序章
和風異世界トリップです。
元気のいいツンデレ美少女と恋愛経験豊富な大人男子の攻防戦、ぜひお楽しみください。読みやすい物語をモットーに、にやにやしてもらえるよう頑張ります!
序章
さわさわと頭上に葉擦れの音が響く。
おもむろに瞼を押し上げると、澄んだ水鏡に反射する陽光に瞳を射られた。
岸辺に立つ彼の足元では、白い花が二、三輪、ゆらゆらと水面を揺蕩っている。
可憐な花だ。小ぶりだが、精一杯開かれた純白の花びらに、いくつもの透き通った水の雫を乗せている。惜しげもない陽を浴びて咲き誇る姿は、気持ちよさげに背伸びをしているようにも見えた。
ふと瞳を細めた彼の耳に、背後から、馴染み深い声が話しかける。
「まだこんなところで油を売っていたの。そろそろお役目を果たしにいかないと、また大目玉を食らってしまうんじゃないのかい」
「そう急かされては、せっかく起きた気も萎えそうだ」
彼は背後の人物に背を向けたまま、飄々と肩を竦めて見せた。
すると聞こえよがしに、笑い半分の溜め息が響く。
「まったく君は変わらないね。そのへそ曲がりぶりには手を焼かされるよ。……ああ、そういえば、あの御方。懲りずにまたなにかを画策し始めたようだよ。どうする?」
「さて、俺には関わりのないことだが。……放っておいたことろで大事はあるまい」
「そう言うと思った。……さあ、いい加減、出かけたらどうなんだい。気が萎えるなんて言いながら、君がこのお役目を放り出すはずないってことは、ちゃんと分かっているんだから」
彼は再び軽く肩を竦めた。
知ったような口を利かれるのは好みでない。
背後の人物もそれを分かっているはずだが、敢えて口にするのは生来の性質だろう。
だが無言の嫌味は通じたらしく、くすりと笑い声が落ちる。
「私もこれでお暇するよ。――御機嫌よう、悪友どの。あとで、ちゃんと君が責務を果たしに行ったか、ちゃんと確認しに来るからね?」
歌うように言い残し、重たい羽音が響いた。
一人その場にとり残された彼は、再び、足元でぷかぷかと浮き沈みを繰り返す白い小花を眺める。
(逐一見張られるのも面倒だ)
そろそろ出かけようか。