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邯鄲の夢

作者: 音澄 奏

 凱旋の歌声、市中に響き渡り、いまだ覚めやらぬその夜。兄王は勝利の宴にて、その夢見たることを妹姫に語る。

 「あれはお前の婚儀の日であったか。酔いを覚まそうと一人中庭へ出た時のことだった。月明かりの下、一人のみすぼらしい老婆が座っているのを見つけた。その時、月は天心にあり。宴もたけなわ、祝いの席とて、大方この騒ぎに紛れて迷い込んで来た者だろうと、さして気にも留めなかった。すると、老婆は私を見つけ、こう言った。

 『お若いお方、その杯をどうか私に下さいませんか。この寒さ老いた身には堪えまする。』

 思えばあれは夏の盛りも過ぎたころ、草むらには虫の音が聞こえ酔った身にも夜風がしみる。常の私ならば追い払うところ、しかし今宵はめでたき夜でもあり、また酔いも手伝って、『どうぞご老体、お飲みなされ』と手にしていた杯を老婆に渡した。『ありがたや』と白く細い喉首を見せ、老婆はそれを飲み干した。青白い老婆の顔はすぐ酒に火照り、ぎょろぎょろとした目とあいまって異様な風体、さすがの私も気味悪く思った。

 老婆いわく『久方の清酒、これほどのものは初めて頂きました』と知った顔。今考えればそれもその筈、あの宴には、お前のためにと国中から良い酒が集められていた。

 それはとにかく老婆は何かお礼差し上げたい、と言う。一国の王が乞食同然の老婆から、施しを受けるのも妙なもの。もとよりこちらは戯れ半分、気にすることはない今宵はめでたい妹の婚儀の宴、お前も祝ってくれと適当にあしらったが、老婆はなかなか引き下がろうとしない。『何ぞお言いつけ下され、』としつこいので、私も面倒になってきた。

 『ではこの大陸の富、この大海の全ての富を』とふざけて言うと、老婆は顔色一つ変えず『分かりました』と頷く。あまりのことに私は大声で笑い出した。

 それより後のことは覚えておらぬ。気が付くと私は庭の草むらに寝ていた。つまずいて取り零したのであろう、手にしていた筈の杯は空になって草の上に転がっていた。草葉の上にはまだ夜露も下りず、空を仰ぎ見れば月はいまだ天心にあり。

 酔っている間に奇妙な夢を見たものだと、今まで気にも留めずにいたが、今度の戦はあの老婆のおかげやもしれぬ」と妹姫に笑った。

 妹姫、兄王の話に恐れおののき、その老婆もしや邪神の類にあらずや、と兄に問う。しかし兄王、あれは酔って束の間に見た夢、それは先に話したとおり、それより後は覚えておらぬ、と全く相手にしない。

 宴、終わって後。

 兄王は床にて奇妙な夢を見る。今は冬なれど、そこは草むらに虫の音の聞こえ、遠く楽の音が聞こえる。夜空澄みわたり、月は天心にあり。

 「しかし、それは大きすぎる値。」

 とどこからか、声聞こゆ。

 「今一つ何か頂きたく思いまする。」

 続く嘲笑の声。兄王、驚きて見回せば、前方に二つの人影あり。

 「何を望む。」

 闇に響くその声は酒に酔いたるか。笑みを含んだ声は若い男の声なり。

 「貴方の真に望むものと引き換えに。」

 言う声は老いた女のものか。沈黙に響く虫の音。かすかなためらいの間をおいて、男言う。

 「…良いだろう。あれはもとより望んで手に入るものではない。」

 恐るべきその言葉。富と引き換えに我が身を売るは誰ぞ、と兄王目を凝らせば、月明かりに浮かぶ老婆と自分の姿。王は恐れ慄きて短剣を振るう。


 城内に響き渡る恐ろしき叫び声。その声は妹姫の閨から聞こえたものなり。

 まどろみから醒めた兄王、駆けつけてみれば、横たわる姫の哀れな姿。愛らしい顔はすでに白く青ざめ、朱の唇の色は褪せて消え、すでに息果てるなり。白き小さき足首にはおぞましき老いた白蛇、腹を割かれ巻きつけり。


 兄王の嘆き深く。それから後は悪虐の王となりて、民を苦しむる。陸と海との幸は全て彼のものとなれり。しかし、王は生涯一人の妃も持たず、ついに王家の血途絶えると聞く。

まず一番最初にお詫びをば。

奇妙な古典文体モドキはこれから勉強しますので、お許しくださいm(_ _;)m

似非古典風味、昔話チックを目指してあえなく挫折致しました…。


あと、「オチが分からん!!」との指摘を家族から受けたので付け足すと

1、「大陸の富、大海の富」は兄王の本当の望みではない。

2、老婆は兄王の「本当の望み」と引き換えに富を与えた。

ということでしょうか…。

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