5点
キミにボクの世界が理解できるはずがない。
彼のそう言わんばかりな軽蔑の眼差しに、私は孤独を思い知った。
知っていたのに実感することが叶わなかった孤独。
人はきっと分かり合いたいと願うからこんなに孤独なのだ。
人間に生まれた業はこんな孤独をどうにかしようともがくことなんだ。
私は彼の世界を理解しようとすればするほど孤独になってしまうのだろう。
きっと苦しくてつらくて悲しい。
それでもかまわないくらい彼を……深く想うことが私にできるのだろうか。
私は……人間になれるのだろうか。
今日という日は雨がよかった。
できれば繊細な雨。霧雨が欲しかった。
しかし、遮光性ではないカーテンは、快晴であろう太陽の気配を狭い自室へ無遠慮に入り込ませている。
嫌だ。
覚醒していない頭が一言つぶやく。
私だって嫌だし。
同じく覚醒してない私の心がぼやいた。
私の頭と心は親友のように受け答えし、私は嫉妬すら覚え、自分には友達がいないことを冷笑する。
もそもそと起き上がり、怠い身体をどうにか布団から引き剥がす。
四つん這いで学習机まで進み、椅子に手をかけてどうにか立ち上がった。
机に両腕をつけば、昨夜の残骸がグシャリと音を立てて歪む。
「……暗く静かな海底から見上げる光……ぼくを呼んでいるの?」
ルーズリーフに書き殴った詩の一部を起き抜けのかすれた声で読み上げれば、なんとも安っぽく響く。
昨夜の浸りきっていた自分が滑稽で、おかしくて泣きたくなる。
クラシックラジオから流れる物悲しいピアノの旋律が、こんな言葉を書かせたのだ。
馬鹿だ、私は。
ルーズリーフをぐしゃぐしゃと丸めて床に叩きつけた。
その時の軽い音に、私はさらに情けなくなり死にたくなる。
彼に出会ってから私はずっとこんな調子で、すっかり狂いかけているみたいだ。
恋、なんだろう。
きっと、好きなんだろう。
私は彼に好かれたいんだろう。
それは素敵で前向きな心の成長に違いない。
世の中、恋や愛のレクチャーにあふれていて、具体的な例も山ほどある。
だから、私はこんなに苦しい思いをしなくてもいい方法がある。
でも、どれもあてはまってなくて、途方にくれた。
似たような事例でも、それは彼ではないし、私でもない。
そのことが不安をより一層掻き立てて、前へ進めなくなる。
誰かに答えを求めてもそれは本当の答えではない。
ネットや心理学、漫画、小説、雑誌、読み漁った結果、私はやっと分かったのだった。
自分で決着をつけなければ本当のことはずっと分からないのだ。
怖い。
恐怖しかない。
彼に自分がどう思われているのか知ることが死ぬほど怖い。
ちょっとからかわれるだけで傷つくくらい彼の言動に敏感になり過ぎているほど重症なのだ。
勝てる保証のない賭けに大金を突っ込んでいる気分はきっとこうに違いない!
はたから見れば思い詰めすぎだ、と言われることだろう。
その通り。
思いを詰めすぎている。
その思いを散らしたら彼は私にとってどうでもいい存在になってしまうのだ。
そんなことにならないよう、私はだから狂いそうな毎日を送っている。
彼を特別視する。
その為なら私は孤独と恐怖に立ち向かう。