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はたから見れば笑いとばせるのに、当事者はめんどうだ

「嘘だ! 愛していると、お前は言ったではないか!」


 んなこと誰が言うか、馬鹿元王子。

 愛のささやきを脳内補完し、それを現実と誤認してこのざま。だっさ。

 ってかめんどくせぇ。


「私が男性にそのようなことを言うなんて、考えられませんもの」

「なぜそう言える」


 あ、思い出しただけで、吐き気が。

 この状態で言えるか、って言いたいけど、理解してもらえないのも知っている。

 我ながら、精神状態と理性の乖離がすごいと思うよ。イヤ、まじで。

 第三者の視点から見ている感じで、我がことのように考えられなくて、でも恐怖体験は無意識化に根付いてて身体症状に現れる、そんなところか。

 ここまでひどいと、いったい私は誰なんだと思ったりしなくもないけど、どツボにはまりそうだから、これもスルーで。

 なんとかなる。なるようになる。


「しいていうなら、人間を信用してなくて、男性を嫌悪しているからでしょうか」

「意味が分からない」

「わからなくて結構。わかっていただきたいとも思いませんもの」


 同情なんかいらない。

 してほしいとも思わない。しいて言うなら、きっかけをくれ、それくいだ。

 最終的にどうこうするのは自分次第だからね。きっかけをくれとか、他力本願だ、と言われるかもしれないけど、向き合うのは恐ろしいのです、たぶん。きっとそれだから、最終的に放置してるのだと思う。


「ふざけるな」


 だからめんどくせぇ。

 理解できない人間に無理やり理解しろっては言わないし、してほしいとも思ってない。

 それのどこがふざけてんのか私には理解ができない。

 そこがわからない、という人と、その点について分かり合えることはないんだろうな、と思う。私自身、現時点において理解できるとは思えないし。


「……11年前。………消えた……、被害者……名前…ユイエ」


 ひくり、と頬がひきつった。

 なんで知ってんのかよ魔術師。一番ひきこもってそうなお前が、情報に通じてるって、以外。

 ネット環境とかないから、噂程度にしか入ってこないだろうに。まぁ、情報規制されてなければそうなんだけど。


「11年前?」

「……あの、世界規模で人身売買していた、巨大犯罪組織を弱体化させるに至った、あの事件のことか?」


 留学生は知らない様子。勉強不足なのか何なのか不明。

 私の場合は、詳しく知る気もなかったから、調べもしなかった。異世界だし、よくあることだろうと思っていた。

 いくつもの視線が集まるけど、私が体験した事件がそれかどうか、私にはわからない。


 …ってかそもそも消えた被害者の名前が同じって……いや、たぶん私か。まぁ、どっちかなんてどっちでもいいか。


「そんなことはどうでもいい。愛しているというのは、全部うそだったんだな…ユイエ」


 なんでもいいんだけど、これにどうでもいいと言われると、イラッとくる。そもそも、私はお前をスルーはしたが、親密になるようなことは何一つしてねぇ。

 どうやったら、こんな迷惑極まりない勘違い男が生まれるんですかね。


「……ない、…許さない…! お前のせいで」


 右手に魔法陣を展開しながら、突っ込んでくる、馬鹿元王子。

 えー、死なばもろとも的な? うぜー、めんどくせー。


 焦ったような声がいくつもするし、衛兵はさすがにまずいと感じたのか、距離的には間に合わないんだけど、止めようとあわてた顔で向かってくる。

 元王子の暴挙に、あっけにとられる残りの4人。ダメ騎士は、いい気味と言うように、嗤っていた。


 うん、少なくともこの二人は消そう。

 そう心に決めたとたん、唐突に目の前に現れた人影が、向かってきた元王子を殴り飛ばした。

 ぶぉん、と人の身で出すことがほぼ不可能な速さで振るわれた拳に、会場の扉を突き破って、元王子は転がる。


 あー、あれ骨やられたな。生きてるのか? 手加減はしてるっぽいけど、それでも死にそうなくらいやわだからねぇ、ほとんどの人間って。


「何者だ!?」


 突然どこからともなく表れた、長身の、黒いマントを頭からかぶった男に衛兵が警戒するのも無理はない。

 私としては、なんでここにいんだよ、というのが正直な本音。

 おかしーなー。へんだなー。ここにいるはずないんだけどなー。

 予定では帰ってくるまであと数日かかったはずなのに。

 こうなれば、三十六計逃げるに如かず。

 ごちゃごちゃ考える前に逃げろ。


「逃がすかよ」


 ……首根っこつかむとか、一応仮にも淑女に対して何してんの。

 身長的に、そこつかまれて目の前まで持ち上げられると、猫みたいに垂れ下がることになるんだよね、私。


「ユイエ!」


 リリア。君の魔法はすごいよ。学園じゃトップを飾る威力と精密さだよ。だけど、今ここで、それはだめ。

 魔法陣が一瞬にして霧散し、瞠目するリリア。訳が分からない、といった顔をしてるけど、それやったのこれじゃないんだ。でもって、私にもわからない。主に、これが何でここにいるのか、ということについて。

 予定より早すぎる。そしてタイミングが絶妙すぎる。そこまで考えると、行き着く結論は一つ。今回ばかりは謀られたのは私のようだ。


 しかたのない、と嘆息すると、自分の首を捕まえている腕に、無理な体勢ながらも手を置き、振り子のように体を揺らして、闖入者の体をタイミングよくけり、腕の力を利用して、逃れる。

 まぁ、本気で捕まえられてないからできたことではあるんだけど、邪魔してくれた礼に、一発お見舞いしといた。

 顔面蹴ってやろうかと思ったけど、感じ取ったのか顔をガードするように体が動いたので、仕方なく、姿勢を変えて脳天にかかと落としで許してやった。

 え、こっちのほうがえぐい? この程度じゃ死なないから大丈夫大丈夫。むしろ防ごうとした向こうの自業自得だい。


 無理な姿勢で攻撃しかけたから、着地は華麗にとはいかなかったが、一撃食らわせられたのでいい。どうだ、と言わんばかりに笑みを浮かべる。

 周りで息をのむ音がする。なににそんなに驚いているんですかね。


「っ……相変わらず、猫みたいな身のこなしようだな」

「衛兵さんたちがかわいそうだから、さっさと、この世から消えていただけません事?」

「お前が一緒なら構わない」

「人を巻き込まないでくださいませ。飛ばして差し上げてもよろしいのですけど、それをしてしまうと、わたくしが闖入者の逃亡に加担したとみなされる可能性もございますので、迅速にご逝去あそばせていただけませんこと? あぁ、それとも、私手ずから捕まえて差し上げましょうか?」

「お、いいなそれ」


 あぁ、めんどくさい。奴らとは違ったベクトルで、めんどくさい。

 どうして周りにはこう変態がおおいのか。私はただ生きたいように生きてるだけなんだけど。


「はぁ」

「ため息は似合わないよ、私の奥さん」

「はっ?」


 リリア、驚いてるところなんだけど、違うから。懲りない人だねぇ、これも。

 奴らへと変わらない態度をとってるはずなんだけど。まぁ、奴らより嫌悪感はないからとげとげしさが少ないのはあると思うが。

 なんで嫌悪感少ないんだろうね? 生物学上は同じなのに。


「私は、あなたと結婚した覚えはないわ」

「それなら安心してくれ。野放しにしておくよりはよほどいいと、連盟に参加している国が快く祝福してくれた」


 すっと目の前に差し出されたのは、婚姻届け。

 へーへー。準備がよろしいようで。花嫁の欄は空欄なので、偽造はしなかったらしい。いや、できなかったの間違いか。


「……脅してもぎ取ってきたの間違いでしょう」

「あくまで、向こうが祝福してくれたんだよ」

「--祝福するしか、できることはないのだよ、ユイエ嬢」


 おやまぁ。国王陛下自らお出ましとは、やりますね。

 ただの断罪の場がさらにカオスになりました。

 当事者じゃなければ、影に隠れて、けたけた笑えるのに。


 なんで、国どころか世界規模になってるんですかね。逃げられる前に、外堀を埋められてしまった感じでしょうか。無念。なにこの敗北感。

 混乱している周囲は置いといて、さくさくっと話をまとめましょう。絶対いや、という嫌悪感があるわけでもなし。まとわりつかれるのはめんどうだけど、かといって、断る理由があるかといえばない。ならそれでよし。私はさっさと、森へ帰りたいのです。


「仕方ないですね。じゃあ了承しますので、私はこれにて」

「まってっての。場を収めてけよ」

「私より適切な人間がここにいらっしゃいます。私には力不足ですわ」

「いや、さすがに一国の王に丸投げはどうかと思うぞ」


 え。こいつそんな考えもてたの?


「…よもや、カルロスの口からそのようなセリフを聞けるとは」

「………お前ら、俺をなんだと思ってるんだよ」


 あれま。じろりとにらまれたことからすると、読まれてたんかいね。べつに困るものでもないからいいけど、せっかくなので答えてあげましょう。


「ばか。あほ。脳筋。考えなし。いのしし」

「いのしし……?」

「獲物に向かって一直線」


 確かに、と王様がうなずく。

 そうだろう。そうだろう。獰猛なところは熊でもいいんだけど、獲物を借ることが楽しみで、見つけたとたんに危機として向かっていくあの姿はまさしくいのしし。

 あ、いのししに失礼か。


「なぁ、ユイエ。おまえ、今結構失礼なことを考えなかったか?」

「あなたに対して適切な評価を下しているだけのどこが、ですか?」

「…………」


 どことなくしょぼんとした雰囲気を漂わせても無駄です。

 基本的に冗談を言わないし、そもそも思いつくことができない性格なもので、口から出るのは事実。

 ……髪一筋分くらいは申し訳ないとか、かわいそうとか、そんなことこれっぽちも感じておりません、えぇ。


「お、恐れながら、国王陛下」


 ――あぁ、そういえばすっかり忘れてたわ、この状況。

 誰かさんがあまりにもアホなくせに裏をかいてきていじめ甲斐があることをいうからつい。


 じとっとにらんでも何も言いません。…ってか、ほんとエスパーなのこいつ。

 心読んでるんじゃないんだよね? 基本的に口に出すこと少ないから、思考回路が読まれてるとも考えにくいんだけど、可能性としては無きにしも非ず。

 なんにせよ、タイミングよくにらむとかやめれ。私の気分がそがれる。


 よし。そういうことだから、すきを見てさっさと逃げねば。あ、そのまえに、了承したものはちゃんとせねばならんな。


「そ、その黒いマントを被ったものは、学園の関係者…なのでしょうか?」


 あー、そういえば、関係者以外立ち入り禁止、てきなルールがあったような。うん。関係者じゃないね。じゃあ即刻排除に。


「待て待て待て待て、ユイエ! 関係者だからな!? 一応これでもテオに許可もらってるから!」

「……そのものの言うとおりだ」


 だれも仲裁に入れとは一言も言ってないがな。

 そんな王様の声が聞こえた気がして、心中お察しします、と頭を下げる。


「ひでぇ。ユイエが冷たいぜ、テオ~」

「……たまたま都合がついたのでな。今後未来を担うみなへの激励として私が呼んだ」


 という名目で、潜入させろと脅されたのですね。

 ほんとうに苦労が絶えない王様にはねぎらいの言葉しか出てこない。

 まぁ、苦労を掛けてるのは私も同じだし、そもそもの原因が私で、付属物としてそれがのっかってきた感じ…って、これにかんしては私じゃなくて、あれの自重がないのが悪い。


「すべては、次期国王にふさわしい器量かどうかを側近としてふさわしいかどうか見定めるための芝居。ユイエ嬢にはその手伝いをしてもらった。今回の結果に関して、反論は聞かぬ。己の所業を顧みよ」


 厳かに告げられた内容。

 後付けでしかないことを知っているのは、数える程度。

 リリアにはあとでちゃんと説明しないとなぁ。


 こうして、カオスを作り出した元凶どもは強制退室で、国王の指示のもと、パーティーがつつがなく再開された。




「ねぇ、二人とも俺のあつかいひどいよ!」


 きこえないきこえない。



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