価値より手間より確かなもの
ディルトさんの家で、二人と暮らし始めて数日がたった。
私には書庫の整理だけでなく、新たに夕食当番という役割ができた。役ができるというのは、少なからずここにいてもいいのだと思うことができて、なんだか認められたような気持ちになる。
ディルトさんには感謝だ。
「子うさぎちゃん。いいものがある、こちらに来てみてくれないか」
口調はいつも通り落ち着いているのに、その中にいたずらを仕掛けた子供のような楽しげな響きが混じっていた。
何があるんだろう。おどろかされるのも悪くない。
そう思えるほどに、私はここに馴染んでいた。
「はい」
ディルトさんが指定したのは、私が最初に案内されたあの客間だった。
そこには、同じくディルトさんに呼ばれたらしいルークもいた。こちらもいつもより少しだけだけど、何か待つような表情。
これまでの付き合いで、そんなこともわかるようになってきていた。
「見せたかったのはこれだ」
「……?」
そう言ったディルトさんの手の中を、私とルークは自然と近づいて覗いた。そこにあったのは、小さめの懐中時計。金の鎖が繋がって、ネックレスのようになっている。
と、その針が五時を指した。
ポン!
「ひゃっ?」
私はおどろき、ルークは感心したように。それぞれのリアクションでそれを見た。
おもしろそうにそんな私たちを眺めるディルトさんの手の上で、時計はまだポンポンと何かが破裂しているかのような音をたてている。
いや、音の出所は時計じゃない。その上で弾けている花火だった。
夕闇の中、色鮮やかだが小さい花火が咲いている。だからディルトさんはこの時間に私たち二人を呼び出したのだろう。この暗さでなくては、これほど小さな花火は見えない。
「綺麗……」
「気に入ってもらえたようだな。これは依乃理にやろう」
差し出された時計を受け取る。私の手に落ちて、鎖がシャラと鳴る。両手に収まるほどの機械は、そこでかちこちと時を刻んでいた。
「昨日これをみつけてな。うちのかわいい子うさぎに似合うだろうと買ったんだ」
「でも、こういうのって高いんじゃ……」
元の世界との基準だが、店で見かける時計というものはどれも数千円はした気がする。
ディルトさんは大人とはいえ、ただ一緒に暮らしているだけの居候にプレゼントするには、少々高い買い物だったのではないだろうか。
しかもこれには、花火なんて魔法のような仕掛けもある。きっと相応の値段はしただろう。
「細工のことか? それならば心配はないぞ、仕掛けをしたのは僕だからな。上出来だろう?」
私は一瞬耳を疑った。時計自体は、明らかに普通のものだ。それの形をかえることなく、後から付け足しでこんな仕掛けができるなんて、ディルトさんはすごい。
「先生はこういう細工が得意なんだ。魔法の細工だけど、誰にでも出来ることじゃないよ」
ルークはどこか誇らしげにそう言った。意外なところもある。だって、ルークは人を普段からほめるようなタイプじゃないからだ。ディルトさんのことは、かなり尊敬しているのだろう。
「私なんかがもらっちゃっても、いいんですか?」
「私なんかと言ってはいけない。それに、依乃理のために買ってきたんだ。遠慮などしなくていい。さあ、着けてみてくれ」
言われるまま、私は懐中時計を首にかける。
「よく似合っているぞ」
「……悪くないんじゃない」
「ありがとうございます」
胸元で小さな時計が揺れる。
後で見た時計の裏には『これから同じ時を刻む君へ』とメッセージが彫られていた。




