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正反対の案内人

 私はディルトさんにもらったリボンで、右側の髪を一束三編みにして結んだ。顔の下あたりで、赤いリボンが揺れる。


「それで、どうしましょう? これからお世話になるんですし、何か手伝いとか……した方がいいですか?」

「おや。気持ちはうれしいのだが、今日はもう休むといい。そうだな……ついでに家の中を案内するべきではないか? ここの居候となるのだからな。なあ、ルークもそう思うだろう?」


 立ち上がったディルトさんは、ルークさんに同意を求める。


 どれくらいの期間かは知らないが、ルークさんは、ディルトさんとそれなりに長い付き合い。こういうことに振り回されることも多かっただろう。


 面倒なら面倒だと、あっさり突き放しそうだ。


「はい。部屋は知っておいてもらった方が、都合がいいんじゃないですか」


 予想はさらっと裏切られた。


 私が原因の面倒事なのに。意外と、彼に嫌われてはいないのだろうか。同じ家で生活する以上は、あまり悪い関係にはなりたくない。


「間違えて部屋に入られたりしたら、たまりませんから。見るからに間が抜けていそうな顔してますし」


 単なる縄張り意識だったようだ。しかも、何気に人を馬鹿にしてきた。


 でも、これから一緒にいることになるのだ。ディルトさんはともかく、ルークさんとのこの関係は大丈夫だろうか。


 早くも少し不安だ。


「おいで、依乃理」

「ぐずぐずするなよ。さっきから、忙しいって言ってるだろ」


 ドアの前で、それぞれに私を呼ぶこれからの同居人。呼ばれたのなら、行かないと。置いていかれる前に。忘れられてしまう前に。


 私はソファから立ち上がり、ドアに駆け寄った。


「案内、お願いしますっ」


 ドアの先の廊下は、人が二人並んで歩けるほどの広さ。ディルトさんとルークが前を歩いて、先導してくれる。


「そういえば、『忙しい』って言ってましたよね。何かしてたんですか?」


 案内をしてくれるディルトさんの声が途切れたタイミング、つまりは二階に行くために階段を上りながら。


 もし邪魔してしまったらごめんなさいと付け足し、私はルークさんにそう訊ねてみた。


「さんはいらない、敬語も使わないで。君、俺と同じくらいの年みたいだし。そんな人に敬語使われるの、気持ち悪い」


 敬語で話されるのが苦手な人もいるらしい。あくまで礼儀で使っていたので、本人が断るなら次からは止めよう。名前の方は、くん付けあたりが妥当だろうか。


 そこまで考えた私が口を開くより先に、条件を追加された。


「呼び捨てでいい。それ以外は返事してやらないから、覚えておいて」

「うん。わかった」


 返事をしてもらえないのは困る。気をつけるようにしよう。


「ルーク、お嬢さんには優しく接しなさいと、いつも言っているじゃないか」

「俺は先生と違って無愛想なんで」


 開き直った。確かにディルトさんは愛想がいい。というよりはお人好し、となるだろうが。とにかく、人当たりがいいのだ。そんなディルトさんと比べてしまうと、ルークは余計に無愛想に感じられてしまうだろう。


「まったく、ルークは……」


 ディルトさんは、飼い猫がいつまで経ってもなつかない。とでも言いたげだ。でも私には、二人は年の離れた兄弟のような関係に見える。


「ここが君の部屋だ。向かいは僕、隣はルークだ」


 二階にあった部屋は四つ。家の大きさから考えると少なく思えたのだが、中を見て納得した。一つ一つの部屋が広いため、その数なのだ。


「自分の場所だと思って、ゆっくりするといい」

「騒いだりしたら、すぐに怒鳴り込みに行ってあげるからね」


 ルークさんのセリフに苦笑いで返し、ディルトさんの言葉に甘えることにして、私は部屋で休ませてもらうことにした。


 ここに来たときは沈む寸前だった太陽は、今やすっかり沈み外は真っ暗になっている。霧の森とは正反対の色だ。

 そのせいか、ベッドに寝転がると眠気が襲ってきて気づけば私は眠りに落ちていた。

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