さぁ、楽しい楽しい断罪の時間です
「リリアンヌ=ルーディス! 本日をもって、お前との婚約を破棄し、ユイエ=ダージナルと新たに婚約を結ぶことをここに宣言する!」
「お断りいたします」
速攻で拒絶したが、鳥頭はなんのその。
「謙虚だね。でも、もう遠慮はいらないよ。父上にも、すでに許可はえているから」
リリアとあんたの婚約破棄の件だけね。
にしても、卒業式当日のおバカ発言。知らなきゃ笑えねー。
誰の卒業って、私のじゃないですよ。
二つ上の先輩――つまり、やつらはともかく、リリアンヌ様の卒業式の日。
式がおわって、パーティー真っただ中での出来事です。
馬鹿か、と頭ぶん殴りたい。誘導したの私だけど。ほんとにやる馬鹿いるんだな。
てめえだけの卒業式じゃねぇんだよ。他のクラスメイト顧みろ。
顔しかめてるやつとかいるぞ。にやにやしてるやつもいるけど。
協力関係を築いてから早三年。私は16歳になった。
本当は13歳の冬に行われるそうだったが、どうにかこうにか、私がそそのかして今まで保たせたのである。
すべては、後顧の憂いは徹底的に絶つつもりで潰した後にある、私の安寧のために。
やつらをそそのかしたり、裏で手を回したりと大変だった。
私に媚びへつらうやつらの実家に、完膚なきまで叩きのめすので被害受けたくなければ自己防衛よろしくと伝え。
国王陛下に、あんなのが次代の器とかありえない。国を滅ぼす気ですか。そうなる前に潰していいですよね。身から出た錆ですもの。期限は殿下の卒業式。それまでに態度に変わりがなければ、容赦しません。その間に再教育するとかしたければご自由にどうぞ。ただし、私は潰す方向で動きますのであしからず、と真っ向から喧嘩売ってみたり。
卒業パーティーを台無しにするので、その補償として、実費で謝礼を用意している。リリアも手伝うといったが、そもそもの原因は私なので、そこは頑として譲らなかった。
それに、それだけの力があると見せつけることにもなるし、ね。
この三年で、私は冒険者ランクをSまであげた。
2人目のS級かつまだ16歳ってことで、体で買ったんじゃねとか、いろいろ言われたがそんなことはどうでもいい。
Sランクであれば、いろいろ融通効くし、王族へ謁見するための仮身分としても使えるし。
よく頑張った、私。ここからが正念場。
より超えれば、輝かしい自堕落放浪生活が待っている…!
心の中でぐっと握り締め、第二王子とその婚約者の間で繰り広げられている応酬に意識を向けた。
「エドモンド様。なんの証拠があって、わたくしがユイエ男爵令嬢に卑劣極まりない嫌がらせをしたと申し上げるのですか。そのようなことをおっしゃるからには、きちんとした物的証拠がございますわよね?」
「当たり前だ。ヒューナ。例のものをここに」
奴らが自信満々な理由。それは、魔導記録水晶があるから。
…奴らを嵌めたものとしての感想は、滑稽で仕方がない。
可哀想な奴ら。物的証拠を、と他の物を納得させるだけの証拠を見つける必要があると私は言った。
――だからと言って、嵌めるためとはいえ、いじめてしまえばいじめをしたという事実を否定できなくなるので、見方によってはリリアがいじめているように見えるように、わざと撮影させただけ。
ほんと馬鹿。設置した丁度その場所で、ちょうどいいアングルで、撮影できるなんて、奴らから場所を聞きだした私がそう仕向けたからできたもの。リリアと情報を共有して、シミュレーションしてから、実際にそこでやったのよ。いじめてるようには見えない、そんなわけがない。
だって、これでリリアのご家族もだませたくらいだし。
まぁ、公爵様には一目見て、作り物だろう、と言われましたけど。素晴らしい観察眼です。合成では、という意味で公爵様はおっしゃったようですが、意味はこの際スルーで。意図して作ったことには変わりはない。
他にもいろいろ頑張ったのよ。丁度人が通るタイミングを狙って、常識・マナーとしての注意をリリアにしてもらったり、わざとやつらとリリアを鉢合わせさせる回数増やして、リリアのさりげない発言から情報操作したり。淑女教育というなの作戦会議をするために、はたから見ればリリアに連行される私に対してやつらは勝手にいじめられてるって認識して、いろいろ馬鹿なことをいうから、本当に扱いやすい。
傀儡として使うにはもってこいの器だね。自分で判断したと勘違いしてくれるんだもの。
それを狙っていた派閥もあるみたいだけど、知ったことじゃない。
多少は配慮するけど、基本的に政権に関するごたごたは王族に。いっぱしの男爵令嬢がどうこうできる代物ではございません。その腹黒さがあれば、と言われたこともあったけど、私は私のためにしか動かないから、縛り付けたところで無駄なんだけどね。
「ほかにも、ユイエがお前に連れていかれた後、しばらくして帰ってきたらやつれていたり、泥だらけになったりしていたという報告がある。いつものようにいさめたり、あるいは暴力を奮ったのだろう?」
「それは誤解ですわ」
「それでもまだ、していないと白を切るか」
いや、リリアはしらばっくれておりません。
やつれてたのは、名目上淑女教育として連れていかれていたので、嘘ではないよと言うために、ちょっとしたことを細々直され疲れていただけ。
泥だらけになってたのは……うん。たまたま運悪く、公爵令嬢と間違えられてさらわれて、叩きのめした時に、ぬかるんでた土が飛び散っただけで、リリアは何も悪くない。
勘違いって素晴らしい。ものの見事に自分の首絞めてくれるんだもの。事実確認足りない。私はべつに隠してないから、ちょっと耳を傾けて、本人に聞けばいいのにねー。
思い込みは身の破滅を導くよ。とくに、今回のようなことでは。なーんてね。
緩みそうになる頬を引き締め、じっとリリアを見つめた。
まっすぐに殿下を見据える瞳に、恋慕や嫉妬はなく、あるのは呆れと責任だけ。
第二王子は次期国王として、もてはやされているけど、それは違う。第一王子も第二王子も、どちらも妾の子ども。正妃との間に子どもはいない。家の格を重んじるから、次期国王は母親の実家の地位が高い第二王子に決まった。ただそれだけだ。
第一王子はの母親の実家は男爵。第二王子の母親の実家は伯爵。一応、第三王子がいるが、どうもその第三王子は第二王子と比較すると、母の実家の地位はよくとも、本人の能力が劣っていて、臣下に下ると宣言していることから、候補には上がらない。そういう背景を鑑みると、第二王子が次期国王として扱われるのは、しきたり故の自然な成り行きと言える。
「罪を認めるのならば、ユイエたっての願いで情状酌量も考えていたが、白を切るのならば仕方がない」
第三者的視点を持ち、どこか不合理な点がないかしっかりと見極めてから、物事を判断してくださいませ。思い込みによる冤罪は被害者に謝っても謝り切れるものではありません。
と進言しただけなんだけど。私なりに、かけたくなかったけど、最後の救いの手を差し伸べたんだけどね。振り払ったのはこの馬鹿です。あとしーらねっと。
私は私のためにやつらを潰すだけ。
「傷害は許されるものではない。衛兵、この者を捕らえ、牢へ連れていけ!」
チェックメイト。
本当に、愚かすぎて、想像と違わなくて、思わず高い笑いがこぼれてしまった。
傍観しているのは、もう終わり。
「お待ちください」
最初に口を開いてから、今まで沈黙を通していた私が声をあげたからだろう。
どうした、というように振り返ったやつらなど知ったものか。
やるべきことは、聞いていた話と違う、と内心荒ぶっているであろう同士の解放だ。
彼女には申し訳なかったが、まさかダメもとで頼んでいたことが通ると思わなくて、それも今日受け取ったから伝える時間がなかったのだ。ねちねちと精神的に追い詰めるのも考えたけど、さくっと終わらせたかったんだ、私は。後悔はしてないが、ごめんよ。
一応胸の中で謝罪をいれつつ、懐から一通の書状を取り出し、高らかに読み上げる。
「リリアンヌ=ルーディス公爵令嬢は無実であるため、捕縛の必要はなし。いわれのない罪で公爵家を貶め、また、次期王太子として王族として目に余る数々の言動から、本日をもって、エドモンド=ディ=カルディオスの廃嫡を宣言する」
「な……!?」
「また、今回の一件に加担したクライス=ウィレム、ヒューナ=セリオンの2名は各爵位の当主の判断に一任。ヴェイド=ジョンダートは教壇に立つものとして不適切であるため学園を解雇とする。ジーク=ヴァングはこの度の留学を取り消しとし、単位修得も取り消しとする。 ――第27代カルディオス国王 テオドラ=ジ=カルディオス」
ぽかん、と間抜けな顔がそこらかしこに浮かぶ。
ただ、衛兵だけが、リリアに謝罪して非礼を詫びる。仕事熱心で何より。――あんた何者っていう視線は、皆から見ればまったくもってその通り。
だからといって、割いてる時間はないんだけど。
「……え、ちょ、ちょっとまって! なぜ国王陛下からの書状をあなたが持っているの!?」
真っ先に我に返ったのはリリアだった。聞きたいというのはわかるが、協力者である彼女には、愚問だ、の一言しかない。
一緒に喜々として、根回ししたじゃないか。その結果なのになぜと言われても。
「どうやって陛下からその書状をもぎ取ったの!? そもそも本物なの?」
その言葉に、ようやくやつらも我に返る。
顔を蒼くしつつ、私の手から書状を奪い取った元王子は、サインと捺印を確認して、床に座り込んだ。
「うそ、だろ……?」
その様子が、その書状が本物であると如実に表している。
ただ、周りがざわめき始めるのはちょっとばかしうざい。見世物にしてるから仕方ないんだけど。
「ユイエ! これはどういうことだ!」
失礼な。身から出た錆だろう。私は、お前たちを受け入れた覚えはない。
さんざん、近づくな、やめてくれ、といっても聞かなかったのはやつら。
どうなろうが知ったことじゃない。
「どう、と申されましても、こういうことですわ」
「謀ったのか!」
ダメ騎士に力任せに腕をつかまれ、ぞわっと駆け上った嫌悪感に、無意識のうちに体が動く。
どすん、と音を立てて床に転がるダメ騎士に、自分がしたことを後から認識して、正当防衛だと一人納得する。
「失礼ですわね。――私はあなた方に何度も申し上げましたわ。私に近づかないでいただきたい、と。婚約者がおられるのであれば、周りからどう見られるのかどうか顧みてほしいと。その忠告を無下にしたのはあなた方です。責任転嫁しないでいただきたい」