17.彼らの戦法
「まさかと思うが、全員が全員、今のができるってワケじゃねえよな?」
「できたとしても、私ほどのレベルでは無理だと思う。私は自分の適性を考慮した上で、今の能力をずっと訓練し続けてきたんだから」
「どんな奇跡を起こせるかは、個人個人で得手不得手があるってことか」
アルフィの言い方からして、才能で使える能力が決まったり、決めた能力を訓練して使えるレベルまで制度を上げたりするのだろう。
「最終選抜試験に残ったのは、奇手としても間違いなく一流の化物だけよ。それぞれが起こせる奇跡を、今から説明する。何か思い出せるかもしれないし、最終選抜の参考になるかもしれないでしょ?」
その通りだった。
流が目覚めてもう三日目。手掛かりは今のところ皆無だ。
ウィルクを戻すために、何か手を打たなければならないが、現状ではできることなどなかった。
ならば当然、このまま選抜試験を迎えることもあり得るのだ。そのときは、退学覚悟で記憶喪失をカミングアウトして、あえて失格になるという手もある。
だが、アルフィは流がこの状態のまま試験を受けることも、視野に入れているようである。そして、流はその方針を受け入れる必要があるかもしれない。
「一番気を付けないといけないのは、やっぱりガーラントね」
アルフィは言う。
「ガーラントは、敵の攻撃を楯で受けて大型の武器で反撃する、守備重視の戦法を得意としているわ」
「俺の胸当て、すぐにボロボロになだがよ。楯もこんなもんなのか?」
「それはアンタのプレートメイルが軽量級だからでしょ」
アルフィは顔を歪めた。
「ガーラントはヴェノの力が強いから、もっとゴツい大型の楯を片手で振り回せるのよ」
「手が付けられねえじゃねえか」
流が好きなゲームで言うところの、“ガン楯”戦法というやつだ。
存外にタチが悪い戦い方だ、と流は苦笑した。
もちろん、ゲーム性などを考慮する方が馬鹿げているが。
「それだけじゃない。アイツはヴェノの制御で超強固なシールドを展開できる。どんな攻撃も、ほとんど意味をなさないわ」
「じゃ、どうすんだよ? 近づいて足で翻弄しろってか?」
「アイツの武器の間合いでチョロチョロしてたら、一撃で終わりよ。避けきれない受けきれないで」
「ほぼ無敵じゃねえか」
流はガーラントに近づき、アルフィとの訓練と同じように、攻撃を受けてしまった。
その瞬間、ブロードソードもプレートメイルも粉々。五十メートルほど吹き飛んでアバラを全損、あるいは上半身が下半身と泣き別れ。
――という、おぞましい想像をした。
「レティシアも油断できないわよ。万能型で、どんな相手にも、どんな状況にも対応できる器量を持ってる。『強い!』ってイメージを抱かせないけど、こっちの弱点が突かれやすいし、向こうの出方も読みにくい」
パラメーター全体が高い水準に収まっている、とアルフィは評する。
流の勝手なレティシアのイメージだが、彼女は完璧主義で、確かにあまり隙をみせなさそうだと感じていた。
「さっき私が見せたような【魔弾】を使うし、自己治癒力向上の能力――【治癒術】も使える。それに、剣の腕前もかなりのものだしね」
アルフィは指を立てて言った。
「それ……、攻撃防御のパターンが多くて、事前対策の立てようがねえやつか?」
そんなアルフィに、流は恐る恐るといった風情で尋ねた。
「ないわ。レティシアとの戦いは、アイツより地力が勝っている前提での読み合いになる」
「やっぱ、勝てそうにねえな……」
流は長髪を掻き上げた。
やはり二人とも、≪現身≫候補として尋常ではない能力を持っている。
それが、ガーラントやレティシアがこの学校で積み上げてきた、誤魔化しようのない実力なのだ。
流はアルフィとの稽古を思い返し、何度か二人と戦うシミュレーションをしてみたが、どうひっくり返っても勝つことはできないだろう。
「ちなみに、アルフィは本気出したら、どうなっちまうんだよ?」
半眼でちらりとアルフィの顔を伺う流である。
「私? ……私はあまり剣術は強くないから、遠距離戦に持ち込むわ」
どこか照れくさそうなアルフィである。
だが――、
「炎、水、風、土、光、闇。陸属性の魔弾を、相手が潰れるまで撃ち続けるだけ……。それが私の闘い方だ!」
最後には、勇ましく人差し指をびしっと流に向けた。
「何か、オメーのが一番暴力的じゃね……?」
遠距離からの魔法攻撃。
近づけさえすれば何とかできそうに聞こえる。
しかし、先ほど実物を目の当たりにした流からしてみれば、あんなものが連続で放たれると考えると、逃げ回った挙げ句に息切れして死ぬ想像しか抱けない。
「てか、そんなことできんなら、全員その魔弾とかいうやつの訓練だけすりゃいいじゃねえか。やっぱ、アルフィが特別なのか?」
「ま、自慢じゃないけど、私ほど【抵抗係数】が低い奇手なんて、そういないでしょ」
豊かな胸を張って言うアルフィに対し、目のやり場に困る。
それにしても、抵抗係数とは?
実に学術的な響きだ、と流は思う。教科書にでも載っていそうだ。
アルフィの使い方からして、ヴェノに関するスタミナ消費量を指す用語だろうか。
「抵抗係数ってのは、人体がヴェノの毒性に対して持ってる、抵抗の強弱を表す数値よ」
流が訊かずとも、アルフィは説明してくれた。
「あー……。確か、俺はヴェノの過剰摂取でぶっ倒れたんだよな? もしかして、それと関係あんのか?」
「そう。アンタは自分の抵抗力に対して、大量にヴェノを取り込んだんだかしたのよ。そうすると、人はヴェノの毒性に負けて、最悪命を落とすこともあるわ。まあ普通は、そうならないように無意識にセーブされるんだけど」
空恐ろしい話だった。
ウィルクは自分の身体を顧みず、何か大技をぶっ放そうとでもしたのだろうか?
しかし、冷静にウィルクの人物像を振り返ると、とてもそんな無茶はしそうにない。
流は小首を傾げる。
果たして、本当にウルスの言うとおり、ヴェノの過剰摂取で倒れたのだろうか。
単純に神坐流との意識が、慣れないウィルクの身体に船酔いしただけなのでは?
「けど、お前さっき、自分を『抵抗係数が低い奇手だ』みたいに言ってなかったか? 何で抵抗が低いのに、魔弾を連発できんだよ?」
浮かんだ疑問を一時的に黙殺し、流は尋ねた。
「あー。逆よ、逆」
チッチッ、とアルフィは指を振った。
「体内でヴェノが活性化したときに生じる負荷が掛かる。抵抗が大きければ大きいほど、動かすための力も比例して大きいでしょ?」
リュウは自らが学んできた知識で、何とか説明できないものかと考えた。
「摩擦係数、みてーなもんか?」
そして、流は自分なりの解釈を述べる。
「物体を引きずって動かすためには、面した床の摩擦係数に比例した力が必要だ。その分、引きずるヤツには負担がかかるよな。それと同じで、ヴェノを活性化させようと思うと、奇手の抵抗係数に比例して負担がかかっちまう。そんな感じか?」
人体への悪影響イコール、ヴェノの使用量と抵抗係数の乗算。そんな計算式が、流の頭の中で成立する。
アルフィが感嘆したように目を見開いた。
「やけに飲み込みが早いわね……」
そうだとすると、アルフィは抵抗係数が低いが故に、無理なく魔弾を放つことができるということで、筋が通る。
――紛らわしいな、抵抗係数。
流は心中で毒づいた。
「結構、個人差あるもんなのか?」
「例えば、私は抵抗係数コンマ〇五だけど、この学校の抵抗係数の平均はコンマ二〇はあるわ」
「俺は?」
「素の状態だと、コンマ一四。ガーラントはコンマ一八、レティシアはコンマ一一。まあ、純粋に奇手としての能力だけを頼るなら、コンマ一五は切っていたいとこね」
具体的な数値を出されても、いまいち想像が付かない流である。
「ま、オメーがぶっちぎりで凄いのだけはわかったわ」
などと、適当に納得しておくことにした。




