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気遣いと誰かの跡と

 カーテンを閉め忘れた窓から、眩しい朝日が差し込む。その光にぼんやり目を覚ますと、ドアがさっきからコンコンと音をたてているのに気づいた。誰かがノックしている。


「はぁい」


 起きたてと聞いただけでわかる寝ぼけた声で答え、私はドアを開けた。


 ドアの向こうに立っていたのは、ディルトさんだった。


「おはよう、子うさぎちゃん」

「おはようございます……」


 呼び名が『うさぎちゃん』に定着している。小学生くらいの小さな子ならまだしも、私はもう高校生。さすがに恥ずかしいので、後で変えてくれるよう頼んでみよう。

 変わるかどうかはわからないが……。


「朝早くからすまないな。着替えのことを、言っていなかったと思い出してな」


 そうだ。私は昨夜着替える前に寝てしまったため、昨日と同じ学校の制服のままなのだった。当然、着替えの服など持ってきているずがない。

 ディルトさんは、そんな私を気遣ってくれたらしい。


「服はその部屋のタンスから、好きに選んでくれ」

「ありがとうございます」

「いや、気にするな。それより、もうしばらくすれば朝食ができるからな」


 言われてみれば、ディルトさんはエプロンをしていた。朝食を作っている途中なのに、わざわざ教えに来てくれたようだ。


 立ち去るディルトさんの後ろ姿、エプロンのリボンがきれいに結ばれていた。意外と器用な人なのかもしれない。


「タンスの中……っと」


 開けると、様々な服が揃っていた。男女問わず誰が着ても無難なものから、着る人を選ぶような、色や型がとても個性的でどう着るかも見当がつかないような服まで。

 これまで、一体何人の人がここでお世話になったのか。中身からもわかるようなタンスだった。服の種類だけでなく、自分では買わずに、ここの服で済ませたような人もいるだろうから、きっとかなりの人数になるだろう。


 私は普段の私服に近いものをみつけると、それを着た。そしてリボンで髪を結んだ。今日はポニーテールだ。


 身支度が終わると、私は一階に下りて昨日教わったキッチンに向かった。


「ディルトさん、手伝います」

「それは助かる。依乃理は寝起きがよくていいな。ルークにも見習わせたいが……そこまでして直すものでもないしな」


 確かに、ルークの姿が見えない。


「ルークは、朝弱いんですか?」

「ああ、それはそれは弱くてな。おかげで朝食は僕の担当だ」


 ここでは、食事を作るのは当番制らしい。


「無理に起こすとひっかかれるからなぁ……」


 本当にひっかかれるのか、単なる比喩かはわからない。ディルトさんがやたらと冗談めいた話し方をしたせいだ。

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