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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第一話 ハウネル王国騎士養成学校
40/182

40.ガーラント戦

「まだ十時になってねえのに、今日は八割方終わってるようなもんだ」


 流は会場に設置されてある時計を見ながら言う。


「これまで俺達が一緒に過ごしてきた数年間。そこで築き上げた信頼を、確かめるだけの試験なんだからな」


「随分と余裕だな」


 とガーラントが言う。


「ハン」


 ――不利。


 軽口とは裏腹に、流はこの勝負の相当な不利を悟っていた。


 本当に人望で勝負すれば、ウィルクが勝ち抜ける確度は相当高い。

 だが、この≪決戦(デュエル)≫の表の顔は、あくまで十秒間の試合なのだ。

 つまり、ウィルクにいくら人望があっても、流が判定までもたずに負ければ票を入れてもらえない。


 それどころか、ガーラントやレティシアは流の事情を知らないのだ。

 彼らがウィルクを相手にするつもりで流に襲いかかったら、死んでしまう可能性さえある。


 だからといって、逃げ回るのも駄目だ。周囲にマイナスの印象を与え、票がもらえないだろう。


 アルフィの指導を信じるしかない。

 彼女から教わった全てを活かして、何とか十秒間だけ、互角っぽく立ち回る。それができるか否かが、流にとっては勝敗の分かれ目だ。


 そして、それがきちんと意味を成すかは、次の投票の結果でわかるだろう。





「では、第二試合を始める!」


 ロイドの合図と同時に、アルフィとガーラントはそれぞれの定位置へと向かった。

 アルフィが竜の幕、ガーラントが剣の幕だ。


 ガーラントの装備は先ほどと変わらず。防具を外さないのは、アルフィの魔弾を警戒しているのか、どうあっても彼自身から近づくつもりはないからか。


 アルフィの方は、レティシアと同じくグローブをしているだけで、他には何も装備していない。

 アルフィのフットワークの軽さと連発される魔弾の組み合わせは強力で、彼女のペースにはまれば、間合いを取られたまま一方的に的にされてしまう。


 第一試合でわかったのは、レティシアの方がガーラントよりも人気があるという、人望の大小関係。

 この第二試合でアルフィとガーラントの大小関係がわかれば、もう先が視えてくるだろう。


 ――ピィッ!


「≪奇手の陽波(マジシャンズ・コロナ)≫」


 アルフィが剣を振り上げると、太く長い尾がついた三つの火炎弾がガーラントに躍りかかる。


 彼女曰く、≪奇手の陽波(マジシャンズ・コロナ)≫は、人によっては一日にそう何度も撃つことができないレベルの炎の魔弾だが、彼女にとっては目眩まし程度の攻撃でしかない。


 ガーラントがそれらを楯で防ぐと、まるで霧散するかのように掻き消された。


 ガーラントが楯を構えた際に、アルフィは頭上に光の球体を生成していた。

 彼女の火炎弾が掻き消された瞬間、球体は何本もの電撃の矢を吐き出した。


 ガーラント目掛けて超高速で放たれたそれらは、しかしながら彼の楯から発生したガラスめいたシールドに吸収された。

 次の瞬間、まるで鏡に当たった光のように、楯からアルフィに向けて電撃の矢が撃ち放たれる。


 ――反射しやがった!


 流の驚愕が頭の中で言語化されている間に、アルフィは足下から氷の壁を生成。

 矢は全てその壁に激突し、完全に消滅してしまう。


 ――ドォン!


 その刹那、派手な音と衝撃が走る。


 氷の壁はガーラントが片手で振ったハルバードによって、粉々に粉砕されていた。


 砕けた大粒の氷が降り注ぐ先に、アルフィは居なかった。


 ――上だ。


 アルフィは宙から真下にいるガーラントに、魔弾の雨を繰り出した。

 それらはガーラントに全て直撃し、爆風により砂埃を上げた。


 アルフィはまるで空気中に足場を得たように、空中で跳躍。

 ガーラントがいた位置から距離を取りながら着地した。――のと同時、アルフィは障壁を展開。


 その瞬間、障壁が一瞬で彼女に肉薄していたガーラントのハルバードを防ぐ。

 砂埃を巻き上げ、アルフィに突進していたガーラントの姿が露わになったとき、流は彼が、全くの無傷であることを悟った。


 ピィッ! という笛の音が、試合終了を告げた。


「そこまでだ」


 そうロイドが言うが早いか、アルフィの障壁はピシリと亀裂を立てた後、完全に崩壊した。

「投票タイムだ。アルフィ・アルバーニアの勝ちなら、竜の徽章。ガーラントの勝ちなら、剣の徽章を投票しろ」


 やはり、流にはどちらが勝ったのか判断できなかった。

 いずれにせよ、流は竜のバッジを投票するつもりだが。


 投票箱の列に並んでいる間、流は考える。


 今回のガーラントの反撃は目立っていた。

 おそらく、第一試合の反省を活かして、積極的に相手の隙を突きにいったのだ。


 それでもなお、アルフィに攻撃が届かなかったことはさておき、彼のスピードは意外なものだ。

 流からみて、アルフィとガーラントの間合いは十分あったはずだ。にもかかわらず、彼はアルフィが着地で硬直した僅かな暇に、一気に距離を詰めた。


 流がバッジを取る番になったので、竜のバッジを一つ取り、握りしめる。


 第三試合はガーラントと戦わなければならない。

 果たして、どのように立ち回ればいいものか。


 彼の動きは決して追い切れないほどの速さではない。

 これはウィルクの優れた動体視力のおかげだろう。

 それが流にとって唯一の救いだ。


 流は投票箱の中に、手のひらの竜のバッジを滑り落とした。


 ――さて、どうなるもんかね。





 投票の後、流には確かめたいことがあった。

 周囲を見回し、レティシアの姿を見つけて彼女の傍に寄る。


「レティシア。投票したか?」


「しましたよ」


 意外な答えだった。彼女も他の参加者を有利にさせまいと、投票を棄権したものだと思っていた。


「ガーラントに入れました」


 そうレティシアは冷たく付け足した。


「……だろーな」


 流は苦笑いを浮かべるしかない。


「投票の結果を発表する」


 ロイドの号令に、流はホワイトボードに視線を移した。


 第一試合。レティシアはガーラントに票で勝り、彼よりも人望が上であることを示した。

 今度はアルフィとガーラントが比較される番だ。


 この結果で、ガーラントがアルフィよりも票を獲得していたら、アルフィにとっては絶望的な状況だ。


 スクリーンが切り替わる。


 竜:20

 剣:27


「アルフィ・アルバーニア、二〇票。ガーラント、二七票獲得だ」


 再びスクリーンが切り替わる。


 ウィルク・アルバーニア:0

 レティシア=ミゼル・ルケーノ:26

 ガーラント:47

 アルフィ・アルバーニア:20


「……チカチカする」


 その結果に、流は小さく呟いた。

 眼前に火花が、派手に散っている。


 流はこの結果から、レティシアの合格を悟った。

 少なくとも、彼女はウィルクを除く三人の中で、一番人望がありそうだ。

 また、流のように試合における不安要素もなさそうなため、安定して票を稼げるであろうからだ。


 問題はガーラントに票で負けてしまったアルフィだった。

 流がガーラントとどれだけ戦えるかにもよるが、彼女の獲得累積票数がガーラントを上回るのは難しいのではないか。


 そんなことよりも、

 ――否。だったらなおさら、流は人の心配をしている場合ではない。





「時間だ! 第三試合を始める! 両名は定位置へ!」


 そうロイドが声を張り上げた。


 流は剣の印の上に立つ。

 顔を上げると、竜の幕にはガーラントが立っていた。装備は変わらずだ。


 逆に流はいつものブロードソード以外は、何も装備していない。

 プレートメイルがあっても、ガーラントの破壊力の前では無意味だ。喰らえば死ぬ。


 バチバチ! といつものフラッシュ。


 この距離からでも感じるガーラントの刺さるような迫力に、流の恐怖心はぶり返していた。

 だが、不思議と震えはない。頭は冴え、時の流れがスローになる錯覚に陥る。


 いつの間にか、流は剣を構えていた。

 何も聞こえない。今なら、空気の僅かな変化でさえも、捉えることができる。


 ――ピィッ!


 流は動かなかった。ガーラントの周りの空気を警戒する。

 彼がカウンターを狙っているのは、この二試合で充分にわかった。ならば、近づく理由などない。


 一秒。


 ガーラントに動きはない。軽く腰を折り、楯を構えた状態を保っている。


 二秒。


 おそらく、彼はウィルクの≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫を警戒している。

 下手にウィルクに近づけば、強力なカウンターを喰らい、自分が不利であると考えている。


 三、四。


 だが、それでも油断はできない。流は迎撃の体勢を崩さない。


 いつの間にか、ガーラント周辺の空気が視える。


 五、六。


 僅かにガーラントに焦りが生じたのを視ると、流は剣を握る手に力を込めた。


 七。


 おそらく、向こうにもこちらが視えているのだろう。

 流の警戒を知覚したのか、今にも爆ぜそうになっていたガーラントのオーラが沈黙する。


 八、――九。


 そして、


 ――ピィッ!


「そこまでだ」


 緊張が解けてくれない。流は構えを続けている。

 ガーラントは流と視線を合わせると、さっさと背を向けてしまっているのに。


「投票タイムに移る。今の試合、ガーラントが勝ったなら、竜の徽章を。ウィルク・アルバーニアが勝ったなら、剣の徽章を投票しろ」


 ロイドの言葉の最中に、ようやく流は剣を降ろした。

 背中にびっしょりと汗をかいていることに、遅れて気が付く。

 何事も起きなかったが、流は全く拍子抜けができない。

 周囲に気後れしたと思われていないかだけが心配だ。


 何にしろ、生きている。流は剣を鞘に収めた。


 投票箱の方を見ると、既に多くの生徒達が並んでいた。

 アルフィとレティシアの姿もみえる。


 あとは、結果を待つだけだ。流は投票の結果に思いを巡らせた。


 攻めてこなかったガーラント。

 流の思惑通りに行けば、彼にとって大きなミスだったかもしれない。


 そして、流の次の相手はレティシアだ。

 彼女の戦闘スタイルからして、次こそは打ち合いを回避することができないはずだ。


 列が消化され、やがて投票箱の周辺に人が居なくなった。


「投票結果を発表する」


 とロイドが宣言。

 スクリーンに流とガーラントの票数が映し出された。


「ガーラント、一四票獲得。ウィルク・アルバーニア、三四票獲得」


 ウィルク・アルバーニア:34

 レティシア=ミゼル・ルケーノ:26

 ガーラント:61

 アルフィ・アルバーニア:20


 その大差に、会場がどよめいた。

 しかし、この場で一番驚いているのは、おそらく流自身だろう。


 三四票という想像以上の戦果に、流は一瞬だけ呆けてしまった。





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