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この異世界の救いよう  作者: 山葵たこぶつ
第一話 ハウネル王国騎士養成学校
14/182

14.四人の受験者

 流とアルフィは四人用の大きめな円卓に座った。


 アルフィが言うには、そこは雑談が許可されているエリアで、時期が時期ならばテスト対策で学生が集中するような人気スポットらしい。

 もっとも、年度末である現在、学生の数はとても少ない。


「≪現身(うつしみ)≫の最終選抜試験を受けるのは、四人だけよ」


 とアルフィ。


「私とアンタ。それから、ガーラントとレティシア」


「ガーラントって、昨日見舞いに来てくれた色黒のデカいのだよな?」

「あれを見舞いというのかは知らないけど、そう。あの男がガーラント」


 流は医務室での出来事を回想する。


 ガーラントはアルフィに遅れて医務室にやってきた、学生達の中の一人。浅黒い肌に、逆立った銀髪。おそらく、元の流の身体と同じほどはあるだろう長身。

 鋭い眼で流を見据えたかと思いきや、『大事にしろ』と告げた。

 それが強く流の印象に残っていた。


「俺の様子見るなり、さっさと行っちまったけど、どんな奴なんだ? 仲良いのか?」


「いや、別に良くはないわよ……。わかるでしょ……」


 アルフィは若干呆れたように答えた。


「昨日様子を見に来たのは、同じ最終選抜の生き残りだからよ」


「けどよ。別に、冷やかしに来たわけじゃなさそうだったぜ?」


 昨日のガーラントの態度は、今振り返ってみても厭味がなかったと流は思う。


「アイツはアンタ以上にクソ真面目だから。ライバル視してるアンタが調子悪い状態で、最終選抜に臨みたくなかったんでしょ」


 なるほどな。と心中でごちる。

 それならば、昨日ガーラントが去った後のデュナス達の茶化しとも符合する。

 何となく察しがついていた流であるが、アルフィの言で確信に変わった。


「ガーラントはいっつもあんな顔してるから、皆絡みづらくしてるけど、嫌ってはいない。逆にガーラントも特別つるんでる奴はいないけど、誰に対しても基本あんな感じね」


「俺はどんな風に接すればいい?」


「アンタのその態度は、すでにいつもと全然違うわよ」


「そうだった」


 アルフィの鋭い指摘に、思わず苦笑いする流である。


「……少なくとも、ガーラントはアンタの実力を絶対的に認めてるし、アンタもガーラントのことは人格を含めて敬意を持ってたと思うわ。くれぐれもナメた口はきかないで」


「両想いだな」


「その下らない軽口とムカつく薄ら笑いをやめろっつってんの!」


 反射的に流が冗談を飛ばすと、すかさずアルフィがつっこむ。

 その怒声が、僅かにいる学生達の視線を一気に集めた。


「あー……、とにかく……」


 気が付いたアルフィは身を縮こませ、声音を落とす。


「ガーラントのことは、ちょっとはわかった? ――ってなに笑ってんのよアンタァ……」


 いちいちアルフィの反応が可笑しくて、流はくつくつと笑ってしまう。

 しかし、アルフィのこめかみが、ぴくぴくと痙攣しだしたのを認めると、流は姿勢を正した。


「今までの説明は、完璧に覚えた。他に知っとくことはあるか?」


 アルフィは目を瞑り、一呼吸して気を落ち着かせたようだった。


「……ガーラントには名字がないわ」


「孤児なのか?」


「見た目でもうわかると思うけど、ガーラントはハウネル人じゃない。その辺のぶっちゃけ話、したことないから知らないけど、難民なんじゃないかと思う」


 アルフィの髪はピンク色で、ウルスやデュナスは金髪、ウィルクは黒、タオイェンは青など。

 流からしてみれば、外見だけ見れば、全員が同じ国の人間とは思えないのだが。タオイェンに至っては、一人だけ名前の毛色が違うではないか。


「もしかしたら、アンタにだけは身の上話をしたかもしれない。その辺、注意してね」


「わかった」


 積極的にガーラントと関わるつもりはないが、今後その必要が出たときに、不審がられてしまえばアウトだ。


 流からみたガーラントは、不器用な印象を受けた。

 厳格さと堅実さ。アルフィの話を加味した上で察するに、ガーラントは神経質で警戒心が人一番高い性格なのだろう。

 ウィルクは長い時間をかけて信頼を築いたはずである。

 おそらく、信頼の崩壊は一瞬。アルフィの忠告通り、不用意にふざけた態度をとらないほうがいい。医務室でのやり取りで、もう手遅れかもしれないが。


「もう一人は、レティシア=ミゼル・ルケーノ。最終選抜に残った四人の中で、唯一の血統書付き」


 アルフィは少し不機嫌そうに、指でトントンとテーブルを叩いた。

 そんなアルフィの態度を見ただけで、流はなんとなく察してしまう。


「わかった。仲良いんだろ?」


「ア?」


「落ち着け。冗談だ、冗談」


 今にも額に血管が浮き上がりそうになっているアルフィを、流はどうどうと宥めた。

 流は己の軽口によって度々起こしてしまうこの現象を、『口は災いの元』と呼んでいる。


「……ルケーノ家といえば、ある意味有名な貴族ね。アルバーニア孤児院も、ルケーノから支援を受けてるわ」


 怒りをこらえるようにしてアルフィは言った。


「大恩人じゃねーか」


「まあね。……その家の娘は選民主義こじらせたゲスお嬢様だったけど」


「何があったか知らねえけど、大人になれ」


 眉をつり上げるアルフィに対して、流は顔に縦線を作り、苦笑いした。


「ま、今のでわかった通りの女よ。関わらないこと」


「かなり親身になってくれてるオメーの印象ぶっ壊すほど説明が雑だなオイ」


 金髪縦ロールでオホホですわ語を操り、三人ほどの取り巻きを従えるマンキチ娘。

 そんな王道的な先入観が、流の中で定着しそうになっている。


「せめて、どう接すりゃいいかだけ教えてくれよ」


「アイツに限っちゃ、アンタそのままでいいッ……!」


「お、おう……」


 アルフィの豹変に、流はまた人間の闇を識った。


「で、どんな外見なんだよ? 会ったときにわからねえとヤバいだろ」


「プラチナブロンドの長髪。イヤミな雰囲気出してるから、一発でわかるわ」


 ――ホントかよ。


 そう心中でごちる。


 レティシアとやらの説明をしたがらないアルフィに、流は頭を抱えながら情報を整理した。


 ウィルクとアルフィは孤児であり、それに対してレティシアは孤児院経営に出資をしている有名貴族の出身だという。

 アルフィの態度からして、二人はレティシアから相当な屈辱を受けたのだろうか。


 その手の差別はありそうなものだ。実際、流も少年時代にそういった扱いを受けた経験が何度かある。


 丁度良いきっかけなので、流は抱えている疑問の一つをぶつけてみることにした。


「なあ。ここの学生ってのは、やっぱ貴族とか裕福な連中が多いのか?」


 問いかける流に、アルフィは複雑そうな目をして返す。


「そりゃあ、結構お金要るしね。金持ちは多いでしょ」


「居心地、悪くねーのか?」


 アルフィは半ば呆れたように笑った。


「ここで大事なのは家柄より結果。結果を出してる私達は、何も遠慮する必要なんてないわ。そりゃあ、流石に入学したての頃は成績なんてなかったから、周りの連中が陰湿で仕方なかったけどね。特にレティシア」


「どんだけ嫌いなんだよ」


「まあ、人の眼なんて、ここじゃ気にしてられる余裕ないし。居心地とか言ってらんないでしょ」


 彼女の言葉からは、一瞬の陰りが読み取れたが、結果が云々のくだりは本気で言っているようだ。

 確かに、タオイェンを筆頭として、昨日から流が目にした学生達からは、ウィルクに対する好意はあれど、蔑みなど一切なかった。


 特待や奨学金制度といい、少なくともこの学校の中では、結果が出せる者が強者なのだ。

 この学校において、成果主義は普遍的で絶対的なルール。そう解釈してよさそうだ。流は心に刻む。


「だから、お金があっても、成績が悪い方がよっぽど辛いわね……」


 哀愁のこもった瞳で、アルフィは語る。


「試験で結果が出せない以上、グレードは上がらない。馬鹿げた値段の学費でしがみついて、もう何年も足踏みし続けてるだけのヤツもいる。そいつらの方が、よっぽど惨めでしょ」


 ぞっとしない話だ。中途半端に王国騎士になることに執着し、学費だけ払い続けて上に進めない者もいるのだ。

 最短コースであるウィルクやアルフィは、近しい者からは認められている一方で、以下の者達から妬みを買っていてもおかしくない。


「一応、この学校にも年齢制限が定められているけど、どう考えたって緩すぎでしょ。金持ちを飼い殺しにして、学費を搾取してるとしか思えないわ」


 アルフィは気分悪そうに吐き捨てた。


「ここは、金を持ってるって理由で居ていい場所じゃないはずよ」


 そのアルフィの言葉が放たれたとき、


「訓練場に現れないかと思えば、こんなところで陰湿に毒を吐いているとは」


 微かな怒気が、流の鳥肌を立たせた。





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