったけれど、体にあたるその温度は別れの直前のあの子に似ていた。
私はポケットからスマートフォンを取り出し、電話帳を開く。一年前で止まった通話履歴を見て、私は電話を掛けた。届くかどうか分からないけど、何時になるかは分からないけど、再開出来る日を伝えたくて。
海辺に空しく、サイレンが響いた――。