両天秤の決断は
約束――というほどのものではないが、大事な『一週間後の日』になった。
私はルークと両想いになったものの、変わったところと言えば一緒にいる時間が増えたくらいだ。それでも私にとっては嬉しいことだったが。
ルークは奥手なのか、手を繋ぐだけでもとても幸せそうな笑顔を見せる。きっと、大切にされているからだと思う。
「ディルトさん」
「決めたのだな、依乃理。さあ、君の答えは?」
そう。私はちゃんと決めた。
こんな時でも、ディルトさんはわかってくれている。その上で、私の口から言わせてくれるのだ。親切な人だ。最初から、最後まで。
「帰ります、私。今までお世話になりました。本当に、ありがとうございました」
深く礼をする。最後まで私は、言葉以外の何も返せないままだった。いや、ディルトさんのしてくれたことを思えば、言葉も足りないくらいなのだ。
「……僕を朝早くに呼び出したあたりで、わかってはいた」
でも、何も言わないでくれた。私にも、ルークにも。
「理由を、聞いてもいいか?」
「……もうすぐ転校してしまう友達と、喧嘩してしまったんです。たった一人の親友でした。仲直りしないと」
正直、そんなことのためにと思われるような理由だ。しかし私は、忘れ去ることができなかった。どうしても気掛かりだったのだ。
彼女は明るくて、友達も多かった。でも、私が一番信頼している親友だと言ってくれた。明るいけれど、実は寂しがり屋で傷つきやすくて。
「だから、帰らなきゃ」
全部忘れて、ここに残ることはできない。
私はただそれだけのために、私を好きだと言ってくれた人の手を振り払う。
「……そうか」
「はい」
「では、な。依乃理」
もう一度頭を下げてから、濃い霧がかかる森へ私は踏み出した。
後ろは振り返らない。そう決めていた。たぶんあの人に引き留められたら、私の足は止まってしまうから。
「依乃理ーっ!」
「……っ。ルーク……!」
しばらく進んでいたから、届いた声は小さい。だけど、聞き間違えるはずがない。大好きな人の声なのだから。
「依乃理ー!」
「ルーク、ごめん……っ!」
私は駆け出す。涙も、好きな人の声さえも振り払って。
出口はもうすぐそこだ。なのに、涙だけが止まらない。声も、聞こえないほど遠くに置いてきたのに。
その時、結んでいたリボンが輝きだした。ほどいて手に乗せて見ていると、小さい花が色とりどりに咲き乱れる。ルークがしてくれた細工だ。
「ごめん、ごめんね……っ」
子供のように泣きじゃくる私の胸元でも、ディルトさんとルークとの思い出が揺れている。シャラシャラと音をたてて、その存在を主張するのだ。
森の出口。振り返っても、もう霧は晴れていた。




