呼ばれた名前に想うこと
窓から見た夜空が綺麗で、考え事もまとまりそうだと思いながら私は外に出た。
風が吹いて、森の木々が枝を揺らす。
「……こんな遅くに、何してるの」
玄関のドアが開いて、ルークが私の隣に来た。歩くたびに揺れる鈴の音で、どこまで近づいたかが見なくてもわかる。
空から視線をずらし、ルークの方を向いた。
「星見てただけだよ。月も出てるから明るいし、家からもそんなに離れてないでしょ」
「本当に、それだけ?」
今までで一番近く、目の前でじっと見つめられる。猫が相手を、敵か味方か判断しようとするように。
「違う。そうじゃなくて……!」
「え……っ」
不意に、ぎゅうっと抱きしめられた。
私はルークの腕の中、混乱して慌てることしかできない。
「消えるかと、思った……。あんたは確かに見えてるのに、それは姿だけで、触れないのかって」
だから衝動的に私を抱きしめ、触れることができるのを確認したことでルークは少しほっとしたようだ。
「私ちゃんと、ここにいるよ?」
今この場にいると言うことはできても、それ以上のことを断言はできない。そしてルークの欲しい答えもこれじゃないことをわかっていた。それもあって、私は何も言えない。
「帰るなよ」
ごめん。まだ迷ってるの。
「ここにいてよ」
せがまれるように。なのにその腕は、女である私がいつでも振りほどけるほどに、力が込められていない。まるで迷子の子供だ。
「行かないで、依乃理」
「……! ルーク……」
初めて、名前で呼ばれた。胸がほんわりあったかくなる。たったそれだけのことなのに、こんなに嬉しいのは……。
「好きなんだ。俺は、依乃理のことが好きだ」
抱きしめられていて距離が近いからか、ルークに触れているすべてが暖かい。
こちらを選べば、私はきっとずっとこのぬくもりに包まれて、日々を過ごすことができるのだろう。守られて愛されて、幸せに。
「私も好きだよ、ルーク」
そっと呟く。
ルークのおかげで、私自身どうしたいかが決まった。
「依乃理……!」
あたりまえのように、名前で呼ぶ声。大切で儚いものに対するみたいに、優しく抱きしめる腕。
私も、全部大好きだ。




