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1話 魔法少女の憂鬱

 私、椎名町しいなまちリアはどこにでもいる社会人。

 まだ27歳女性。 独身、彼氏無し。


 最近33歳独身のお局様が妙に優しいがそれが私に同類な親近感を抱き始めている結果とは思いたくない。

 そんなお年頃。


 そんな私は、今地上15階にある自社のお手洗いのガラス窓から渋谷の街を見下ろしている。


 何やら巨大な竜に似た、それで居て無機質な化物に蹂躙されている、渋谷の街を。


 竜の大きさは大体、駅前のバスオブジェを二周りほど大きくした感じか。

 今日もハチ公が倒されていてかわいそう。



「リア、早く早く!」



 そして私の顔の横あたりで宙に浮かぶ、非常識な小さ過ぎる羊のような小動物に急かされる。


「あれくらい、私じゃなくてもいけるんじゃない?」

「あいつレベル324だよ!だめだよ、りあじゃないと!」


 なんだよもうそのレベル設定。

 いい加減若い子たちに合わせてやれ、レベルキャップつけろ。


 私は、諦めと共に12年唱え続けた言葉を放ち、光に包まれる。



 ■■■■■■■



「【幻夢氷千刃ファントムブリザード】!」



 若くかわいらしい声に応じるように虚空に突如浮かぶ氷の塊。

 それが声の主の手振りに従い無数に砕け散り千の刃となり、巨大な竜に向かって渦巻き直進する!

 竜の全身を包み込んでその表面を斬り刻んでいく。


「でた! 『氷のアーティスト』魔法少女アイナの必殺技だー!」

「サイコー! かわいいー!!」

「綺麗ね……」

「君の方が、綺麗さ」

「やだ……」

「結婚しよう」

「そんな……」



 氷の刃に挽肉にされていっているのであろう竜を尻目に、ギャラリー達の黄色い声援と人間模様が繰り広げられていた。


 ていうか、なんだよお前、そこのそう、お前。

 こんなとこでプロポーズって何よそれ。

 目の前で命のやりとりしてんのよ?

 なんだようらやましい。


 魔法少女アイナちゃんは魔法が完全に決まった事を確信した模様。

 ギャラリーに魔法具ロッドを掲げ見せ笑顔で勝利を宣言。


 女の子らしい造形の杖型のそれが華やかにきらめいて祝福しているよう。

 ギャラリーも歓声でそれに応える。


 うん、かわいい。


 リボンでいっぱいに飾り付けられてもすっぴんで負けないくらいキュートなお顔と肌のはり。

 フリフリのフリルたっぷり、でも短い魔法衣装のスカートから覗く生のふとももが健康的すぎてまぶしい。


 やっぱり高校生は違うわ。

 尊い、ああ、尊い。

 自分もそうであったのが今となっては信じられない。


「リア!!」


 小動物が切羽詰まった声をあげる。



 アイナちゃんの魔法がその瞬間、霧散。

 ダイヤモンドダストに変わる。


 その場に残っていたのは皮が多少傷ついた程度の元気いっぱいな竜。

 痒かった、とばかりにぶるると身じろぎ。

 なんとも、効き目の一つもなかった模様。


 直ちに体制を整え再び魔法を詠唱するアイナちゃん。


 しかし竜はその瞬間、高く高く空に向けて飛び上がり、宙に舞う!

 そして空からアツアツのギャラリー共々焼き払うつもりだろう、その口に炎のような塊を充填し始めていた。。



「リア!いつまで呑気に覗いてるの!?」


 小動物が本当にうるさい。


「はあ……」



 地上15階の窓を叩き割り、私は空に向けて躍り出る。

 ごめんなさい、弁償は小動物に請求してね。



 空を泳いで私が辿り着いたのは、今しがた飛び上がった無機質な竜のその背中。


 ドシン!としっかり両足で着地。

 竜の背骨がボキッと折れる音がした。

 ごめんね、乱暴だったかしら。



 今、私の姿は社会人6年目の女子ではない。

 下にいる魔法少女アイナちゃんと同じくフリフリで、リボンリボンな魔法衣装……の上に通勤に使っているコートを着用。

 変身してそのままだと生足なのがもう罪悪感に耐えきれなくて後から自前で用意したタイツを履いている。


挿絵(By みてみん)


 ごめんなさい、ほんとにごめんなさいね。

 27歳、今年で28になるのがこんな格好、アイドルだってきついでしょうに。


「ねえ小動物」

「何年でも言い続けるよ!名前で呼んでよリオンだよ!」


 黙れ小動物。

 魔法衣装をタイツ標準にしてから個体性を主張しろ。


「私もかわいく必殺技、叫んでいい?」

「うん、まあ、どうぞ」


 そうだなあどうしよ。

 言ったはいいものの照れくさくもあり面倒でもあり


「【魔法鈍器マジカルどんき】」


 私は妥協した。



 言葉に呼応し、私の手の中に具現化する私の魔道具ロッド


 当初は乙女なデザインの手持ちステッキだったそれは、成長に成長を重ねるにつれ巨大化し凶悪化し、今となっては無数の刃がこびりつくロッドというよりメイスであった。



 雑に鈍器を振り降ろす私。

 竜の頭は豆腐のように爆ぜて崩壊。


 念の為もう一回。

 首から胸までが砕けた豆腐に変わる。


 うん、おしまい。



 力を失い落ちていく竜。


 その背に乗ったまま一緒に落ちていくに任せている私。

 さっきどさくさでプロポーズしてた糞ギャラリーも見えてきた。



「……結婚したい」



 誰にというわけでもなく、ただひとりごちる。

 誰にも私のつぶやきは届くことはない。


「相手は?」


 不愉快な小動物が拾うのみであった。



 私、椎名町しいなまちリアはどこにでもいる社会人。

 しかし、その正体は魔法少女歴12年目の大ベテラン。

 少女を名乗るのがはばかられるお年頃。



 もう辞めさせてくれ、頼む。


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