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五章―12話

(違う。惺壽がそんなことするわけない)

 瞬時にそんな考えを打ち消した。

 あるはずがないのだ。

 復讐とはいえ、惺壽がそんな陰湿な方法を取るなど。

(だいたい、惺壽が復讐なんてことにやる気を出すとも思えないし)

 いくら策略に嵌められたとはいえ、彼にとって沼垂主は、耳元を飛び回る羽虫に等しい存在だ。そして彼は、そんな羽虫に関心を向けるような性格でない。


「沼垂主どのが、惺壽と鈿女君のことで嫉妬をしている、と言っていたね」

 梛雉の問いかけに、乙葉は慌てて頷いた。

「そう。だから、中乃国に戻る協力をしないって言ってるの。……あ、でも、梛雉にいきなりそんなこと言っても意味が分からないわよね」

 梛雉は、乙葉が天乃原に来た経緯をまだ知らないかもしれない。

 説明もせずにただ沼垂主がの嫉妬のせいで中乃国に戻れないと言っても、意味が分からないだろう。

「騎獣探しの件は私も聞いているよ。巻き込まれて災難だったね」

 慌てた乙葉を余所に、だが梛雉はにっこり言ったのだった。

(惺壽に聞いたのかしら。それにしても、いつ?)

 乙葉が知らないだけで、わりと彼らは顔を合わせているのだろうか。


「ところで、乙葉嬢。中乃国へ戻る協力をお願いしたいのなら、沼垂主どのとゆっくり話をしてみてはどうだい?」

 梛雉が思案気に首を傾る。

「もちろん話をしようとはしたわ。でも全然聞く耳を持たないのよ、あの蛙ってば。……それくらい惺壽に恨みがあるんだろうけど……」

「君さえよければ、私が、沼垂主どのの許にご案内するけれど」

「……梛雉が?」

「沼垂主どのはとにかく惺壽が絡むと色々と情熱的になる方だからね」

「ああ……たしかに……」

 梛雉の端的な説明に、曖昧に頷く。


(たしかに、惺壽じゃなくて梛雉と一緒なら、沼垂主ももうちょっと落ち着いて話をする気になるかもしれない)

 沼垂主を説得するのに、仇敵のような惺壽と同行するのは無謀なのだ。 

 その点、梛雉は交渉役や仲裁役には向いているだろう。

 言葉も巧みだし、なにしろ人当たりがいい。


「じゃあ……お願いしよう、かしら」

 ぽつりと言い、窺うように上目に見上げる。

 月光の中、梛雉はいかにも嬉しそうに微笑んだのだった。

「任せて。私の背で大切に運ぶよ」

「久しぶりね。梛雉の背中に乗せてもらうの」

 鳳凰姿の彼の背に乗ったのは、乙葉が天乃原に来た直後の一回だけだ。

 あの時の、羽毛の極上の触り心地は今でも忘れられない。

 沼垂主の許に運んでもらうのなら、その間、彼の天鵞絨のような毛並みも触り放題だ。


いつもありがとうございます。

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