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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第三話 異界より来たる災厄
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05.邪神

 リュウはワインをシロノと自分のグラスに注いだ。


 これまでの説明で、≪赤の預言≫に関する情報はおおむね理解した。

 だが、そこからが問題で、リュウはどこか話の中を宙ぶらりんな状態でいるような居心地の悪さを覚える。


「それだけだと、まだ『だから何?』としか言えねえよな……。やっぱり、俺らが知りてえのは、傾国の魔剣と魔神復活の繋がりだよなぁ?」

「そーだねえ。魔剣と魔神。やっぱり誰かしらが魔神復活を企てて、それに魔剣が必要って考えるのがフツーだと思うけど」


 自信なさげに一つの仮説を立てたルアノは、なんか小説みたい、などと零した。

 今のはありそうな話だとリュウは思う。


 問題はその目的だが――、


 『人類の進歩』


 考えたところで、そんな言葉が思い出された。


 だが、それ以上何も出てこない。魔神の復活に、どう“人類の進歩”とやらが関わってくるのか。


 そもそも、サレイネの怪しい動きは預言に関係していると決まったわけではない。

 十二連盟移籍のタイミングが絶妙であること。ルアノが持っていた魔剣を異教徒組織ヘルゼノスが狙っていたこと。彼らが『ルアノが魔剣を持ち出した』と知っていたこと。そして、サレイネとヘルゼノスとの繋がり。

 それらを考えると、十分すぎるほどサレイネは疑わしい、というだけだ。


「……そもそも、傾国の魔剣ってのはどういう()われのものなんだ? “傾国”って響きが不穏だけどよ、国滅ぼすほどのパワーを秘めてるとか?」


 当然抱く疑問に、しかしながら、ルアノは首を横に振った。


「そんなことないよ。あれ自体はただの模造品みたいだし」

「模造品だ? じゃあ、ヴォルガさんの御守りと大差ないってことかよ?」

「違うよ。多分だけど、あれは武器じゃなくて、宗教的価値を持った代物だと思う。きっと」


 リュウは口元に右手を添えた。


「もしかして、それを奪い合ってあちこちで抗争が勃発するんじゃねえだろうな……」

「それこそ、まさしく傾国じゃんね……」


 その可能性に至り、苦笑いを浮かべるリュウとルアノである。


「まあ、魔剣が何なのか、実は上層もよくわかってないんだよね。もしかすると、調査局あたりは知ってるのかもしれないけど」


 そこで、リュウの頭上に軽い火花が散った。


「そういや、『魔剣は外務局(・・・)にあった』っつったな。元々どっかからパチってきたのか?」

「ンなわけないでしょ。シルクライド大神殿からの歴とした贈呈品です」


 眼を逆三角にするルアノである。


「えーっと、シルクライド大神殿ってのは……」

「ルーセアノ教会だよ。シルクライドにある、ハウネルでは一番大きい教会支部」


 そうだった。とリュウは膝を叩いた。

 どうにもまだ地理的な知識が怪しくていけない。


「で、そんな物騒なモン寄越されたのはどういうわけだ? おかげで今になって大わらわじゃねえか」


 リュウの雑感に、ルアノは『確かに』と呟く。


「えっと、百年も前だったかな? シルクライド大神殿がちょっとした内紛を起こしたんだよ。まあちょっと過激な人達だったからさ。結局、シェイリスを間に挟んで手打ちにしたんだけど、そのときにシルクライドから頂いた双剣の片割れ、それが傾国の魔剣なわけ」

「なるほどな。そりゃ下手にぶっ壊したらマズいな」

「そういうこと」


 要するに、傾国の魔剣は“和平の証”というわけだ。双剣ということから、本当は一対にして一つの代物なのだろうが、シルクライドは敢えてその片方をハウネルに譲ることで誠意を示したのだろう。


 もしも、魔剣が直接悪さをするなら、破壊してしまう手段もあると思ったリュウだったが、そういう背景があるなら万が一にも失うわけにはいかない。シルクライドに和平条約を破棄したものと解釈されかねないからだ。


「似たような理由で、シルクライド大神殿に返しに行くのもダメだな。確かにそうなるとシェイリスに持ってくが丁度いいのか……」

「そういうこと。それに、シェイリス王国第四王子のヴァンはわたしの婚約者だし、≪赤の預言≫にも理解がある。だから、わたしは魔剣をシェイリスに届けようとしたってわけ」


 ――かしこい。などと一人勝ち誇った笑みを浮かべるルアノ。


 確かに賢いのかもしれないが、賢ければ賢いほど、自らの首を絞めていることに気が付いているのだろうかと、リュウは半眼で彼女を睨む。


「え、何こわっ……。その顔こわっ……」

「オメー、よく捕まんなかったな……。いや、だからウルトラシングで追いつかれたのか」

「へ?」


 ため息を吐くリュウに、ルアノは頭上にクエスチョンマークを浮かべている。


「今の話聞く限り、その魔剣持って飛び出してったら、今からシェイリス行ってきますって書き置き残してるようなもんじゃねえか」


 沈黙。


「ほんとだ!?」


 ――またかよ。


「まあ、おかげでヴォルガさん達が来てくれたから、結果よかったんじゃね?」


 リュウは苦笑しながらフォローを入れた。

 しかし、ルアノは顔をテーブルに突っ伏してしまう。


「色々やらかしてるんだなあ……」

「ヴァネッサさんとの合流の段取り、ミスって余所に漏れてなきゃいいな」

「やめて!? それ実現しちゃうヤツじゃん!」


 がばっと顔を上げる王女殿下。半泣きである。


「……俺の旅券が発行されんのが四日後だそうだ。いくらなんでも、そのときまでには会ってるんだろ?」


 旅券の発行には、手続き等の関係で時間が掛かる(リュウの常識からすれば早いほうだが)。そして、追われる身のルアノは手引きなしで検問を突破出来るとは思えない。

 リュウとルアノがルネに留まっているのは、そういうわけだ。

 ちなみに、シロノはパスポートのようなものを所持しているらしく、国境検問所を問題なく通過出来るとのことである。


「あのさ、リュウ。わたしも洗いざらい喋ったワケじゃん? 二人とも、【エグルルフ】までついてきてくれるってことでいいよね?」


 首に手をやり、へらりと自信なさげに訊いてくるルアノ。

 エグルルフとは、シェイリス王国の王城――つまりはルアノの最終的な目的地だそうである。


 それを受け、リュウは呆れまじりのため息を吐いた。


「この期に及んで何言っとるんだオメーは? そりゃついてくわ。預言のこと、ヴァネッサさんには話せねえんだし。俺らみてーなのがいた方がいいだろ」


 そして、シロノも問われずとも頷いて同意する。


 その答えにルアノは――、


「よかったぁ。二人ともありがとう」


 ぱっと笑顔を浮かべた。


「俺らに遠慮しねえでいいぞ。オメーの行く末は気になるし、何より預言だの魔剣だのにサレイネとの繋がりがうっすらみえるんだからな」


 笑顔満面のルアノを見て、リュウは穏やかに笑みながらグラスの中のワインへと視線を落とす。


 再びそれを煽るようにして飲み込み、芳しい余韻を楽しむリュウだった。



***



「にしても、結構情報は揃ってるのに、閃くモンがねーんだよな……」


 リュウは自分のこめかみに人差し指をとんとん当ててぼやいた。


「やっぱ、傾国の魔剣が何だってのか、ハッキリしねえと冴えねえな」

「“魔剣”って名前だし、預言の内容的にも、絶対魔神が関係するんだって」

「異教徒が関係してんのは、まず間違いなさそうだよなあ……」


 人差し指を立てて力説するルアノである。確かに、“魔剣”というワードは魔物や魔族、魔神といったものに結びつくのは間違いないはずだ。しかし、それに異教徒という存在を絡めると、リュウには一つ腑に落ちない点があった。


「なあ、異教徒組織の“ヘルゼノス”って、“邪神ヘルゼノス”から来てるんだよな?」


 そう、リュウはシロノに顔を向けて訊く。

 頷くシロノだが、そこがどうしても引っかかるのだ。


「どうしてヘルゼノスは“邪神”って呼ばれてるんだ? “魔神”とは違うのかよ?」

「あ、それわたしも知りたかったんだよ」


 シロノは微かに目を細めた。

 これまでのシロノなら、きっと何も答えることはなかっただろう。まるで、ただそこに佇むだけの亡霊のように。

 だが、シロノは明らかにリュウが出会った頃の彼とは違う。

 何というべきか、リュウは腹に落とし込める言葉が浮かばないが、彼はリュウ達を認めてくれ始めた気がするのだ。


「我々が信じている説なら紹介できる。断っておくけど、確かなエビデンスはない」

「いいじゃないっすか。専門家が言うことが一番だよ」

「専門家なのか……?」


 嬉々としてテーブルに両腕を乗せるルアノ。もしかすると、彼女はこういった歴史や伝承といったものに、関心を寄せる質なのかもしれない。

 とすれば、彼女からして異教徒であるシロノとの接触は、邪神ヘルゼノスに関する彼らの見解を聞き出す絶好の機会といっていいだろう。


 その気持ちはリュウにもわかる。

 というより、リュウは異世界から来たのだ。ここのファンタジー的な世界観には、当然憧れとも呼べる好奇心を抱いていた。


 特に、女神と相対する魔神達について。そして、彼らが敗れてなお、世界中に蔓延る魔物という存在。

 そういえば、リュウはまだ魔物を生で見たことがない。こと戦闘において、魔物ではなく人としか戦っていないことに、ア・ケートの闇を感じてしまうリュウである。


「“魔神”とは魔族の神(・・・・)。彼ら自身も魔族。けれど、ヘルゼノスは違う」


 一拍おいて、シロノは言った。


「ヘルゼノスはルーセアノと同じ(・・)だよ。元々人間だった彼を、人々が邪な神として神格化したもの(・・)だ」





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