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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第一話 ハウネル王国騎士養成学校
18/182

18.≪振り直し≫

「抵抗係数については、だいたいわかった」


 一通りの説明を受け、流はとりあえず切り上げた。

 これで、最も気になっている疑問をぶつけることができる。


「で、どうやったら奇跡ってのは起こせるんだ?」


 そう。気になって気になって仕方ないのがこれだ。

 ウィルクも何かしらの強力な能力を持っているのだろう。それを、もしかすると、自分自身が使えるかもしれない。

 そう考えると、流の血は妙に騒いでしまう。


「アンタの能力の出し方なんて、私が知るわけないでしょ」


「は?」


 どこか冷めたように言うアルフィに、流は間抜けな声を上げてしまう。


「使えないの? ≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫」


「いや、そんな突き放すように言われてもよ。そもそも、≪ビルド・チェンジ≫? とかいうのが、どんなのか知らねえとやりようがねえだろ」


 アルフィは考え込むようにして沈黙した。が、ややあって口を開く。


「≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫は、私が思うに最強の能力よ」


「へえ」


 そんな前置きをされてしまったら、流の期待が高まる一方ではないか。


「アンタの生まれ持ったセンス、そして訓練して磨き上げたことの練度を、別の対象に置き換えるの」


「ワリィ……。何言ってんのかわかんねえ」


 説明が全く理解できず、頭の上にクエスチョンマークが三つほど浮き上がる。


「あー……。私も上手く説明してあげられないんだけど……」


 アルフィは困ったように眉をひそめる。


「例えば、アンタが剣術を磨きに磨いて、達人クラスになったとするでしょ? ≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫を使うと、アンタの努力をもっと別の……例えば魔弾だったり、身体能力だったり、極端に言うと料理だの水泳だのに向けたことにして、それの達人になることができるの」


 ――マジで何言ってんだコイツ。


 アルフィの説明に、流は愕然とする。

 それは、彼女の説明が本気で意味不明だからではない。流の解釈が正しければ、それはあまりにも滅茶苦茶な性能だからだ。


「今のが正しい説明だとすると、とんでもねえ能力ってことにならねえか?」


「そう。最強の能力よ」


「例えば、俺が一年かけてオムライス作りの修行したとする。そのオムライスの時間をなかったことにして、剣術に時間を費やしたことにする。――ってことでいいのか?」


「一つの技術に対して一〇〇パーセントの変換じゃなくてもいい。今の例だと、剣術に半年、奇手(つかいて)としての訓練に半年って振り分けることもできるわ。……何でオムライスなのよ」


「ぶっ壊れてんだろそれ! え? つまり、俺はアルフィみたいな魔弾使いにもなれるし、ガーラントみたいなガチガチの近接特化にもなれるわけかよ?」


「なれる」


「いつでも使えんのか?」


「少なくとも、私はアンタが戦闘中に使ったのを何回もみた」


 流はため息を吐いた。


 強すぎる。そういうことなら、主席卒業も充分すぎるほど可能なはずである。

 もっとも、やはり何かしらに打ち込んだ時間がそれなりに長くなければ成立しないような能力だ。努力家に宿ってこそ、真価を発揮するというわけだ。ウィルクの身体ならば、相当の経験点が積まれているだろう。


 まさかとは思うが、その≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫を使えば、自分のままでも最終選抜を合格できるのではないか、と当初の目的から外れたことを考えてしまう流である。


「で、どう? 使えそう?」


 アルフィが腕を組んで訊いてくる。


「……いや、わかんねえ」


 やはり駄目だった。

 説明を受けて能力を識ることで、何かしらの閃きがあるかと思ったが、特に変化はみられない。


 アルフィは唸り、考え込むように瞑目する。

 ややあって、彼女の瞼がゆっくりと開かれた。


「前から思ってたんだけど、アンタの≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫って、何か発動条件みたいのがあるんじゃない?」


「発動条件ねえ」


奇手(つかいて)は奇跡の起こし方が直感的にわかる。アンタにそれがないってことは、今は使えない状態だからじゃない?」


 ありそうな話だ。

 あまりに強力な異能には、相応の対価や条件があるのがお約束。そう流のサブカル的な知識が訴えた。

 流はまだ≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫を使うための条件を満たしていない。だから、≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫を使うことができないだけ。そう考えれば、筋は通る。


奇手(つかいて)がその能力を使うときに、儀式的なアクションをすることがあって、それをすっぽかすとコケるって話、講義で何回も聴いた。前々から、アンタの能力は強すぎるから、何か裏があるんじゃないかと思ってたのよ」


「やっぱ、そういうのがあんだな……」


 だが、もしそうなら手詰まりではないか。なにせ、条件がわからない。

 ウィルクの手記のようなものは、部屋には一切残っていなかった。加えて、アルフィすらその条件を知らされていないのなら、他に知っている人物などいないだろう。


 考え込む流に、アルフィは言った。


「普通はそういう条件も理解しているはずだけど、それもないならヴェノの制御の訓練を続けることね」


「――? そりゃ、そうするつもりだけどよ」


 アルフィの意図がわからず、首を傾げる流である。


「奇跡って、そういう訓練をしてるときに、パッと閃くことが多いのよ。その要領で、アンタの≪振り直し(ビルド・チェンジ)≫についても、何か思い出せる可能性、あるわ」


「マジか。そりゃ、欠かせねえな」


 意外な情報に、流は新たな希望を持った。

 もしかすると、その要領でウィルクの記憶が戻ることもあるかもしれない。


 座学に剣術の訓練。それに加えて、ヴェノの実用訓練。

 大分忙しくなってきたが、流は別のアプローチも考えていた。それは、そもそも流がウィルクの身体を乗っ取ってしまった原因を探ることだ。

 以前のウィルクは調子が悪そうだった、とタオイェンとデュナスが証言していた。そのことについて調べれば、何か手掛かりを掴むことができるかもしれない。


 流は一日につき半日弱の自由行動を、アルフィにねだった。


「いいと思う。訓練だって、一日にできる時間は限られてるし、座学だって私から教えられることは少ないもの」


 ≪剣竜(けんりゅう)現身(うつしみ)≫最終選抜試験まで、この日を含めて残り十三日。

 一秒一秒が脆い。サラサラと、流の手のひらから零れ落ちていく。まるで、細かい砂のように。





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