表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3話 アイドルライブ

「椎名町さん、進捗は悪くないんだけど最近帰るの早くない?」

「ええ、まあ、順調ですから」

「そうだね、でもそれなら残業してもっと余裕にしてもいいんじゃない?」



 古臭い『残業時間が努力、正義』の論理にこってり染まる課長に呼び出されて残業時間について問い詰められる私、椎名町しいなまちリアはどこにでもいる社会人。

 まだまだ、ほんと27歳。女性、独身、彼氏無し。


 こんなクソみたいなやりとりをしなければならないのも、寿退社できてないのが全ての原因である。



「なんだっけ、魔法少女?あれ、椎名町さんまだ続いてるの?」



 はい、続いてます。

 すいませんほんと。


「よくわからないんだけど、そろそろ潮時なんじゃない? 年齢、考えて仕事とか色々ね、気を付けてね」



 12年のキャリアを重ね、今も継続蓄積中の魔法少女業は、仕事の役に立つかと言えばなんの役に立つこともなく、むしろこのように嫌味の種でしかなかった。


 これで結婚の一つもできないんだから私ほんとに何のために魔法少女やってるのかしら?



 ■■■■■■■



 現代の渋谷は突発的、かつ頻繁に黒魔術師ダークウィザードによる怪物の発生とその襲撃とハチ公が倒れる事を繰り返しているけれど、魔法少女達の活躍によって概ね人的被害は無く解決している。


 そんな事を随分とまあ長い事繰り返しているので、魔法少女以外の人々もこなれてしまい「突発発生のアイドルライブ」じみた認識で状況を受け入れつつあった。

 今や、必死なのは魔法少女達と、その支援マスコットの定番らしいポジションにいる小動物くらいである。



「L・O・V・E!ナ・ナ・カ!!」

「イェーーーーー!」



 黄色い声援にぽやっとした顔で応える若手の魔法少女三人娘の一人、頭脳派っぽいナナカちゃん。

 ロリ気味ポジションである彼女のファンはいわゆる萌えを重視する層であり、その声援も相当に賑やかなものである。

 ナナカ当人も分かって受け入れている節もあり、戦闘に振り付けを導入する等他の娘と比べて余裕を感じさせて、なんともたくましい。


 しかし私はやっぱりアイナ推し。

 あの子は今日もかわいいね!



 魔法少女三人娘はリン=炎、アイナ=氷、ナナカ=雷の三元素の魔法使いで凄く分かりやすく、かつ華やかにプロデュースされている。

 おかげでファンも多くついて彼女たちのバトルはちょっとした路上ライブだ。

 親衛隊のヲタ芸がたまらなく目にうるさい。



 私?

 私は鈍器。

 問題ある?



 三人娘は今日はちょっとレベル高めのレベル100、巨人タイプを相手にしていた。


「【雷神ボルテージ】」


 ナナカちゃんの鞭型の魔道具ロッドから放たれた電撃が巨人の動きを封じ込める。

 パチパチバリバリと目に賑やかいこと痛そうな事。

 これにはファンたちのボルテージもマックス。

 ヲタ芸の動きが心配になるくらい早い。



「リア!またぼーっとして!」

「いいじゃん、私だってアイドルに憧れらい」


 いいじゃないの、せめて憧れるくらい。

 アラサー女にだってそんな年頃の頃があったんだから。


「リアにもファンがいるじゃない!大事にしなよ!」


 私のファン。

 私は、私の周りに集うギャラリーを見る。


 派手さも人数もそれ程なく、全員見知った顔だ。

 誰がどういう来歴の人かわかる程度にはもう長い。

 私のデビューから追っかけてくれてる顔とかその辺だ。

 皆、しっとりと落ち着いて私を見つめている。


 子供を連れて来てる家族もいるが、彼らは私のバトルをきっかけに出会った夫婦らしい。

 どうぞ、お幸せに。

 私はそこにつくのはもうしばらくかかりそうです。



 私の相手の怪物が正面の空間に『発生』する。

 どこからかわからないが、黒魔術師ダークウィザードトオルちゃんが転送してきているらしい。


「レベル1325 ガーゴイルオーバーロードだ!」


 小動物が対戦相手を解説してくれる。

 相変わらずでかい。

 トオルちゃん、でかけりゃいいってもんじゃないよ?


 ギャラリー達はそれに対してはい、拍手。

 お行儀よく座って見ている。



 そう、この落ち着き方。

 これはあれだよ、あれ。



 ライブってよりブームが過ぎた往年のアイドル歌手がやってるディナーショウだよ。



 往年のファンの集い、同窓会。

 美味しいお食事と思い出をお楽しみください。



 ガーゴイルが思い出に浸る暇もなく距離を詰め、その巨大なツメで私を貫かんと腕を振る。


 私は、即座に鈍器ロッドを振り上げ肩の付け根ごと吹っ飛ばす。


 そのまま振り上げた勢いで飛び上がり、落ちる勢いで脳天にズドン。

 ガーゴイルの頭はソフトクリームみたいに潰れてはい、おしまい。



 ギャラリー達のしっとりとした拍手が私を祝福してくれる。



「応えて上げなよ」


 黙れ小動物。

 それでも私は無言で手を振る。

 ファンに罪はない。



 更なる拍手が私に送られる。

 その内、いつまでも続くかのような拍手のリズムが一定になり、パンッパンッパンッパンッと軽やかなリズムを刻み続ける。



 ああ、これ、あれか。

 クラシックコンサートとかの後にあるあれ。



「アンコール!アンコール!」



 もうねえよ!!


 本当に何のために魔法少女してるんだろう?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ