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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第一話 ハウネル王国騎士養成学校
39/182

39.投票の理由

 流はアルフィの横に戻った。


「どっちに入れたの?」


 そう彼女に小声で訊かれる。


「それは結果をみてから教える」


 投票箱の周囲に人が居なくなるまで、そう時間は掛からなかった。


「もう締め切っても構わんか?」


 そう尋ねるロイドに、抗議する者はいなかった。


「では、投票結果を発表する。ホワイトボードに注目しろ」


 ロイドが映写機を少し弄ると、スクリーンが切り替わる。

 スクリーンには、竜の印と剣の印が、横線で隔てられるようにして、縦並びで映し出されていた。


 そして、次の瞬間にそれぞれの印の横に数字が浮かび上がっていく。


 ――ビリビリッ。


 流の頭上に火花が大きく散った。


 竜:20

 剣:26


「ガーラント、二〇票獲得。ルケーノ、二六票獲得だ」


 再びスクリーンが切り替わり、


 ウィルクの名前の横に〇票、

 レティシアの横には二六票、

 ガーラントの横には二〇票、

 アルフィの横には〇票、と映し出される。


「各試合には十分のインターバルを挟む。十分後の第二試合まで、好きにしていろ」


 そうロイドが言うと、緊張していた空気が僅かに弛緩した。





「なあ。今のはやっぱ、レティシアが優勢だったのか?」


 流はアルフィに意見を求める。


「いや、そんなことないわ」


 アルフィは眉をひそめながら言う。


「確かにガーラントは防戦一方のようにもみえる。けど、逆にレティシアは攻め切れてなかった。ガーラントからしたら、あれぐらい攻撃されたうちに入らない」


「恐ろしいな……」


 流は苦笑を浮かべた。


「やっぱり、おかしいわコレ……。どうして最終選抜がこんな≪決戦(デュエル)≫なワケ?」


「いや。これはある意味じゃ、最後の試験にスゲー相応しい内容かもしれねえぜ」


 そう言った流を、アルフィは驚いたように見つめる。


「何かわかったの?」


「そうだな」


 流は呟くと、大きく手を挙げて声を張り上げた。


「おーい! レティシア、ガーラント!」


 二人が流を振り向いたのを確認し、流は伸ばした手の人差し指をくいくいと曲げて、二人を呼びつけた。


「行くぞ。少し話そうぜ」


「はあ……」


 流はアルフィを促し、こちらに近づく二人の方に歩を進めた。


「お疲れさん」


 と流はガーラントとレティシアを労う。


「どうだったよ?」


「まあ、想像通りと言えば、想像通りでしたね。やはり、私では十秒でガーラントを突破することなどできません」


 心なしか口惜しそうに話すレティシア。


「逆に俺は防戦一方だった。その結果があのザマだ」


 ガーラントはホワイトボードを見る。

 四十六票のうち、六票分も多くレティシアに持って行かれたのだ。顔には出していないが、彼も内心では相当悔しい思いをしているはずだ。


「二人は投票しなかったんですね」


「まあな」


 訊いたレティシアに、流は当然のように返事をした。


「当たり前でしょ。何で敵に塩を送るような……、ってアンタ投票したんじゃなかったの?」


「いや、列にゃ並んだんだけど、結局選べなくてな。俺はどっちにも入れたかったんだ。けど、一人一票だろ?」


 などと、流は適当にうそぶいた。話を展開させるためだ。

「仕方のないことです」


 レティシアは肩をすくめる。


「観戦者達はともかく、参加者にまで投票権を与える意味が理解できません」


 その言葉に、流は笑みを浮かべてみせた。


「ま、俺らには投票のメリットなんてないからな。じゃあ、観戦者はどうだよ?」


「『どうだよ?』って何がよ?」


 アルフィが真意を計りかねたように訊く。


「連中は『勝ったと思う方』に投票するルールだ。けど、俺やアルフィが観てた限りじゃ、ガーラントとレティシアは全くの互角。両方に入れられないなら、俺なら投票なんてしねえな」


「それは、まあ……、確かに?」


 渋々といった風に呟くアルフィ。


「だが、現に貴様らを除く全員が、投票を行った。それが、奴らがここに呼ばれた理由だからだ。無理矢理にでも理由をつけて判断したんだろう?」


「頭が堅えな」


 と流は自分のこめかみを人差し指で叩いた。


「その無理矢理な判断ってどうやんだ? それをわざわざ、俺達グレード5の仲間にやらせてる、ロイドさんの意図は?」


「――あ」


 レティシアが声を上げた。


「気付いたか? “勝ったと思う方”を選べないなら、“勝って欲しい方”に入れる」


 流を除く三人が、一様に目を見開いた。


「つまり連中は、より≪剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫に相応しいと思う方に投票したんだ」


「確かに、そう考えれば、辻褄が合います……」


 レティシアが顎に手をやり、口を開いた。


「十秒の制限時間は、むしろ決着をつけさせないための縛り……」


 そして、ガーラントとアルフィがそれに続いた。


「参加者の投票権は、自分が真に認めた好敵手に投票するためのもの」


「票を譲渡できるのは、自分の票を削ってでも合格してほしいヤツへの、救済措置ってこと?」


「こいつは、いかにして十秒以内に一本取るかの勝負じゃない」


 そう流は断言した。


「俺達が一緒に切磋琢磨した、仲間達からの人望を競う勝負だったんだよ」


 三人の視線を受け止め、流は続ける。


「この≪決戦(デュエル)≫、名前を付けるなら“人望投票”。ある意味じゃ、最後の試験に最も相応しい内容だ」



***



「グレード5に≪現身(うつしみ)≫を信任させる≪決戦(デュエル)≫?」


 ルアノはクレイスが放った言葉をオウムのように繰り返す。


「なるほど。そういうことなら、冗長なルールも説明がつくね」


 ハウトは頷いた。


「回りくどいんだよ。だったら、最初から一発の投票で脱落者を決めればいいだろ」


 ケチをつけたのはヴォルガだった。乱暴なことを言う彼に、相変わらず情緒の欠片もない大人だとルアノは思ってしまう。


「わざわざこのような形式をとったのは、ポイントが誰を落とすか(・・・・・・)ではなくて誰に投票するか(・・・・・・・)だからでしょう」


 投票結果を確認した後、この≪決戦(デュエル)≫の本質の予想を話したクレイスは続ける。


「誰がなるべきではないかを選ぶのと、どちらがより相応しいかを選ぶのでは、大きく意味が異なります」


 ――これはキビシイ内容だ。


 ルアノは想像する。


 ――ぶっちゃけた話、自分が相手と比べてどうなのか?


 それが数字になって表れるのだ。

 残酷だが、理には叶っている。同胞から信頼を得る力は、多くの職業で必要なものだからだ。≪剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫に欠かせるはずがない。


 彼らのことを一番みているのは、騎士団でも学生の教官達でもなく、ましてや王族や十二連盟の監督官であるわけもない。

 問答無用で、同じ学生達だ。


 そんな彼らを惹き付ける、強いカリスマがあるか。

 それが最後の最後になって試されているのだ。


「よく気付いたね、流石はクレイス」


 クレイスを賞賛するハウトである。


「私はてっきり、ガーラントが防戦一方だったから、差がついたのかと思ったよ」


「まあ、私が気付いたのも、ウィルク・アルバーニアの質問があったからですが……」


 眼鏡を指先で押し上げて、クレイスは謙遜してみせる。


「票の譲渡のヤツだよね?」


 そうルアノは確認した。


「ええ。普通、票を譲渡するルールに、あそこまで拘る必要はない。あるとするなら、第六試合終了後、投票総数の四分の一ギリギリまで自分の票を削り、救済したい誰かに譲渡するくらいでしょう」


 クレイスは一度区切り、再び喋り始めた。


「しかし、ウィルク・アルバーニアが言ったように、得てして受験者達はプライドが高く、フェアである傾向が強い。そんな彼らが票を施す相手は、よほど信頼を置いている者に限られます。そこから、その信頼こそが、この≪決戦(デュエル)≫で試されている本質なのだと思い至ったのです」


 ルアノもクレイスの頭の良さを心の中で賛辞する。

 同時に、はたと気が付いた。


「あら? もしかして、ウィルクってルール説明の時点で、そのことがわかってたの?」


 ルアノは会場のウィルクを見る。彼は他の参加者達を集めて固まり、何やら話をしているようだった。


「だと思います。票の譲渡のルールに関心を寄せていたのは、自分が譲渡する立場になるとわかっていたからです」


 クレイスは冷たい目で会場を見る。彼は微かに、ため息のようなものを漏らした。


「“人望を競い合う勝負”だと気が付いた彼は、同時に自分に票が集中するとも考えた。だからこそ、あの時点で譲渡のルールを確認したのでしょう」


「そりゃ、可愛げがないな」


 ヴォルガは苦笑いを浮かべた。


 ルアノはその緋色の瞳に、ウィルクの姿を焼き付ける。


 最初は顔付きの悪さから、彼にいい印象を抱かなかった。

 しかし、クレイスが彼を認める理由が、今になってわかるような気がした。





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