わずか2秒
一睡もできずに朝がきて、今日もバイトなのでシャワーを浴びて私は出勤した。
スイコウ先輩は眠たそうな表情で私に挨拶してくれた。
私もできるだけいつも通りに挨拶する。
心が重い。
鉛でも入っているのだろうか。
なんだか視界も暗い。
しかし、ここで落ち込んでいるオーラを出すわけにはいかない。
スイコウ先輩に、これ以上呆れられたくない。
仕事を黙々とこなしながら液状化現象な自分の心を必死に胸に閉じ込めていた。
倉庫でスイコウ先輩と鉢合わせする。
私は会釈して洗剤の補充を、スイコウ先輩は洗剤や備品の在庫チェックに来たらしく、メモを片手に奥へ進む。
「………」
呼ばれた気がして顔を上げると、スイコウ先輩は私を見ていた。
「……なんですか?」
私は感情がこもらないよう細心の注意を払いながら、しかし、無機質にもならないように声を出した。
「……別に」
スイコウ先輩は呟くと在庫チェックに戻る。
私が倉庫を出る時、またスイコウ先輩はまっすぐに私を見ていた。
「………」
目が合ってわずか2秒足らず。
その少しの秒数でも私は考えた。
もしかして、スイコウ先輩は昨日のことを気にかけてくれているのかもしれない。
私が落ち込んでいると、気にしてくれているのかもしれない。
おめでたい考えかもしれないが、スイコウ先輩の鋭い目は確かに私の表情をうかがっていたのだ。
私は2秒が過ぎる前に液状化現象な心を奮い立たせ、元気ですよ!と、笑って見せる。
「………」
「………」
スイコウ先輩は私が笑った瞬間、間髪入れず思いきり目をそらしたのだった。